6年間の空白を経て復帰した大黒摩季。
11月6日放送の『情熱大陸』に続き、11月18日には『ミュージックステーション』に生出演と、復活を強く世間に印象付けている。

『情熱大陸』公式サイトの紹介記事には、「90年代、大人の女性のやるせない想いを迫力あるハイトーンで歌い上げた」とあった。そう、「大人の女性のやるせない想い」=「結婚したいけどできない女性の気持ち」を描いたら当代随一とも言える大黒摩季。
ハイトーンボイスとノリのいい楽曲の勢いで忘れがちだが、その歌詞の内容には怨念さえ感じるほどに、真に迫るものがある。特にアラサー独女の胸には突き刺さるものが……。

本当は怖い大黒摩季の楽曲。中でもメジャーな3曲をあらためて振り返りたい。

サイコサスペンスドラマのような『あなただけ見つめてる』


93年12月発売の6thシングル『あなただけ見つめてる』。彼に気に入ってもらうべく、派手なメイクや雑な言葉使いを改めて彼の趣味に詳しくなるなど、徹底して彼好みの女性に変身して行く様子が延々と語られている。


彼が快く思っていなかった友人とも絶交し、苦手だった彼の母親に媚びるなど、外見も性格も生き方さえも彼好みの地味な女に生まれ変わった女性が「あなただけ見つめてる」「そして他に誰もいなくなった」と畳み掛けるのだから、もはや夜10時台のサイコサスペンスドラマにしか思えない。
ラストの「夢見る 夢無し女」とは、「結婚を夢見るために、すべての夢を捨てた私」と言うことだろうか? 尽くす女性であることに違いはないのだが、本来の自分を押し殺してまで寄り添う姿に漂う狂気。「ヤバイ High Tension」が覚めた時が恐ろしいのである……。

こんなヘヴィな内容なのに、アニメ『SLAM DUNK』のエンディング曲(記事はこちら) として大ヒットとなったのだから、あらためて凄い時代だ。

「春が来る」=「出会い」に掛けての『夏が来る』=「結婚」…!?


94年4月発売8thシングル『夏が来る』。結婚適齢期の独身女性の微妙な気持ちが、切々と綴られている内容だ。
結婚できない焦りを感じる中、いつか自分に釣り合う「真っ白な馬に乗った王子様(理想の相手)」が現れると信じながら婚活も続けているけど、なぜか選ばれない女性の悲哀。その「なぜか」には、「本気の愛>結婚のために妥協する愛」という理想も見え隠れしているのが、世の女性の心を掴んだのではないだろうか?


酸いも甘いも経験した(と思われる)主人公が、結婚できない現状に「何が足りない…。どこが良くない…。」と自問するも、そこに答えがないのもリアル。
「妥協しない アセらない 淋しさに負けない」と、比較的明るく始まった歌詞が、自分を鼓舞する「イジけない ネタまない 間違ってなんかない」となり、「諦めない 悔しいじゃない もう後には引けない」と、覚悟に変わる。この三段活用には凄みさえ感じるほどだ。

タイトルのせいで夏歌のイメージが付いているが、これって実際は、「春が来る=恋人との出会い」に続く「夏が来る=結婚」という意味にしか思えないのである。

実は相当重い内容の『ら・ら・ら』


95年2月発売10thシングル『ら・ら・ら』。恋人に「逢いたい」気持ちと「逢えない」現実。その間で揺れ動く女性の気持ちを綴った曲。


「あっという間にもう こんな年齢だし 親も年だし あなたしかいないし…ねぇ」
押し寄せるのは、将来を見据えた切実な不安。「…ねぇ」のダメ押しがなにげに怖い。

「これから私 何をどうして生きていけばいいんだろう…」
結婚に至らなかった場合を想像したくない独白である。

胃もたれするような重すぎるテーマを「ら・ら・ら〜♪」のサビでサッパリさせた印象。サビの語源がワサビにあること(諸説ある中のひとつ)を痛感せずにはいられないのであった。

11月23日には全シングルを完全収録し、復帰後に書き下ろした新曲をも加えた究極のベストアルバム『Greatest Hits 1991-2016 〜All Singles + 〜』もリリース。
「作詞の大半がプロデューサーによるもの」なんて騒動もあったが、とりあえず置いといて、歌詞をじっくり噛み締めながら聴いて欲しいものである。

※イメージ画像はamazonよりあなただけ見つめてる Single
※イメージ画像はamazonより夏が来る Single
※イメージ画像はamazonよりら・ら・ら