PLで見る"リンガーハット"大赤字の裏側

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あなたは予算書・決算書を正しく理解できているだろうか。「プレジデント」(2018年3月19日号)の特集「会社の数字、お金のカラクリ」では、そのポイントを8つのパートにわけて解説した。第5回は「赤字好転の兆候」について――。

■あえて膿を出し切る赤字もある

ひとたび赤字に陥ってしまうと黒字化は容易なことではありません。なぜなら、従来の収益構造を抜本的に見直す必要があるからです。赤字事業が好転する兆候を掴むには、それまでの赤字の原因にどんな打開策を講じているかを調べるべきです。

実例として、長崎ちゃんぽんで有名なリンガーハットの「復活劇」を挙げてみます。同社は、2005年に創業家の米濱和英氏が会長に退き、日本マクドナルド元社長の八木康行氏が社長に就任しました。デフレにより外食業界が低価格競争を繰り広げる中、原材料高を理由に06年に値上げ、客数は激しく落ち込み、割引クーポンによる集客を試みるも失敗。業績悪化の責任を取り、八木氏は08年9月に降板し、米濱氏が会長兼社長で復帰しました。

米濱氏は割引クーポンを廃止、国産野菜100%採用を宣言し、その代表的なメニューとして「野菜たっぷりちゃんぽん」を投入しました。デフレの中、あえて高品質を打ち出し、値上げを断行したのです。

09年2月期の連結決算は売上高が前期比3.3%減、営業利益は同比71.8%減、純損失は24.3億円と、上場以来最大の赤字になりました。しかし、損益計算書を見ると、かなりの特別損失を計上したための大赤字だったことがわかります。米濱氏にしてみれば「この期のうちに膿を出し切ってしまおう」という決断をしたのでしょう。

■24億円の純損失は「将来を見据えた赤字」

具体的には、減損損失、店舗閉鎖損失、店舗閉鎖損失引当金繰入額、投資有価証券評価損などがあり、特別損失の合計は約21.1億円に上ります。これらは、会計上、計上されたもので、資金の支出はありません。そのため、キャッシュフローとしてはプラスになります。その意味で、24億円あまりの純損失は「将来を見据えた赤字」といえます。

10年2月期の決算では、売上高こそ苦戦したものの、営業利益は大幅に回復、純利益は黒字となりました。構造改革が成功した事例といえます。

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矢島雅己
公認会計士
『決算書はここだけ読もう』(弘文堂)の著者。外資系大手会計事務所などを経て、公認会計士・経理職の転職紹介・派遣・教育を柱とする会社を設立。15年経営し、事業譲渡。

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(公認会計士 矢島 雅己 構成=岡村繁雄 撮影=原 貴彦)