富士山頂が「圏外」にならないワケ。ソフトバンクのエリア化工事に密着

山開きシーズンだけで約30万人が訪れる富士山。登山道や山頂でスマートフォンを使っていて「圏外」とならない背景には、携帯キャリアや施工会社の並々ならぬ努力がありました。今回、ソフトバンクのエリア化工事に同行してきたので、その模様をお届けします。


7月でも雪が残る山頂付近

標高3776mを誇る日本最高峰の富士山。山頂付近の気圧は海抜0mの6割程度しかないため、酸素の薄さに悩まされます。一方で周囲に高い山のない独立峰でもあるため、登山中の見晴らしは格別。風景の写真を登山中にSNSにアップロードする人も多いです。

そんな時にありがたいのが、富士山でも4G LTEで高速に通信できること。ここ数年富士山に登ったことのある読者なら、登山道や山頂付近でほとんど圏外にならないことに驚いたのではないでしょうか。

富士山でスマホが繋がるワケ


標高4000mに迫る厳しい自然環境。そして、世界文化遺産にも登録されている富士山は、景観条例に守られており、通常の携帯基地局を設置することは難しいといいます。

ではどうやって登山道や山頂をエリア化しているのか。ソフトバンクの楠見氏は次のように語ります。


ソフトバンク、モバイル技術統括 東海技術部 建設課の楠見嵩史氏

「去年までは、ふもとにある基地局から山頂に向けて電波を飛ばしたり、ふもとからの電波を増幅する『リピーター』という装置を使ってカバーしていました。しかし、山小屋では崖の方にいかないと圏外でしたし、お鉢まわりもカバーできていませんでした」


3Gと4Gを行ったり来たりする状況だった

そこでソフトバンクは、今年、富士山の電波環境の抜本改善に乗り出します。2017年夏の山開きに合わせ、山小屋や山頂に「基地局」を5か所設置(昨年は1か所)。ふもとからの電波に頼っていた従来に比べて、通信品質の大幅な改善が見込めるといいます。

「基地局」までの光ファイバーをマイクロ波で代替


これには「エントランス」という技術を活用します。これは、光ファイバーケーブルの代替となるマイクロ波無線通信です。通常、基地局を設置するのは、伝送路として光ファイバーケーブルが必要になります。しかし、厳しい自然環境、そして景観条例に守られた富士山では、ケーブルの新たな敷設は難しいといいます。

そこでソフトバンクは今年、光ファイバーケーブルの代わりに5GHz帯/80GHz帯のマイクロ波を使う「エントランス」を活用。もともとは離島などの基地局設置に使われていた技術ですが、今回はふもとから富士山の山頂付近に至る無線の伝送路を構築します。それにより、山小屋や山頂付近に「基地局」を設置できるというわけです。


ふもとにあるエントランスアンテナ。山頂に向けてマイクロ波による伝送路を構築している

なお基地局を建てるといっても、富士山は景観条例に守られ鉄塔を建てられません。そこで、山頂にある既存の山小屋に「基地局」用のアンテナなどを設置することになります。


エントランスにより、ふもとと山頂がマイクロ波で繋がった。エントランスは5GHz帯と80GHz帯で冗長を組んでおり、80GHz帯が繋がる天気が良い日なら、100Mbps以上のスループットを見込めるという。


基地局が稼働した直後の様子。山頂の山小屋内でも4G LTEがバリ4で繋がるようになった

基地局が稼働した直後、富士山頂からTwitterに、15秒ほどの縦長動画をストレスなく投稿することができました。「山頂なう」とストレスなく画像や動画を投稿できる裏に、こうした通信キャリアや施工業者の努力が隠れていることを実感できました。