村上春樹の初電子書籍『村上さんのところ』は単行本8冊分の大ボリューム

写真拡大

村上春樹初の、日本での電子化作品『村上さんのところ』。なんとこの本、単行本8冊分のボリューム!


老若男女いろんな人から投稿された「メールおたより」と、それに答える村上春樹、フジモトマサルのイラストで構成されている。ラジオの「何でも相談室」や雑誌の「読者投稿欄」みたいな感じ。期間限定サイトで公開されていた内容をまとめたものだ。

3716問すべてが収録


約2週間の募集期間であつまったメールは37465通。ほぼ全てを読み、およそ1割の3716通に答えている。紙の書籍にはそのうちの473問が収録されていて、電子の「コンプリート版」には3716問すべてが収録されている。

やけに不倫についての相談をしている人が多かったり、特に具体的な悩みはないんだけど「聞いてほしいこと」を書いてる人など、神父に告白してる感じ。村上さんも「がんばってください。僕に言えるのはそれくらいです」みたいな感じで、読んでてなぜかクセになる。

「一番いいと思うキャベツの料理法は?」みたいなものや、10歳の子が「お父さんの本棚に村上さんの本がたくさんあったので、どんな人だと思ったので質問してみました」なんてのもある。もちろん「そんなもん知るか!」とはならず、「徹底的な千切りが究極だと思っています」などと、丁寧に回答。

多くの村上春樹ファンが、「うんうんと悩んだりしているのですが」とか「自分の仕事(あるいは、そのようなもの?)」みたいな感じで、全体的に村上春樹っぽい文体に影響されているっぽいのも面白い。滑稽だという感じではなくて、それだけ言葉って考えることの基本だし、本っていうのはそういう部分に強く影響して人間頭脳の骨格になるんだなって感心した。あんまりそういう人が連続すると、正直少し滑稽だけど。村上春樹は翻訳作品も多いので、村上著作が色んな本を読むきっかけになった人も多いみたいで、さまざまな海外文学作品についての質問も多い。

電子ならではの仕掛けも


若者が「自分に自信がない」「孤独で不安」と書いていたり、作家を志している人の質問とかも多い。回答は「大体みんなそんなもんです」「普通な人なんていない」「なるようになるので、がんばりましょう」といった感じ。だけど、ちょっとした言い回しや、時々あわられる「強くてかっこよくなるには練習しかありません」などの一言がアクセントになっている。

膨大な量なので一気に読むような物ではないが、似た質問がリンクされていてジャンプできたりする「電子ならではの仕掛け」もある。これだけ大量のお便りが来ても、適当に書きたいことを答えたり、いい感じの距離で済ませたりする村上春樹の「所作」にも感心してしまう。僕は人と話した次の日とかに「ああ言えばよかったな」「一言足りなかった」「余計な言い方したな」って思うタイプなんだけど、この本の「他人の対話を見ている感じ」、けっこう参考になった。

紙の書籍と電子版、ほとんど値段は変わらないから、電子書籍デビューとしてもいいかもしれない。Kindleの機械がなくても、スマートフォンやタブレットにKindleのアプリを入れれば買って読めます。(香山哲)