自転車の施錠を条例で義務化する自治体が増えています。盗難された自転車の多くが無施錠であることから、その発生を防ぐために導入されていますが、「義務化」によって何が変わるのでしょうか。

義務といえど罰則なし その目的は

 東京都葛飾区で2018年8月から条例の一部が改正され、自転車の施錠が義務化されました。


鍵をかけた自転車のイメージ(画像:poko42/123RF)。

 区はウェブサイトで、「一人ひとりが『自分の自転車は自分で守る』という防犯意識を持ち、自転車には必ず鍵をかけて、盗まれないようにしましょう」としています。「義務化」によって何が変わるのか、区の交通安全対策係に聞きました。

――なぜ自転車の施錠を義務化したのでしょうか?

 まず、区内における犯罪認知件数のうち、自転車盗が約44%と高い割合を占めていること、そして区域が平坦なため、自転車の利用者も多いことが挙げられます。盗難車のおよそ6割は、鍵のかかっていない自転車ですので、件数を減らすには鍵かけが最も有効なのです。

――義務化によって何が変わるのでしょうか?

 義務化といっても罰則などは特にありません。条例を改正して義務化をうたい、広報し、区民の方に施錠の認識を強く持っていただくことが目的です。主要な駅前や大型商業施設でキャンペーンを行っているほか、区営駐輪場や販売店などに掲出した横断幕やポスター、チラシなどを通じて周知しています。

――鍵を壊して盗むケースは少ないのでしょうか?

 そのような計画的な犯行は高級自転車で該当しますが、多くの場合は、「駅までいきたいから」といった安易な理由で盗まれますので、鍵かけによってそれを防ぐことできるのです。さらなる予防策のため、二重ロックの啓発なども行っていきます。

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 葛飾区によると、自転車盗難に遭った場所の1位は「自宅」、2位は「駐輪場」だそうです。「自宅だからといって鍵をかけず、マンションなどの駐輪場で被害に遭うケースも多いです。区営の駐輪場などで見られる収納ラックも、自転車を収めれば『ガチャ』っと音がしますが、自転車の鍵をかけていないと、ラックから自転車を引き出して盗めてしまいます」とのこと。そのようなちょっとした油断をなくしていきたいといいます。

「重大犯罪を水際で防ぐ」 施錠義務化で劇的効果も

 葛飾区では、今回の施錠義務化によって被害件数をどれほど減らすかといった数値目標はないそうですが、同区に先立ち2018年1月から施錠を義務化した隣の足立区では、大きな実績を上げているそうです。

自転車盗の認知件数は、2017年1〜6月に763件だったのが、2018年同期には37.9%減の466件となり、区内の犯罪認知件数のうち4割を占めていたのが3割になりました。足立区は2017年の犯罪認知件数が東京23区でワースト1位でしたが、これもワースト6位まで改善しています」(足立区交通対策課)

 足立区では施錠義務化にともない、商業施設などの定期巡回を強化。パトロール要員が無施錠の自転車に警告札をつけたり、持ち主に声を掛けたりしているほか、「愛錠(あいじょう)ロック」と称して無施錠の自転車にカギをかけ、商業施設から出てきた持ち主に本人確認のうえ開錠し、カギをプレゼントするといったことも行っているそうです。


足立区における自転車の施錠義務化を告知するポスターのイメージ(画像:足立区)。

 このような自転車の施錠を全国で初めて義務化したのは滋賀県草津市で、2014年のこと。その前年にあたる2013年の自転車盗認知件数は約700件と県下最悪だったのが、年々減り、2017年には300件余りになったそうです。しかし、全体の犯罪認知件数が下がっていることもあり、率で見れば、自転車盗がいまだ4分の1を占めているといいます。

自転車盗は万引きなどと同様に軽犯罪とされますが、こうした軽犯罪が総犯罪件数を底上げしているうえに、より重大な犯罪へとつながっていく恐れがあります。それを水際で防ぐ意味でも、自転車の鍵かけが重要です」(草津市危機管理課)

 草津市でも、係員が定期的に商業施設などを巡回し、鍵かけの声掛けを行うほか、施設ごとに無施錠自転車の数を数えているといいます。学生を中心に、商業施設で短時間その場を離れるときに、鍵をかけないケースが多いとのこと。市ではウェブサイトで、自転車盗難多発場所ワーストランキングを公開しています。

【図】自宅が一番盗まれる? 都内の自転車盗発生件数と発生場所


上が東京都内における自転車盗難認知件数の推移。2017年には、57.2%が無施錠で被害に遭っている(警視庁の資料をもとに乗りものニュース編集部作成)。