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●ダイドーが考える未来型自動販売機

若い世代のユーザー獲得に向け、スマートフォンアプリと連携する「Smile STAND」に力を入れるダイドードリンコ。新たにゲームアプリとの連携や、地域情報を発信する機能などを追加して強化を図るが、最大の狙いとなる若い世代からの支持を得て、自動販売機を取り巻く厳しい状況を巻き返すことはできるのだろうか。

○情報配信やゲームアプリにも自動販売機を活用

清涼飲料メーカーのダイドードリンコは現在、未来型自販機「Smile STAND」の展開に力を入れている。これはスマートフォンの専用アプリとBluetoothで連携し、自動販売機で飲料を購入するとポイントが貯まるというものである。

同種の仕組みを採用する自動販売機は、日本コカ・コーラやキリンビバレッジも導入を進めるなどして最近増えつつあるものだ。だがSmile STANDがそれらと大きく異なるのは、自動販売機の中でサービスが完結しておらず、他のサービスとの連携を積極的に展開している点である。

実際Smile STANDで貯めたポイントは、単に自動販売機で飲料をもらうために用いるのではない。貯めたポイントの使い方は大きく2つ用意されており、1つは松坂牛やロボット掃除機など、さまざまな商品がもらえる抽選ができる「Smile SLOT」。そしてもう1つは、LINEのギフトコードや楽天スーパーポイント、あるいはオンラインゲーム用のポイントなどに交換できるというものだ。

Smile STANDは昨年の4月よりサービスを開始しており、今年2年目を迎える。そこでダイドーでは、Smile STANDに対して新たに2つの機能を追加し、利用拡大に向けた取り組みを進めるという。

1つは今年秋にリリースを予定している、「THE KING OF FIGHTERS D〜DyDo Smile STAND」である。これはゲームベンダーのSNKと共同で開発したスマートフォン向けの格闘ゲームアプリ。Smile STANDと連動することにより、貯めたポイントを使って、ゲーム内のアイテムやキャラクターを手に入れることができるガチャを回すことができるのが最大の特長になる。

そしてもう1つは、9月4日より開始する「Smile Town Portal」というもの。これはSmile STANDでポイントを獲得した際、自動販売機周辺のさまざまな情報をスマートフォンに配信するもの。その第1弾として、リクルートライフスタイルの「ホットペッパーグルメ」「ホットペッパービューティー」に掲載されている、飲食店や美容院などの情報を配信するそうだが、今後は広告やクーポン、さらには地域情報の配信など、提供する情報の幅を広げ、新たな収入源にもつなげていきたいとしている。

●自動販売機を取り巻く環境

スマートフォン活用の狙いは若い世代の開拓

そもそもなぜ、ダイドーはSmile STANDを展開するに至ったのだろうか。同社の取締役 執行役員 経営戦略部 部長の笠井勝司氏は、8月17日に実施された新サービス発表会において、同社の主力事業である自動販売機を取り巻く環境の変化が、その背景にあると話す。

ダイドーは飲料メーカーだが、その販路の中心は自動販売機だという。実際同社は、全国に28万台の自動販売機を設置・保有しており、売上の80%が自動販売機によるものであるなど、自動販売機が同社のビジネスに欠かせないものになっているそうだ。

だが一方で、最近はコンビニエンスストアやスーパーの出店数が増加し、さらにドラッグストアでも飲料が購入できるようになるなど、飲料の販売チャネルが増えて消費が分散し、多様化しているとのことだ。自動販売機の市場は、そうした多様化の影響を受けて縮小傾向にあるだけでなく、主要な顧客層も40、50代と比較的高年齢層が中心であり、20、30代の若い世代に利用が広がらないという課題を抱えているのだそうだ。

そこで同社では、20、30代を中心としたワークショップを実施し、さらに2014年12月からは、外部の企業から自動販売機の新しい価値を作り上げるアイデアを募る「アクセラレータープログラム」を実施。さまざまな手を尽くして若い世代を取り込むためのサービスを検討してきたという。

そうした中から生まれたのが、顧客と自動販売機の新しい関わり合いを生み出すため、スマートフォンを活用するというものであったという。それを具体的な形にしたのが、スマートフォンと自動販売機が連携するSmile STANDなのだそうだ。

○実力を発揮するには稼働台数が足りない

同社の経営戦略部 事業開発グループの西祐介氏によると、サービス開始から1年が経過した現在、Smile STANDのアプリをダウンロードしたユーザーは30代が中心と、従来より若い世代に利用される傾向が強いとのこと。一定の成果を生み出したことから、よりSmile STANDの利用を増やすべく新たな施策を打ち出したようだ。

●本領発揮までの課題

確かに自動販売機とスマートフォンの連携にはまだ可能性があると感じるし、単なるポイントの獲得にとどまらない、Smile STANDの取り組みは非常に意欲的ではある。だが一方で、Smile STANDにはまだ課題も多くあるように感じる。1つは、Smile STANDの提供で30代の利用者は増えたものの、20代のアプリダウンロード数は「全体の10%程度」(西氏)であるなど、まだあまり増えていないことだ。より若い世代に向けた訴求は、依然として大きな課題となっているようだ。

そうした課題をクリアするには、既に若い世代に人気のサービスと連携することが近道だろう。実際発表会でも、ポイントを若い世代が多く利用する「iTunes Card」や「Google Play ギフトカード」などに交換できないかという質問が記者から上がっており、こちらは交換レートなどを含め検討中だと西氏は答えている。

またSmile STANDと連携するゲームに関しても、オリジナルのものを用意するのではなく、既に若い世代に人気のゲームとコラボレーションするという手段も考えられる。だが西氏は、ユーザーの利用動向データを得て分析するにはコラボレーションでは難しいため、オリジナルのゲームアプリを用意する必要があったと話している。

そしてもう1つ、ある意味最も大きな課題となるのが、そもそもSmile STANDに対応した自動販売機の台数が、28万台のうちまだ2.5万台程度と少ないことだ。Smile STANDの利用自体を拡大し、広告収入を得るなど新たなビジネスにつなげる上でも、稼働台数を増やすことは必須だ。笠井氏は今年度内に5万台、将来帝には15万台の自動販売機をSmile STAND対応にしていきたいとしているが、早期に数を増やし、ユーザーへの認知を高めていくことが、同社にはいま最も求められているといえそうだ。