「人と話すこと」にある効果とは?(写真:iryouchin / iStock)

こんにちは。生きやすい人間関係を創る「メンタルアップマネージャⓇ」の大野萌子です。

「5月病」という言葉にも使われている5月に入ります。青い空や青葉、眩しい陽射しの日も増えてくる明るい雰囲気とは裏腹に、心の不調を訴える方が多くなる季節でもあります。年度替わりの変化や忙しさの増す4月の生活環境の中で、蓄積した心身の疲労が表面化する時期です。GWで一息ついたとたん、自分自身の変化に気づく方も多いのではないでしょうか。


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「なんだかやる気が起きない」「気持ちが沈んでいる」「体が重い」というようなことを感じるようになってから初めて「あれ、こんなに疲れてた?」と自覚することもあるかと思います。これが進んでしまうと、もう「何もしたくない」「誰とも会いたくない」と悪循環に陥りますので、少しでもこのような状態に気づいたら、ダメージが大きくならないうちに、やっていただきたいことがあります。

「人と話すこと」が大事

たかが話すことと思う方も多いかと思いますが「されど話すこと」なのです。

カウンセリングをしていると、不調の回復に時間がかかる方々に「話す場」を持たない方が圧倒的に多くいます。単身世帯であったり、交友関係が少ない、趣味の集まりや何かしらのコミュニティに参加することもなく、そもそも人と直接話をする場がほとんどない方です。

実際、日本の自殺者の割合は約70%が男性で、いろいろな原因はあるにせよ、1つには、やはり男性のほうが話をする機会が少ないということが挙げられます。自殺者が3万人の大台を超えた1997年ごろから、企業は経費節減を目的として、社員旅行や運動会を廃止したり、忘年会や新年会、歓送迎会などを会費制にするなど(今では当たり前ですが)の措置を講じました。そのような背景によって、職員同士が職場以外でのコミュニケーションを取る場が失われ、さらに景気の悪化と個人主義の流れが重なり、「帰りにちょっと1杯」も激減しました。

馴れ合いを推奨するわけではありません。しかし、相手のことを少しでも知っていれば、メールを送るにしても、電話で問い合わせるにしても気持ちが違います。信頼関係を築きやすく、相談もしやすくなります。警戒心を抱かずに済めば、気軽に確認ができ、すれ違いを防いでいくことも可能なのです。

自分の気持ちをすっきりさせることができる

1日の大半を過ごす職場が業務の報告と連絡しかしないという環境では、自分の思いを話せるわけがありません。そのような環境で人が追いつめられるのは、1つの原因として明らかです。

なぜなら、自分の状況や思いを「話す」ことには、カタルシス効果(浄化作用)があり、「話すこと」によって、自分の気持ちをすっきりさせることができるからなのです。

気持ちは、目に見える形がありません。概念と呼ばれる感覚的なものです。もやもやとした気持ちを人に伝えるときには、当たり前ですが、共通の言葉に置き換えます。「こんなことがあって、こんな気持ちを持った」とか、「こんなことを言われて、こんなことを考えた」などという具合にです。

自分の中で、言葉に置き換えて、相手に伝わるように話すというプロセスが、自分で自分の漠然とした気持ちを整理することにつながります。話しながら、自分の気持ちが整理されていくわけです。その繰り返しが、心の安定を生み、癒しをもたらします。

いきなり、深い悩みを打ち明けたり、無理に相談する必要はありません。反対にこんなこと話さなければよかったという後悔を持ってしまうこともあるかと思いますので、日常に起こった出来事や、それに伴う気持ちを気軽に話せる場を持つことが大切です。

浅いところから徐々に話すと、話しをすべき相手と配分がわかるようになります。まずは、職場でちょっと気になったことを気軽に相談できたり、日々、抱いた思いを話せる場を持てるといいですね。

話すことによって、自分の気持ちが明確になり、自分でも気づかなかった思いを発見したり、違う思いが湧き上がってくることもあります。

それにより、自己理解が深まり、自分の価値観もハッキリしてきます。実は何かを決めるときに、その価値観は非常に重要な役目を果たすのです。

あなたはどちらのタイプ?

人生は、選択の連続です。人からのお誘いに応じるか否かといったことから、大きな決断までさまざまなことが日々繰り返されます。最終的に何かを決めるのは自分自身です。決断の方法によってもストレスのかかり具合が違ってきます。

あなたは、初めての場所に行こうとするとき、どのような対応をすることが多いでしょうか。

たとえば、電車を降りて、知らない場所へ行くことを想像してみてください。西口を出ればよいという情報があった場合、まず、駅の案内板を探して確認するタイプでしょうか? それとも駅員さんに「西口はどっちですか?」と聞くタイプでしょうか?

改札口を出た後、目印となるランドマークを探すのに、スマホの地図を検索するタイプでしょうか? 道行く人に尋ねるタイプでしょうか?

いずれも、前者は内向的、後者は外向的の特徴があります。

内向的とは、内気という意味ではありません。主観が優勢なタイプを指します。内省が得意でもあるので、何かを決断したりするときに、自分1人で考える時間が必要です。人に何かを言われると、その場では合わせてしまう傾向を持ち合わせていることもあるので、そのような状況で判断すると、後で後悔することも少なくありません。気持ちの整理や情報や知識を得るために人との関わりを必要としても、大切な決断は、自分自身に向き合って出しましょう。

反対に、外向的な人は、客観が優勢です。適応能力に優れ、外からの情報を取り込みながら自分の場所を確認していくタイプですので、1人で悶々としているよりは、人と話す中で、自分の本心を発見できます。人の意見に同意したり、反発したりしながら、自分の意思を確立していく傾向があるので、人と関わりを持つこと自体が突破口になります。

自分の意思で決めたという自覚のあることは、後悔する頻度が低くなり、ストレス軽減につながります。どちらの傾向が強いか自分自身を知ることによって、判断するときの参考にしてください。

気持ちが落ち込みがちな方はもとより、そうでない方も、まずは身近な人との気軽な会話を積極的に取り入れることで、心の浄化につなげていただけたらと願います。