パリッコ『大衆酒場ベスト1000 3』

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居酒屋が好きだ。

なので、居酒屋の話を肴に飲むのも好きだ。居酒屋好きが集まれば、たいてい「あの店よかったよ」「あそこの●●は酒が進むよね」といった話に花が咲き、話題は尽きない。嗚呼、なぜにこんなにも楽しいのか居酒屋談義。

今回はそんな好事家の皆さまに、あるいはその予備軍の皆さまに『大衆酒場ベスト1000 3』というリトルプレスをご紹介したい。といっても、ネットで酒場情報を検索したことがあれば、このタイトルに見覚えのある方も少なくないだろう。

なぜなら本書は、2009年からWebサイト「ピコピコカルチャージャパン」に掲載されている同名の居酒屋ルポ連載をまとめたものだからである。4年以上にわたって酒飲みが喜ぶツボを刺激し続けた結果、「駅名+大衆酒場」で検索をすれば、大抵検索結果の上位に表示されるようになった。

おおらかさに貫かれた居酒屋ルポ


さて、「大衆酒場ベスト1000」というタイトルのもと、東京を中心とする“いい塩梅”の居酒屋を攻めるのが、居酒屋ライターのみならず、漫画家、DJ/トラックメイカーとじつに多彩な顔を持つパリッコだ。タイトルに「1000」というとんでもない数字を付けたのは半ばギャグだったらしいが、これを書いている15年6月12日現在、第125回を数えている。飲みに行く度に紹介するに足る新しい店を開拓できるとは限らないし、しかも何人かで持ち回りとかではなく(取材時に同行者はいるが)1人で100店越えだ。これはスゴイ。

では、肝心の内容をば。書籍版の3冊目にあたる本書で紹介されるのは、以下の7店だ。ちなみに、「店名(駅名)/いち押しメニュー」という並びである、念のため。

・正ちゃん (椎名町)/あじフライ
・はま善 (由比ガ浜)/いわしのにんにくバター
・東ぎく (代々木)/おでん
・大都会 (池袋)/春菊天そば
・どんのば (新宿)/さくさくコロッケ
・サレペペ (椎名町)/おせち
・大将3号店 (高円寺)/火鍋

この並びを見てまず気づくのは、いわゆる居酒屋評論家が取り上げるような「名店」「有名店」の類いではない、ということだ。池袋の24時間営業の居酒屋「大都会」の回を読めば、この連載の趣旨が、安くて美味しい、万人受けする店ばかりを紹介するものではないことがわかる。

全国に星の数ほどある居酒屋の中から、僕が偶然にも出会った素敵なお店、おもしろいお店、憎めないお店なんかについて、個人的な主観で語る、いち酔っぱらいの戯言とでも思って頂ければ幸いです。

そして、「大都会」という店の魅力を、こんな見事な文章で説明するのだ。

場末オブ場末というか、池袋の酔っ払いの終着駅というか、界隈の酒飲みをはじめ多くのお客さんたちから憎からず想われている、愛すべきお店なんですよね。

日本各地から取り寄せた名酒や、キレッキレに美味い料理を味わうのだけが居酒屋の楽しみではない。Tシャツと短パンでふらっと行ける気軽さや、すごく美味しくもないけどなんか郷愁を誘う味だなーくらいのレベルのツマミをホッピーで流し込むあの感じ、それだって居酒屋の醍醐味だ。本書を貫いているのは、愛すべき酔っ払いによるおおらかさであり、それが読んでいてじわじわと心地よいのだ。

対談ゲストは『酒の細道』のラズウェル細木!


また、書籍版でしか読めない豪華な企画も。毎号収録される酒場対談コーナー(飲みながらの対談)の今回のゲストは、酒マンガ『酒のほそ道』の作者にして、晩酌エッセイの名手としても知られる手塚治虫文化賞短編賞受賞作家のラズウェル細木である。

もちろん酒場なので色んな人が来ていいんだけど、なんとなく同じ匂いのする客が集まってくる。そこに自分がハマると相当リラックスできるんだよね。

ホッピーをとって、グラスに半分以上焼酎が入っているとものすごくハッピーな気持ちになる(笑)。

(締めのラーメンを食べたにもかかわらず)食べたことを覚えていない時まであるんだからね。翌朝どうも口の中がガビガビしてて「あれ? これ昨日とんこつ食ったかな?」って(笑)。

などなど、酒飲みの共感を呼ぶ発言のオンパレードだ。この対談だけでも本書を購入する価値は十分にある。バックナンバーを含め、下記サイト内「パリッコのショップ」で通販が可能だ。興味を持たれた方は、ぜひ。

パリッコHP。
(辻本力)