昨年12月26日、国際捕鯨委員会からの脱退を表明し2019年7月より商業捕鯨を再開すると発表した日本政府。この決定については国内外を問わず賛否両論喧しい状況となっていますが、鯨肉消費量が減る一方の現在、そもそもなぜ日本は捕鯨をし続けるのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著者で世界的エンジニアとして知られる中島聡さんがある記事を紹介しつつ、原発やスパコン事業と同根的とも言える「捕鯨から容易に撤退できない理由」を記しています。

私の目に止まった記事

● 日本とクジラ なぜ日本は捕鯨をするのか

2016年の記事ですが、日本がIWCを脱退することを決めた今、もう一度読む価値があると思い、紹介します。特に注目すべきは以下の部分です。

前出の佐久間さんは、日本の捕鯨は政府が行っていて、研究予算や毎年の計画、出世や年金がかかった官僚の大きな構造が作り上げられているのが理由だと考えている。

 

佐久間さんは、「官僚は自分がトップを務めている間に担当者が削減されたりするのは、非常に恥ずかしいことだと思う」と指摘する。

 

「そのため官僚はほぼ全員、捕鯨関連の部署をどんなことをしても維持しようとする。政治家もそうだ。自分の選挙区が捕鯨と強いつながりのある場所なら、商業捕鯨の再開を約束するだろう。議席を守るために」

 

とても陳腐に聞こえるかもしれない。しかし、日本が捕鯨を続ける決意が固いのは、捕鯨関係者が多い選挙区から選出された数人の国会議員と、予算を失いたくない数百人の官僚たちのせいと言えるかもしれないのだ。

これと全く同じことが(行き詰まっている)原子力発電や(時代遅れの)スパコン事業にも言えると思います。一旦、「国家プロジェクト」としてスタートしてしまうと、作られた特殊法人(=天下り法人)やそのプロジェクトに強く依存する事業者が出来てしまうため、霞が関の担当役人や特殊法人そのものが「辞めましょう」とは言えない空気が出来てしまうのです。

痛みを伴う「勇気ある撤退」には政治家のリーダーシップが不可欠ですが、当事者意識を持って大きい声を上げるのは、いわゆる地元の事業者や支援団体との強いしがらみのある族議員だけなので、結局のところ、辞められなくなってしまうのが日本の現状です。

ちなみに、鯨の需要は大幅に減っており、調査捕鯨の名目で捕獲された鯨の肉は市場でセリにかけても3分の1しか落札されず、残りは売れ残ってしまうそうです。それが地元の小学校で給食として提供されているそうですが、鯨の肉には大量の水銀が含まれており(参照:鯨由来食品のPCB・水銀の汚染実態調査結果について)、それを成長期の小学生の食べさせるのは非常に危険です。

たとえば、前ページの資料によると、北大西洋で獲れるマッコウクジラの筋肉には、平均で0.7ppm(0.7mg/kg)のメチル水銀が含まれています。厚生労働省の「魚介類等に含まれるメチル水銀を考える」という資料によると、子供の耐容摂取量は0.07mg/週なので、1週間に鯨肉を100グラム食べただけで、耐容摂取量を超えてしまうことになります。

厚生労働省発表の資料より

ちなみに、映画『ザ・コーブ』で学校給食で提供されていることを指摘されたバンドウイルカは、マッコウクジラの約10倍のメチル水銀を含んでいるため、わずか10グラム強で耐容摂取量を超えてしまいます。

ちなみに、厚生省が定めている魚介類のメチル水銀の暫定規制値は0.3ppmで、それ以上のものは流通させないことになっているはずです。しかし、なぜか規制値が鯨やイルカに関しては、適用されず、かつ、学校給食の食材として提供されているのが現状です。

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