のじまさん(写真奥)とカードゲームを楽しむ子どもたち

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 日本では、幼い子どもたちへの性教育がタブー視される一方、「性」に関する正しい知識を持たない子どもが性犯罪の被害に遭う事件が後を絶ちません。こうした現状を変えようと、幼児期からカードゲームなどを使用し、性の知識を教える取り組みが東京都内で始まりました。どのような取り組みなのか、現場を訪ねました。

「水着で隠すのは、自分の大事な場所」

 幼児期からの性教育に取り組んでいるのは、幼児などへの教育事業を展開する「Terakoya Kids」(東京都台東区)が新設した施設「Terakoya Annex(テラコヤ アネックス)」(同区)です。「テラコヤ アネックス」は、保育所や学童保育の機能のほか、社会について実学を通じて学ぶ“新しい学び舎(や)”をコンセプトとして7月20日にオープンしました。性教育の授業は、特別プログラムの一環として実施しています。

 性教育の授業は7月24日に初めて実施し、講師は看護師資格も持つ、のじまなみさん。のじまさんは、子どもへの性教育の大切さを伝える団体「とにかく明るい性教育 パンツの教室協会」代表理事でもあります。当日は、4〜10歳の子どもたち10人が参加しました。

 ゲームのカードには、メダカやイルカ、カタツムリ、キリン、ゾウなど17種類の生き物のイラストが描かれ、それぞれ「オス」「メス」「交尾」(人間は「男性」「女性」「性交」)の3種類があります。カードを引いて同じ生き物の3種類を集めれば高得点になり、集まったら「受精!」と大きな声で叫ぶルールです。「交尾」のカードには、それぞれの生き物が交尾する様子が描かれ、イラストを見ながら、どのように子どもを作るのかが自然と身につきます。

 最初は少し恥ずかしそうにしていた子どもたちも、徐々に慣れてゲームを楽しむように。ゲーム後、のじまさんは「水着で隠す部分は大事なところ。自分で自分の身を守るようにしてほしい」と語りかけ、歌に合わせて子どもたちと「隠す部分」に触れるリズム体操をしました。

 子どもたちを対象にした性教育を始めたきっかけと、カードゲームを採用した理由を、のじまさんに聞きました。

性犯罪から守るために、幼少期から

Q.子どもたちへの性教育を始めたきっかけは。

のじまさん「ある時、長女と次女がインターネットでエッチな動画を見て、キャーキャー言っているのに気付きました。今どきの子どもはエッチな情報を自分で簡単に見つけることができます。『誰も歯止めをかけられない』と不安に感じたことが、1つ目の理由です。

もう一つは、子どもが巻き込まれる性犯罪があまりにも多いからです。『知らない人についていってはダメ』と注意するだけでは、なぜダメなのか、ついていったら何をされる恐れがあるかが分からず、理解できないのではと考えました。『何をされるのか』を子どもがイメージできれば、自分の身を自分で守ることにつながると考えました」

Q.子どもたちは、性に関する情報を簡単に入手しているのですか。

のじまさん「親に『スマートフォンやタブレット端末のフィルタリングを何歳になったらかけますか』と尋ねた調査で、『中学生以上』と回答した親が5割で『小学生』はわずか2割でした。『うちの子は大丈夫』とか『うちの子だけはそういうことはあり得ない』と思っている親が多いのです。

『見てはダメ』とエッチな情報を遮断しても、インターネットの時代に育った子どもたちは、何らかの方法で抜け穴を見つけます。それならば、性について良いこと、悪いことを早く伝えてあげるべきです」

Q.そうした背景から、幼少期からの性教育が必要と考えるのですね。

のじまさん「10歳ごろになると、性について話す時に少し照れが入ってきます。でも、4歳くらいの子どもは素直に受け止めます。性犯罪は、小さな子どもほど狙われやすい面もあるので、幼い頃から教える必要があります。性をタブー視していると、何かあった時に子どもが親に相談できないということもあります」

Q.日本では、幼い子どもへの性教育には否定的な声が多いようです。

のじまさん「ある程度の年齢にならないと、性について分からないだろうというのが日本の考え方ですが、海外は異なります。日本は性産業が盛んですが、性教育は世界で一番遅れています」

Q.教え方が難しいのでは。

のじまさん「親自身も性をどのように教えるか習っていないので、教えられないのは当たり前です。国公立の学校では小学4年〜中学に性教育を行いますが、『セックス』『性交』という言葉を使ってはいけないとされており、学校側もどう教えたらよいのか困っています。インターネットやSNSを止めることはできない、学校を変えるにも時間がかかる、そうだとすれば、家庭で教えることが一番現実的だと思います」

「命の始まりの行為」ゲームで学ぶ

Q.性教育のカードゲームを考案した理由は。

のじまさん「子どもたちが分かりやすく学べるようにするためです。親は、ひとっ飛びで『セックス』の話に持っていきがちです。段階を追うにはどうすればよいかを考えて、子どもたちが好きな動物に着目しました。動物も人間も交尾や性交をして命をバトンでつないできたのだから、まずはここを遊びながら楽しく伝えようと思い、ゲームを考案しました」

Q.カードゲームのポイントを教えてください。

のじまさん「カードがそろうと『受精!』と叫ぶルールです。『受精』という言葉が口にできるようになると『じゃあ、受精ってなぁに』『交尾ってなぁに』という話ができるようになります。口にすること、言い慣れることで、まずは『性の話は恥ずかしい』という意識を取り除いてあげることが大事です。

カードゲームを通じて子どもたちは、生き物には『命の始まりの行為』があり、それは決して恥ずかしいことではないと知ります。親にもゲームを体験してもらい、『交尾』『受精』『性交』という言葉を難なく言えるようになってもらいます。そうすると、セックスまでの話ができ、セックスの話ができて初めて、『愛し愛されてあなたが生まれたんだよ』という話や性感染症の話、性犯罪から身を守る話など、親が言いたいことを話せるようになると思うのです」

Q.カードゲームがない場合、どのように段階を追っていけばよいですか。

のじまさん「一番話しやすいのは、お風呂場です。裸で入るので異性の体の違いも話せます。その時に、お風呂場でパンツを洗うことをきっかけとして、性の話をしてほしいのです。例えば、男の子であれば、将来的に精通が起きてパンツを汚すこともあるかもしれません。でも、それは『大人の男の人になった証しなんだよ、楽しみだね』と言えば、素直に聞いてくれます」

Q.パンツを洗うのも、子どもが幼い頃からした方がよいのですか。

のじまさん「1回で終わらせるのではなく、積み重ねと習慣が大事です。親は1年言わなかったら、照れが逆戻りするし、子どもも忘れてしまいます。早いから分からない、早いからできない、早いから恥ずかしいというのは、親の勝手。早ければ早いほど、子どもは性をいやらしいものだとか、汚らしいものだとか、マイナスのイメージで捉えません」

Q.講演の依頼も多いそうですね。

のじまさん「小学校や子育て団体などから依頼が後を絶ちません。それだけ、性教育について悩んでいるお母さんが多いのだと思います。1回の講演に数百人が集まります。教科書に書かれている性教育でなく、自分にもできる性教育を聞きたいのだと思います」

Q.今後、日本の性教育はどのようになればよいですか。

のじまさん「将来的に学校と家庭が連携して性教育ができれば、こんなに心強いことはありません。しかし、学校が変わるには時間がかかります。そこで、まずは家庭から始め、家庭が変わることで学校も変わっていければ、と思っています」