医学博士●加藤俊徳氏

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片付けられない人かどうかは、脳の画像を見ただけでわかる――。脳科学者はそう話す。では、そんな「欠点」を直す方法はあるのか。脳科学者と心理学者に「『ダメな自分』を5分で変える方法」を聞いた――。(全5回)

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2016年10月3日号)の特集「毎日が楽しくなる脳内革命」を再編集したものです。

■脳科学者「汚部屋の住人はスマホの使いすぎ」

床には脱ぎ捨てた靴下が散乱し、歯磨きチューブのフタさえ閉めていない……。医学博士(脳科学者)の加藤俊徳先生によれば、そんなだらしない人が激増しているという。

「片付けられない人かそうでないかは、脳の画像を見ただけでわかります。後頭部の右側、つまり右脳の視覚系脳番地が白っぽく映し出されているなら、汚部屋の住人だと思って間違いない」

つまり片付けられないということは、自分が今いる空間を見て、そこがどのような状態にあるかを認識する能力が低下しているということである。もし現状をちゃんと認識できれば、「汚いから掃除しよう」となるはずだ。

加藤先生は、「片付けられない人が増えたのは、IT機器依存、特にスマホの使いすぎが原因です」と断言する。

「混雑した駅のホームなどを歩いていて、人とぶつかることが増えたと思いませんか? 電車のドア脇に立っていて、明らかにほかの乗客の乗り降りの邪魔になっているのに、動こうとしない人も多い。彼らはずっとスマホの小さい画面を凝視しているので、周囲の様子が目に入っていないのです」

歩きスマホをしているわけでもないのに人とぶつかるのは、直前までスマホを見ていたから。注意を向ける範囲が狭いままなので、周囲の情報がうまく脳に入ってこないのだ。このような状態が長く続くと、右脳の視覚系脳番地がどんどん衰えていく。

■「いい奥さん」と結婚した男性の脳は危ない

「今では朝から晩までずっとスマホを見ている人が多い。これはただでさえ左脳偏重に偏っている脳の状態を、みずから悪化させているようなものです」

最近、混雑した場所や狭い廊下などでうまく人とすれ違えなくなったという自覚のある人は要注意だ。

「いちばん危険なのが、いわゆる『いい奥さん』と結婚している男性です。身の回りのことをなんでもやってもらえるので、自分は毎日仕事しかしていない。ということは、脳のほんの一部しか使っていないことになります」

その点、女性は料理や掃除をしたり、子供の様子を見たりと脳の使い方が多岐にわたっているため、高齢者になっても脳の機能が衰えない人が多い。

それでは、どうすれば偏った脳のバランスを回復できるのだろうか。

「まずは着なくなった服を処分しましょう。捨てるのは抵抗があるなら、誰かにあげてもいい」と加藤先生はアドバイスする。

「服にはそれを着ていたころの思い出が詰まっている。そんな服を1着ずつ眺めては取捨選択していると、否応なしに過去を思い出すことになりますから、普段あまり使っていない記憶系脳番地を刺激することになります」

■心理学者提唱の「だらしない自分を変える第一歩」

さらに加藤先生がすすめるのが、ネットやテレビで天気予報をチェックする前に、自分でその日の天気を予測することだ。窓を開けて太陽が照っているか、雲の様子はどうかを見る。湿度や温度を肌で感じとり、傘がいるかどうか判断する。空模様という非言語的な情報を分析するのは、右脳を使う格好のトレーニングだ。自分の目や皮膚で確認することで、ほかの人の意見や文字情報を鵜呑みにしている状態からも解放される。

ほかにも「駅からの帰り道で、いつもと違う角を曲がってみる」「利き手ではないほうの手で歯を磨く」なども、右脳を刺激する方法だ。つまり、ちょっと不便なことや、したことのないことをあえてしてみるのがトレーニングになるのである。

心理学者の諸富祥彦先生はだらしない自分を変える第1歩は、「タスクを細分化し、最初のひとつに手をつけること」だと言う。

「心理学的に言うと、やる気を出すのにいちばんいいのは、少しでいいから実際にやることです。そうすればやる気が出てくる。それをせずに四の五の言い訳をしていても時間がたつだけですから、まずは動くこと。最初の1歩を踏み出すのは大きいエネルギーがいるからこそ、まずやる」

たとえばいつも報告書の提出が遅れるとか、当日ギリギリになってしまうという人は、「締め切り2日前に必ず出す」と決めてしまう。「そうしなければいけない理由」や、「今、自分は報告書を書くのにふさわしい気持ちになっているかどうか」などは一切考えない。

■「ルーズな人」が婚活に成功するためには

「理由や気持ちに目を向けるということ自体、もう逃げてしまっているんですね。僕も掃除が苦手なのですが、『今日はちょっと違うなあ』なんて言っている間にどんどん時間がたってしまう。行動心理学では、気持ちに目を向けるのが間違いだとしています。内面に目を向けず、行動面だけに目を向けるのがコツです」(諸富先生)

まずは作業を細分化して、はじめだけでも手をつけるといい。

「これをスモールステップの原則と言います。『家を全部片付ける』というような大きな目標を立てると、いつまでもできません。『この部屋だけ』とか『机の上だけ』とか、確実にできる小さな目標を決めて実行することです」(同)

できるかできないかわからないような目標を立て、「やはりできなかった」となると、失敗体験を学んでしまう。

「これを『学習性無力感』と言います。報告書の例で言えば、『今回も提出が遅れた』ということになると、『もう自分は期限に間に合わせることのできないルーズな人間なんだ』と無力感を抱いてしまうのです」(同)

それを避けるためにも、考えすぎずにサッと行動することが重要だ。

「よくあるのが、婚活中の人が『そもそも自分は本当に結婚したいのか?』と悩み始めてしまうこと。そういうふうに内面に目を向けてしまうと、際限がありません。そうこうしているうちにどんどん時間がたっていき、ますます結婚が遠ざかっていく」(同)

まずは「合コンに50回行く」というように、自分で目標を立てる。そしてそれを実行することだ。

「結婚ならまだしも、仕事の期限を守るとか、部屋を片付けるというようなシンプルなタスクの場合、そもそも理屈に目を向けるのが間違い。掃除するかしないかというようなことは理屈じゃないですから」(同)

■なぜ「私立大文系型の脳」は問題があるのか

▼理系と文系、どちらの脳が危険か?
医学博士●加藤俊徳

脳を偏って使っている傾向は、大学が国公立大学か私立大学か、専攻が文系か理系かによってもみられます。たとえば、極端に類型化すれば国公立大理系型の人は、研究中心の専門家であまりコミュニケーションをしません。逆に私立大文系型の人は言葉が中心になりますが、こちらは座学をしている時間が多く、動かない、観察しないという側面があります。

どちらも室内こもり系のためどっちもどっちですが、これが50代からの脳のゆがみにかなり影響しています。社会は言葉で動いていますから、左脳化していきますが、国公立大理系型や数学しかやらない人でも、社会に出ればどうしてもコミュニケーション能力が必要になります。そのため、意識して左脳の言語系を鍛える必要があります。

問題なのは、私立大文系型の人です。社会に出てからは、理系の学問で刺激される脳番地を使うチャンスがほとんどなくなります。

自分が得意とする脳番地以外の脳番地を働かせる訓練を意識して行いましょう。

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加藤俊徳
医学博士。加藤プラチナクリニック院長。「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。1万人以上のMRI脳画像とともにその人の生き方を分析する。
 

諸富祥彦
心理学者。明治大学文学部教授。臨床心理士。千葉大学教育学部講師、助教授を経て現職。中高年を中心に仕事、子育て、家庭関係などの悩みに耳を傾けている。
 

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(ライター&エディター 長山 清子)