「連続テレビ小説 まれ Part2 」NHK出版

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朝ドラ「まれ」(NHK 月〜土 朝8時〜)7月25日(土)放送 第17週「究極選択パリブレスト」第102話より。脚本:篠崎絵里子(崎の大は立) 演出:一木正恵

夫・圭太(山崎賢人/崎の大は立)を支えるため能登に戻る決意をした希(土屋太鳳)。いったん、横浜に戻り、大悟(小日向文世)に辞めたいと相談すると、美味しいロールケーキをつくれたら許すと課題を突きつけられます。

希はまだ23歳だから〜♪ いったん休んで、よきとこでまた修業を再開しようと当人能天気に考えているようですが、大悟は「そんな甘い世界じゃない」と一喝。10代から修業している者だっているのにいったん休んでしまったら、「パティシエ人生を棒にふる」と苛立つのです。
積み重ねが大事なことは、希もわかっているはず。もともと「地道にコツコツ」が信条だったわけですから。
そういや、希、公務員もすぐに辞めて、パティシエの道に進みました。
公務員→パティシエ→塗師屋の妻 
いま23歳だから高校辞めて5年か6年、その間に直感だけで生きる場所を転々と変えています。どうも言ってる事とやってる事が違う。それは大悟が彼女の過去の発言を振り返って痛烈に指摘しています。

理想をことごとく外す


「まれ」にはもうひとり、希のような人物がいます。
徹(大泉洋)です。
102話、希の生き方をめぐって大悟と男と男の会話をする場面で、3年間の夢があっという間に潰えてしまったことを嘆きます。
その前に6年間東京にいてうまくいっていません。それからもう一度3年間がんばったとはいえ、明らかにやばい人間から借金してつくった会社が続くはずもなく・・・。
「夢追い続けて40年だ」といばりますが、「夢」とか「がんばる」とか言うだけで、いまいちなにしてるか具体性が描かれていない。そこが大悟と違います。
大悟はへんなひとですが、一応、お菓子づくりにすべてを注いでいるところは描かれており、彼の40年はかなり充実していることが想像に難くありません。
それに比べて、希と徹は、父娘ともども、表層的で実が伴ってない。
まあでも、これ、世の中の人間がたいていそうです。
いますよね、仕事はじめたばかりで結婚退社するひとや、いつかきっとと言いながら仕事を転々としているひと。
フィクションの世界ではおおむね、主人公は参考にしたい理想的な人生を送るものが多いですけれど、「まれ」はその理想をことごとく外しています。
従来の朝ドラだったら、大悟のような生き方が主人公の生き方だったでしょう。
ところが、「まれ」は、口当たりのいい名言を散りばめながら、よき生き方を提示しているかのように見せて、当の主人公はその理想には届かず、ただただみっともないところをさらすばかり。
でも、それが、人生。セ・ラ・ヴィ なのかも。
すると「まれ」は、現代のなにかとうまくいかない日本人の姿をリアルに映し出す鏡ですね。

今日の、勝手に名言


徹「俺はな 大事に育てた会社失って 夢も希望もなくした気の毒な男なんだぞ!」
大悟「たかが3年でギャ〜ギャ〜騒ぐな! 俺はパティシエになって40年だ!」
徹「だったら俺だって夢追い続けて40年だ! 俺は4歳の頃から夢追ってたからな!」
大悟「おまえと俺じゃ1年の重みが違う!」
徹「何だ・・・人も猫もラクダも その辺の雑草だって1年は1年だろ!」
大悟「うるさい! 責任とれ!」
徹「それができりゃ苦労しねえよ!」

滑稽だけど、それが人生 な感じがにじみ出た、ただただすばらしい会話。
(木俣冬)

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いまひとつ視聴率が伸びないが、奮闘は讃えたい。NHK朝ドラ「まれ」おさらい(54話までを総括))