ドラマ「天皇の料理番」(TBS系・毎週日曜よる9時〜)最終話より。篤蔵(写真左。佐藤健)はいかに戦時中をすごし、そして終戦を迎えるのか。

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4月から始まったTBSの日曜劇場『天皇の料理番』はいよいよ今夜、最終話を迎えます。明治末から昭和の戦後までを描く物語のスケールからすると1クールはいかにも短く(1980年に同じ原作で連続ドラマ化されたときは半年間の放送だったわけですし)、展開早すぎ! と思うことも少なからずありました。

しかし一方では、そんな制約を、ディテールにこだわるなど丁寧な描写でカバーしていたとも思います。とくに7月5日放送の第11話では、時間経過をいかに見せるかという工夫がよくうかがえました。

妻との残りの日々を丁寧に描写


関東大震災で延期となっていた皇太子(のちの昭和天皇)の御成婚が挙行されたのもつかの間、1926年の末には大正天皇が崩御します(劇中の新聞には「天皇陛下崩御」の見出しが掲げられていましたが、実際には「聖上崩御」だったんじゃないかと思うのですが、それはまあともかく)。年が明けて、2月に行なわれる大喪での午餐会の準備で篤蔵(佐藤健)は忙しい日々を送っていました。

そのさなか、妻の俊子(黒木華)が心不全で倒れます。すでに関東大震災の直後にその兆候は表れていたにもかかわらず、医者にも見せないまま家庭と産婆の仕事を両立してきた過労がたたったのでしょう。

それから約1年間、篤蔵は俊子の体が少しでもよくなるよう食事をつくり続けます。それとあわせて、俊子と家族との日々が季節の移り変わりとともに丁寧に描かれます。節分や端午の節句といった年中行事を子供たちとともに楽しみ、梅雨時にはアジサイの葉を這っていたカタツムリを窓の外に見つけ、夫婦で眺めるという場面もありました。このとき、カタツムリが窓から見えなくなったのに意気消沈する俊子に、篤蔵はカタツムリを元の位置に戻してやります。そんなさりげない行動に、彼の心の優しさを感じます。

ただ、かんしゃく持ちの篤蔵は俊子が倒れてからも思わずあたってしまうこともしばしでした。淡を喉に詰まらせた俊子を助けてやったときには、「私、迷惑しかかけていないですよね」と言う妻に、篤蔵は「そう思うなら、いいかげん治ってくれんかの」とちょっとデリカシーのない言葉を口にします。もちろんそれは、何もできない自分のふがいなさを責める気持ちの裏返しではあったのですが……。

俊子から篤蔵に託された鈴の意味


俊子が淡を詰まらせたのは大晦日のことでした。その夜、篤蔵は年越しそばをつくり、俊子を囲んで子供たちと一緒に食べます。やがて除夜の鐘を聞きながら年を越すのですが、母親に新年のあいさつを述べる子供たちはなぜか泣いています。もはや母親とすごせる日々は長くないと気づいていたのでしょう。

その後、子供たちが寝静まってから、篤蔵は俊子用につくったそばを食べさせます。そこで彼は一つの鈴を渡されます。それは昔、篤蔵が俊子にあげたお守りについていた鈴でした。俊子は篤蔵がそのかんしゃく持ちの性格ゆえいつか仕事で大失敗を起こすのではないかと心配して、思い出深い鈴に自らの気持ちを託したのでした。

それからまもなくして、俊子は亡くなります。しかし彼女は病床にあって、篤蔵だけでなく子供たちにも自分の想いをしっかりと託していました。長男の一太郎(大八木凱斗)には「自分が何をしたいのか、やってみないと意外とわからないのかもしれないね」と、とにかくやってみることの大切さを、また長女の初江(大塚れな)には「役に立つことの喜びを知らないのは損」ということを伝えていました。

一太郎はこれを受けて、母が亡くなった直後より、来宅して食事の準備をする宇佐美(小林薫)について、かつての父親と同じく料理を学び始めます。

主人公を助けたダメ男・新太郎


さて、第11話を見ていて、篤蔵とは華族会館の同僚である新太郎(桐谷健太)がこのドラマにおいて結構重要な存在だったんじゃないかな、とふと思いました。

絵の修業のためパリに渡った新太郎は、「自分の絵が300円で売れるまでは日本に帰らない」と言っていたにもかかわらず震災直後に帰国。大衆食堂のバンザイ軒に転がりこんだものの、まともに働く気はなく、家賃もためこむという見事なダメっぷり。

篤蔵と同じく大きな夢を持ちながらも、努力嫌いで能天気でいつまで経ってもプー太郎の新太郎は、いわば篤蔵とはコインの表と裏といったところでしょうか。でもそれが意外に役に立っている。倒れた俊子に代わり子守を任され、その子供以上の子供っぽさをからかわれながらもその務めを果たします。何よりその能天気さは、とかく沈みがちな篤蔵一家には救いとなったところ大でしょう。

前出の大晦日の場面で、いよいよ俊子には四六時中誰かがついていなければならなくなったとき、勤めを休むと言い出した篤蔵に、「おいらじゃだめかい? だめだよなあ」と気遣いを見せる新太郎。そんな彼に篤蔵は「でも助かってます。本当に色々」とさりげなく感謝を述べるのでした。

第11話の終盤、俊子を喪い、厨房でも大先輩の宮前(木場勝己)が退職してますます背負うものが大きくなった篤蔵は、1928年11月に行なわれる昭和天皇の即位大礼に向けて準備に入ります。

予告によると、今夜放送の最終話は90分スペシャルで、戦中・戦後まで一気に描かれるようです。あるカットでは、やんごとなき方らしき後ろ姿も……。ひょっとして8月公開の映画「日本のいちばん長い日」であの方を演じる本木雅弘の特別出演もあったりするかも!?(あくまで憶測ですが)
(近藤正高)

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