東京都内のスバルの販売店。無資格検査に伴うリコール対応で現場の負担は増している(記者撮影)

「どういうことか説明してもらえますか」

新車の工場出荷時に行う完成検査での不正発覚を受けて、SUBARUは11月16日に39万5000台のリコールを発表(関連記事「スバルでも無資格検査、30年以上常態化の謎)。その直後の週末、販売店にはユーザーからの問い合わせが相次いでいた。

リコールの対象は、無資格の従業員による不適切な完成検査が行われていた最後の日である今年10月3日から3年9カ月さかのぼって、スバルの国内工場で製造されたすべての車両(車検済みの車両を除く)だ。トヨタ自動車向けに製造している「86」の1万9000台も含まれる。

スバリストからは厳しい声も

大抵の場合、きちんと説明をすれば納得してもらえるが、無資格検査が30年以上も常態化していたことに、「スバリスト」と呼ばれる熱心な顧客の心証は悪い。「2台目、3台目とスバル車を乗り継いできた。今までの車もみんなそうだったのか」と厳しい言葉が飛ぶ。

当初、リコール台数は、完成検査員に任命される前の従業員が完成検査に関与した25万5000台を予定していた。14万台も台数が増えた背景には、一連の不正検査で行われていた「代行押印」がある。研修中の従業員が、資格のある監督者から借りたハンコを、検査を証明する書類に押す行為だ。スバル内部からは、「代行押印が問題となっているかぎり、完成検査員の押印を判断基準にするのではその正当性が担保できない」、との指摘が出た。あらためて精査した結果、対象を拡大することになったのだ。

リコール対応を行うのは販売店だが、現場は逼迫している。スバルの国内販売は好調に推移してきた。今年1〜10月の販売台数は約15万3000台で前年同期比18.7%増。ここ数年、新型車の販売が好調で、車検・修理などでの販売店への入庫台数も増加の一途だ。

そのさなか、2014〜2015年に届け出をしたタカタ製エアバッグのリコールへの対応がのしかかった。スバルは販売店が少ない上、部品供給が間に合っていないこともあり、リコールは思うように進んでいない。国土交通省からも実施率引き上げを求められる中、メーカーも派遣整備士を150人増員するなどの対応をしていたという。しかし今回の完成検査に関するリコールで、販売店への負荷はさらに増えることになってしまった。

全国のスバルの販売店は449店。単純計算しても、今回のリコール分だけで1店舗当たり約800人にダイレクトメールを送り、入庫予約を受けつけなければならない。人手が足りない店舗では、もともと営業スタッフ1人で400人もの顧客を担当しているところもあり、リコール発表後の週末は他の業務に手が回らない状態が続いているという。

さらに厳しいのは整備工場だ。整備士は従来から業界全体として人手不足で、これまでも整備工場の効率化は課題だった。洗車スタッフにアルバイトを雇い、手際のよい整備士がエアバッグのリコールを、ベテランが力や技術のいる仕事を、若い整備士はそれ以外を、という分担で回していた。若い整備士の技術育成にはならないが、この体制でどうにかこなせるようになっていたところだった。


首都圏のスバルの販売店。整備工場は車で埋まっていた。整備の現場も逼迫している(記者撮影)

ある整備士は「今回のリコールも、正直またかという感じです」と話す。9月にも「サンバー」という軽商用車で62万台規模のリコールが出たばかりで、その対応もしているという。スバルの吉永泰之社長は、「販売店について、非常に心配している。整備士と話すと、『頑張るけど、これ以上できませんよ』と不安がっている」と危機感をあらわにする。

ユーザーに5万円出し、入庫時期分散へ

販売店の負担を少しでも減らそうと、スバルも対策を打ち出した。販売店ではリコール対象車のユーザーに対し、法定12カ月・24カ月点検や36カ月の初回車検のタイミングでリコールに必要な点検を同時に行うことを電話や口頭で提案している。リコールはメーカーが国土交通省に届け出た後、1年以内に行う必要があるが、この取り組みで入庫の時期をずらすことができる。法定点検・車検とリコールの点検には重複項目があるため、その分はメーカーが5万円を負担する、という形を取る。

車検に必要な料金は、重量税や自動車損害賠償責任保険料などの法定費用と、実際の点検・整備に必要な費用で分かれている。たとえばスバルの「XV」の場合、ディーラーでは法定費用が約6万3000円、実際の検査にかかる費用は3万〜4万円ほどだ。メーカーからユーザーに振り込まれる5万円は、表向きは重複作業費としているが、実際はユーザーに納得してもらい、円滑なリコール対応に協力してもらうための詫び金である。あるディーラーによると、すぐに対応してほしいというユーザーも一定数いるが、5万円もらえるなら次の点検を待つ、と判断するケースが多いという。

しかしながら、整備工場からは悲鳴が上がる。以前に比べ、時間との闘いがよりシビアになっているからだ。2年ほど前なら、納期に間に合わせるために徹夜で仕事をするということもできた。しかし働き方改革が唱えられる中で、夜10時以降の残業は禁止に。ただでさえギリギリで回している体制の中、同じ時間内で対応するのは非常に厳しい。ある販売店の幹部は「負担は増えているが、目の前のことをやっていくしかない、と整備士たちに話している」と述べる。しかし、こうした状況に不満が高まれば、ただでさえ少ない整備士が辞めてしまうおそれもある。

「リコール後1カ月間がいちばん厳しい」

メーカー側は「お客様が駆け込む最初の1カ月がいちばん厳しい。心が折れないよう、最前線の現場を支えていく」(吉永社長)と、販売店への支援を惜しまない考えだ。とはいえ、200億円のリコール対応費の多くは、リコール自体の工賃(1台当たり2万円)や顧客に対する重複作業費に充てられる見込みだ。整備士増員への投資や販売会社のスタッフへの特別手当など、販売店の負担軽減に向けた対策が求められている。


スバルが今春発売した新型「XV」。無資格検査に伴うリコール対応で現場が繁忙を極める中、好調な国内販売を維持できるかに注目が集まる(撮影:尾形文繁)

新車販売への影響はどうなのか。テレビなどでの広告宣伝を止めているため、新規顧客を取りにくくなっているほか、フェアなどの店頭施策も一部自粛している。11月上旬には解除する予定だったが、12月上旬ごろまで長引く予定だ。スバルの場合、新車の受注から納車まで2カ月ほどかかるため、今年の年末ごろから順次、販売台数にも影響が表れてくる可能性がある。

「安心と愉しさ」というコンセプトを打ち出し、水平対向エンジンやアイサイトに代表される高い機能性を武器に、販売を伸ばしてきたスバル。販売拡大は、顧客と直接かかわる販売店へのシワ寄せをも生んでいた。対処が追いつかないまま、過去に例を見ない規模のリコールに大きく翻弄されている。販売の最前線で余裕がなくなれば、顧客との密なコミュニケーションが不可能になり、スバル車のよさを訴求できなくなるのは自明だ。はたして、この1年で、現場の混乱を収束させることができるのか。