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そのまま食べてもピザの具材にしてもおいしい「モッツァレラチーズ」はお店で買うのが一般的ですが、実は市販の牛乳を使っておうちで手作りすることも可能です。ということで、試行錯誤しつつモッツァレラチーズを作ってみたので、「初心者でも一番失敗せずにモッツァレラチーズを作れるだろう」という方法をまとめました。

モッツァレラチーズ作りに必要な材料は、低温殺菌牛乳・食塩・クエン酸・レンネット。低温殺菌牛乳とは、65度程度で30分かけてゆっくりと殺菌された牛乳のこと。市販の牛乳は多くが「超高温殺菌牛乳」と呼ばれていて、120〜150度で1〜3秒殺菌されているのですが、この方法だとタンパク質が変性するため、モッツァレラチーズが作れない点に注意。ここで用いる材料には必ず「低温殺菌」と表記されているものを使ってください。



そして初めてのモッツァレラ作りで必須なのが、耐熱のキッチングローブ。これは熱々のモッツァレラチーズをこねる時に使うのですが、非耐熱のゴム製のものだと溶けてしまう可能性があるので、必ず耐熱のものを使用しましょう。今回はAmazonで1000円ほどのシリコン製・耐熱キッチングローブを購入しました。ちなみに、素手だと熱すぎて素人は100%こねることができません。



まずはネットで購入した小さじ1杯のクエン酸を20ccの水に入れて、よくかき混ぜて溶かします。クエン酸はスーパーの製菓材料売り場で売られていることもあります。



次に使うのはレンネット(凝固剤)。これも今回はネットから1gという単位のものを購入。1gと聞くと「たったそれだけ?」と思うかもしれませんが、これだけで50Lの牛乳を凝固させることができます。



レンネットは耳かき1さじ程度、ほんのちょっとの量を10ccの水に入れ、よく溶かします。



鍋に低温殺菌牛乳を投入。



まずは牛乳を弱火にかけて12度まで温度を上げる……のですが、冷蔵庫から出してしばらく撮影していたら、ちょうど12度くらいにまで温度が上がっていました。



12度の牛乳にクエン酸水を投入し、全体に広がるよう軽くかき混ぜます。



ここで5分ほど放置します。



5分たつと、以下のような感じでほんのちょっとだけ塊がヘラにつくように。この時点では大部分がまだサラサラの液体です。



温度を測りつつ、ごくごく弱火で32度まで温めていきます。かきまぜながら温度を上げていくと、5〜7分で30度前後になりました。



32度にまで上昇させます。



温度を上げていくとサラサラしていた液体の中に固体物が増えてきいき、ドロッとした感じに変化します。もしこれがまだ温める前と同じようなサラッとした状態なら、温度が低いか、急激に温めすぎたか、クエン酸が足りなかったかの可能性があるので、32度をキープしつつかき混ぜ続け、それでもダメならクエン酸水をちょっと足してみてください。ここでクエン酸水を足しすぎると牛乳が一気に分離して失敗してしまうので、ほんのちょっとだけ足してぐるぐる混ぜる……という方法を繰り返します。

32度になったときの様子 - YouTube

ドロッとした状態になったらレンネット水を加えてかき混ぜ……



5〜7分放置。



放置している間に牛乳が絹豆腐のような感じで固まるので、包丁などでさいの目状に切っていきます。



カットした後の牛乳はこんな感じ。豆腐のようにフワフワぷよぷよしているのがわかります。



ムービーで見てみるとどんな感じで固まっているのかがよくわかります。

モッツァレラチーズ作りで牛乳が固まるとこんな感じ - YouTube

さらに、ごくごく弱火で、10分ほど時間をかけつつ温度を45度まで上昇させます。液体と固体で分離しているため温度が均一に上がりにくいので、鍋を揺らしながら温度を上げていくのがポイント。温度を上げると、以下の写真からわかるように、黄色い「ホエー」という液体と固体の「カード」にわかれます。



固体の部分をすくい上げるとこんな感じ。フルフルと揺れます。



これをキッチンペーパーを敷いたザルの上にあげ、水切りします。



水切りで出たホエーは再び鍋の中に。



続いて、ホエーの温度を85度くらいにまで上げ、火を止めます。ここでのポイントは、温度を80度以下にしないこと。



ふわんふわんだったカードは水気を切ることで餅っぽい状態に変化するので、おたまに載せて……



熱湯の中に沈めます。



熱湯から出したカードを、耐熱キッチングローブをつけた手でこねます。



折りたたむようにこねていくのがポイント。



熱湯に1度つけただけではボソッとした状態ですが、心配はいりません。



再び熱湯に10秒ほどつけてから……



取り出してこねます。



熱湯につける→こねるという作業を3回ほど繰り返していると、だんだんボソボソだったカードが固まりだし、ガムのような伸びがでてきます。



4〜5回繰り返していると……



最終的には餅のようにびよーんと伸びるようになりました。



キレイに丸めれば完成。



「飲むにはちょっとキツイ」というくらいの濃度にした塩水に完成したモッツァレラチーズを入れて、30分から1時間ほど冷蔵庫に入れておきます。薄めに味をつけたい時は30分ほどでOK。



1時間後、取り出したモッツァレラはこんな感じ。今回は2Lの牛乳から、手のひらサイズのモッツァレラチーズが4つできました。



……と、ここまで書くと非常に簡単に、サクサク作れているように見えるのですが、実はモッツァレラチーズ作りには何回か失敗しています。そもそも、なぜモッツァレラチーズを作ろうと思ったのかというと、オランダの空港でモッツァレラチーズ作成キットなるものを見つけたため。「家庭で簡単に30分でモッツァレラチーズを作れる!」という表記に「ほほう!」と色めきだち、キットを購入したのが始まりでした。



キットの内容はこんな感じ。温度計・水切り用の布・レンネット・塩・クエン酸・スプーン・説明書などが入っていました。



レンネットは錠剤タイプで、これを砕いて使うとのことでしたが……



低温殺菌牛乳を使用しても、固まらず。



説明書には「どうしても固まらない時はメーカーの違う低温殺菌牛乳を使ってね!」と書かれていたので、別のメーカーの低温殺菌牛乳を使って再挑戦したのですが、結果は同じ。海外と日本では環境が違うからか……?ということで、ネットでクエン酸とレンネットを注文し、独自にモッツァレラチーズを作る道へ進んでいったのでした。



そして新たに注文したクエン酸&レンネットを使ったところ、無事ホエーとカードを分離させることに成功。しかし、モッツァレラチーズ完成までの道のりはまだ遠いのでした……。



ネットで公開されている「モッツァレラチーズの作り方」には電子レンジを使う方法・お湯の中で混ぜて固める方法・お玉の上に載せたカードの塊を熱したホエーに入れて手でこねて固める方法など、さまざまなものがあります。ということで、ボールの中に入れた熱湯の中でカードをこねるという方法を試してみました。



バラバラだったカードが何となくまとまってはきたものの……



モソモソとした状態から変化せずで、モッツァレラチーズのツルンという質感にはほど遠いブツが完成。



なんとか丸めて塩水につけてみたところ……



やはりボソボソとしたカッテージチーズ状のものが完成しました。これはこれで味はよく、サラダに入れれば「ギリシャ風サラダ」と語れそうな仕上がりなのですが、モッツァレラチーズではない……と途方に暮れます。



「ボウルに熱湯を入れる方法では温度が低くなってしまい、うまくモッツァレラが固まらなかったのでは?」ということで、今度は「別の鍋にたっぷりと75℃の湯を沸かし、チーズを入れる」「お湯の中で練る」という方法を試してみたところ……



分離。バラバラになったモッツァレラは二度と元には戻らなかったのでした……。



熱湯の中でバラバラのモッツァレラチーズを1つにまとめる方法は、お湯の「量」と「温度」が問題になるらしく、お湯が多すぎるとカードが分離して二度と1つの固まりに戻らなくなってしまい、お湯の温度が低すぎてもカードがとろけずに分離された状態になってしまうようです。

くじけず、さらに「完成したカードを電子レンジで温めてからこねる」という方法にも挑戦。



やってみたところ何とかまとまり、見た目はそれっぽい感じなのですが、冷やした後の質感は「鏡餅」そのもの。カチカチです。



薄くスライスすると少し弾力があるのがわかります。



食べてみたところ、ミルクの香りやまろやかさが感じられるのですが、食感は「裂けるチーズ」のようなグニグニした固さがあります。「ゴムパッキンの食感」と表現した編集部員もいるくらいで、これもモッツァレラチーズではない……!ということで、最終的に「85度に熱したホエーで温めたカードを練る」という方法にいきついたのでした。



なお、このモッツァレラもどきをオーブントースターで焼いてみたところ……



完全に餅でした。ミルクの風味たっぷりなので、例えモッツァレラチーズ作りに失敗してもおいしく食べることはできます。



YouTubeで公開されているムービーやウェブサイトで公開されている作り方を見てみると、「ボールに熱湯を注いでまとめる」「電子レンジを使ってまとめる」という方法は簡単そうに見えるのですが、初心者が一番成功しやすいのは「85度に熱したホエーで温めたカードを練る」方法だ、というのが結論です。電子レンジの場合、こねているうちに水分が抜けすぎてしまうため、仕上がりがカチカチになってしまう様子。熱したホエーにドボンとつけてしまう方が、水分調節が不要なので、初心者にとってはモチモチのモッツァレラチーズが作りやすいというわけです。

なお、モッツァレラチーズはヨーグルトから乳酸菌を利用して作る方法もあり、そちらはpH計測器が必要になりますが、クエン酸を使って作る場合は乳酸発酵するわけではないので不要です。

……という紆余曲折を経て完成したモッツァレラチーズ。切ってみるとこんな感じで、ボソボソでもカチカチでもなく、つるりとした質感とほどよい弾力性があり、見た目はお店で売っているものと変わりません。



しかし、味はスーパーなどで売られているモッツァレラチーズとは全く別。とにかくミルクの風味が強く、まろやかでコクがあります。



食べれば食べるほど「モッツァレラチーズとはこんなに風味豊かな食べ物だったのか……!」と驚いてしまうほどで、塩水に漬けていたため、ほのかな塩気があり、何もつけずに食べても完成された味わい。試行錯誤したぶん、感動もひとしおです。



トマト&バジルと合わせて、オリーブオイルと塩をかけてカプレーゼにしてもグッド。



市販のピザ生地の上にピザソースやベーコンなどと一緒にのせて……



オーブンで焼きます。



すると、モッツァレラチーズが少しとろりとした状態に。ピザソースの塩気の中にモッツァレラチーズのまろやかなミルクの甘さが感じられ、絶品でした。



「まったくチーズ作りをしたことがない」という初心者がおっかなびっくり作成したので試行錯誤しましたが、上記の方法で作れば失敗は少ない……はず。一度モッツァレラチーズ作りに成功して、「この状態になればレンネットを入れて大丈夫」「この状態になればきれいにまとまる」というのを把握すれば、電子レンジなどの方法でも作れるかもしれません。

無事完成したモッツァレラチーズは「何もかけずにそのままをひたすら食べたい」というくらいの濃厚さで、「一度モッツァレラチーズを作って食べると市販のものが食べられなくなる」と聞くのも納得なので、チーズ好きの人はぜひ一度挑戦してみてください。