ソフトバンク・大隣憲司【写真:福谷佑介】

写真拡大

球団からは日本S中に戦力外通達「そろそろあるのかなという気持ちはありました」

 ソフトバンクの大隣憲司投手が、11年間プレーしたホークスを去ることになった。日本シリーズ期間中に球団から来季の契約を結ばないことを通告されており、5日、正式に球団から発表された。

 2006年の大学・社会人ドラフト希望枠でソフトバンクに入団した大隣。2008年、2012年に2桁勝利をあげ、ソフトバンク先発陣の一角を担い、2013年にはWBC日本代表にも名を連ねた。だが、この年のシーズン中に国指定の難病「黄色靭帯骨化症」と診断された。

 2014年には難病を乗り越えて1軍復帰を果たし、422日ぶりの白星。クライマックスシリーズではファイナルステージの初戦、第6戦に先発して好投し、チームは日本シリーズに進出。日本シリーズでも勝利投手となり、チームの日本一に貢献した。

 だが、昨季から小さな故障などもあり、チャンスは大幅に減少。今季は、開幕1軍から漏れ、4月22日の楽天戦(ヤフオクD)で初先発したが、4回途中6失点でKOされた。その後は1軍昇格はなし。ファーム暮らしが続き、ポストシーズンでも、声がかかることはなかった。

 11年間、在籍したソフトバンクを去ることになった左腕。過日、その心中を激白した。
 
 球団から、来季の戦力構想から外れたことを通告されたのは、日本シリーズ第2戦が行われた29日だった。その時の心境を大隣は「薄々そういうのを考えないといけない年齢にはあったし、立ち位置ではあった。ただ、実際こうやって話をもらうと、ちょっとショックな部分もありました。若手も出てきているし、チャンスという部分でいうと厳しい部分もあったので、そろそろあるのかなという気持ちはありました」と語る。

「すぐ引退しますという気持ちには全くなれなかった」

 少なからず覚悟もしていた。

「(球団の人間から)電話があってから、嫁さんと家に帰って話をしましたけど、どういう状況を言われても、減額と言われても『ホークスを出る』という話はしていました。ショックな部分もありますけど、こうやって長年やってくると、そういう時期も、時が来たら来ると思っていたので、ああ来ちゃったか、と。11年間ホークスでやれて、それは自分の中で宝だと思っています。どこか他球団から話があれば、そういう経験を違うチームで生かせれば、と、今はそういう想いですね」

 現在、32歳。まだまだ老け込む年齢ではない。「自分の中ではやる気はあるし、引退するつもりもない。話がなければ、そこはしょうがないですけど、自分の中で(ホークスから)話があって、すぐ引退しますという気持ちには全くなれなかった。このままじゃまだ終われないという気持ちが強かった」と現役続行を決意。他球団からのオファーを待つことにした。

 体は錆び付いていない。肩や肘には何の問題もないし、かつて患った黄色靭帯骨化症の影響もない。

「みんな背中のことがどうなのか、と思っているところだと思う。自分自身の中で痛みがあるとかは全くない。そこが気になって投げられないとか、そういうのも全くないですし、肩、肘も元気です」

 現在も福岡・筑後市のファーム施設で連日、汗を流す。「今は体をしっかりと動かして、話があって、来てくれと言われた時にすぐいけるように。どこかから話があれば、チャンスだと思ってやるしかない。自分の中では話がもらえることを願うしかない」

 いつ他球団からの声がかかってもいいように準備を整えている。

「どうしたらいいんだろうという『?』の状況ではなかった」

 今季、ウエスタンリーグの成績は22試合に投げて6勝4敗、防御率5.20と決して良くはない。それは「どうしたらいいんだろうという『?』の状況ではなかったので。いろいろと試しながら1年やってきた。下半身が動かないと投げられないので、そこは意識してやってきましたし、継続しながらやっていくしかない。ちょっとずついいなと思ってきている」と試行錯誤を繰り返しながら、プレーしてきたことも影響している。

 さらに言えば、メンタル的に難しい部分もあったはずだ。状態を取り戻し、好投が続いても、1軍昇格のチャンスはなかなか来ない。分厚い選手層、そして、台頭する若手にチャンスが与えられるのは競争社会では当然だった。

「気持ちの難しさの部分はあった。結果を出しても上がれないし、テンションも上がらない状況でやっていた。1軍に行って気持ちが入るところで投げて結果が出るかもしれないし、これはやってみないと分からない」

 チャンスのあるところでチャレンジしたいと思うのも、選手としては当然の渇望だった。

「チャンスをもらってダメなら、きっぱりいけるんでしょうけど、今のままではやめられない」という大隣。他球団からの打診がなければ、15日に行われる12球団合同トライアウトを受けるという。球速は140キロに達するのがやっと。ただ、精密なコントロールと緩急を使った投球は芸術的である。同じ病を背負った人に、夢と希望を与える使命も持つ。大隣憲司。まだ、輝けるはずだ。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)