先週の18日、米インターネット検索最大手のグーグルは1476万株の普通株(クラスA)を新規発行する計画を米SEC(証券取引委員会)に届け出たことが明らかになったが、その調達額が17日終値(285.10ドル)換算で42億ドル(約4600億円)の巨額に上ることから、その使途をめぐって、市場ではさまざまな憶測が飛び交っている。

  今度の新規発行は9月5日の「レイバー・デー」(労働者の日)以降から始まるが、この1476万株の内訳は、通常発行分の1416万株に加え、売り出し時に引受幹事会社2社(クレディスイス・ファーストボストン証券と投資銀行のアレン・アンド・カンパニー)が追加発行できる60万株となっている。現在、グーグルのキャッシュフローは、銀行口座に手持ち現金29億ドル(約3200億円)があるので、今回の新株発行分を合わせると、同社のキャッシュフローは実に約70億ドル(約7700億円)と1兆円近くに膨れ上がる。それだけに、調達資金の使途をめぐって、市場の関心もヒートアップしているのだ。

  同社がSECに提出した届出書によると、「本業を補完するビジネスや技術などの資産の買収に充てる」としか明らかにしていないため、ナゾがナゾを呼ぶ格好になっている。市場でのうわさの一つは、タンス預金説だ。グーグルは1年前の2004年8月19日にIPO(新規株式公開)して、16億7000万ドル(約1850億円)を調達したが、そのときの公開価格はわずか85ドル。それが今では3倍以上の300ドル近くにまで急騰しているが、一部の証券会社はさらに同社の株価は350−400ドルにまで上昇する余裕がまだあると予測しているので、買いが殺到しているのが実態だ。市場では同社の最終利益は、2005年は1株当たり5.61ドルと前年の2倍を予想しているが、2006年には同7.34ドルにまで上昇すると強気な予想も買いを誘っている。グーグルの経営陣は、そうした状況をうまく利用して、単純に売りに出たというシンプルな見方だ。

  もう一つのうわさは、同社では、現在は「特定の企業買収案件はない」としているので、将来の企業買収に備えての軍資金を増やすという目的だ。同社は、同業のヤフーやマイクロソフト、AOL(アメリカ・オンライン)、商業サイト最大手のイーベイなどとの競争に打ち勝って行かなければ、現在のインターネット検索の本業だけでは、企業の成長は望めないことは分かっているので、電子メールやブログ、ビデオ検索、オンライン・ショッピング、さらにはISP(インターネット・サービス・プロバイダー)などインターネット・ビジネス分野に活躍の場を拡大しようとしており、そのためには巨額な現金資金を作っておく必要がある。あのマイクロソフトも預金口座に約380億ドル(約4兆2000億円)の現金を持っているのだからうなずける話ではある。

  それに、将来、企業買収するにしても、買収代金を株式交換方式で行う場合、グーグル株を買収先の株主に配っても、グーグル株の下落リスクがあるため、買収相手から当初予想していたよりも多い株式の提供を要求されたり、また、新株を発行すれば株式価値が希薄化(1株あたりの価値の減少)するリスクも生じるので、できるだけリスクの少ない現金で支払う方がグーグルにとっても買収先の企業にとっても好都合ということもあるようだ。

  グーグルは7月21日に第2四半期(4−6月)の決算を発表したが、その際に、7−9月期の売り上げについて、伸びが鈍化する見通しが示され、一時、市場に成長減速懸念が広がったが、グーグルは企業買収によって、売り上げの拡大を図る必要も背景にあると見られている。

  買収先の可能性として、市場で指摘されているのは、まず、ルクセンブルクの無償IPフォン(インターネット電話)大手のスカイプ・テクノロジーズだ。スカイプには30億ドル(約3300億円)の一括売却の話があり、ルパード・マードック氏が率いる米豪メディア大手のニューズ・コープがスカイプの買収に乗り出すとうわさが出ているが、そこにグーグルも参戦するというものだ。この背景にあるのは、IM(インスタント・メッセージング)サービスだ。同サービスについては、ライバルのヤフーは「ヤフー・メッセンジャー」、マイクロソフトは「MSNメッセンジャー」、AOLも「AOLインスタント・メッセンジャー」を持っており、ネットユーザーの高い利用率を得ているが、グーグルはこのIMがない。IMサービスも扱っているスカイプを買収できれば、グーグルは、テキストだけではなく、ビデオやオーディオも送れる強力なIMサービスを提供することが可能になるからだ。