アメリカ空軍の指向性エネルギー兵器局が、2023年には航空機へ空中発射型固体赤外線レーザーを搭載する計画であることを明らかにしました。SFの世界だったレーザー兵器がいま、現実になろうとしています。ただそうなっても、主力はミサイルのままかもしれません。

撃った瞬間に必ず命中する兵器

「戦闘機に搭載された赤外線レーザー兵器によって敵を破壊、撃墜」

 新作SFアニメのプロットではありません。アメリカ空軍指向性エネルギー兵器局が、2023年には航空機に空中発射型固体赤外線レーザーを搭載する計画であることが2015年5月、明らかになりました。まずC-17「グローブマスターIII」輸送機をプラットフォームとして試験を行い、将来的にはより小型の戦闘機へ搭載することが見込まれています。

 戦闘機を使った試験については、F-15「イーグル」にレーザーポッドを外部搭載することが考えられているほか、F-35B「ライトニングII」で、その胴体内に有する垂直離着陸用のリフトファンを発電機、およびレーザー発振器に置き換える案が検討されています。

 レーザー兵器の推定出力は100〜150キロワット。強い指向性をもった赤外線を空中ないし地上の目標に数秒間照射することによって、熱に弱い部分を焼損させ、破壊します。

 こうした強い電磁波を利用し対象を破壊するシステムを「指向性エネルギー兵器(DEW)」と呼称します。指向性エネルギー兵器は空間を光速で伝播、すなわち秒速30万kmにも達するため「撃った瞬間に必ず命中する」という優れた特性を有します。

 指向性エネルギー兵器には赤外線レーザーのほかにもうひとつ、「ハイパワーマイクロ波」があります。このハイパワーマイクロ波はレーダーなどのセンサー部から攻撃対象に浸透し、電子回路を破壊するものです。

 その原理は、電子レンジにうっかりアルミホイルを入れてしまい火花を散らす失敗と全く同じ。金属部が強力なマイクロ波の照射を受けると非常に高い電圧が生じ、ICや基盤を焼き切ります。

 ハイパワーマイクロ波はすでに実用化されているか、ないし実用化目前であるとみられ、F-22「ラプター」、F/A-18E/F「スーパーホーネット」などの「AESAレーダー」は超高出力のマイクロ波を発振可能であるともいわれます。詳細は不明ですが推定出力数百メガワット〜ギガワットで、1兆分の1秒という極めて短いパルスを照射。瞬間的に対象を破壊します。

レーザー兵器が実用化されても主力はミサイルのまま?

 指向性エネルギー兵器はまるで夢のような兵器に思えるかもしれませんが、残念ながら万能ではありません。射程距離は極めて短く、ハイパワーマイクロ波はせいぜい1km、100キロワットクラスの赤外線レーザーも数km程度ではないかとみられています。現代の空対空ミサイルは100km先の航空機を撃墜可能なものもありますから、戦闘機にとっての主要な兵装はミサイルであり続けるでしょう。

 この指向性エネルギー兵器は、むしろ接近するミサイルへの防御に使えます。赤外線誘導型のミサイルならば、赤外線レーザーを使えばその誘導装置を破壊、ないし狂わす程度は容易にできるはずです。対象を焼損させるほどの出力はありませんが、赤外線レーザーを使ったミサイル妨害装置はすでに実用化されています。同様にハイパワーマイクロ波は、レーダー誘導型のミサイルの電子機器を破壊するのに最適です。

 現代の空対空ミサイルは非常に高性能であり、撃たれた側はほぼ撃墜されます。しかし将来、指向性エネルギー兵器を使ったミサイル防御が当たり前になると、そうしたミサイルの優位性は減じられるかもしれません。

 なおアメリカは2009年、ボーイング747に超大型の酸素ヨウ素化学レーザー(COIL)を搭載した試験機YAL-1「エアボーン・レーザー」によって、弾道ミサイル迎撃実験を成功裏に行っています。COILはメガワットクラスの超高出力赤外線レーザーで、数百kmの射程を有しました。

 この「空中戦艦」とも形容される恐るべきYAL-1。空対空戦闘を想定した研究も行われましたが、残念ながら予算などの問題によって実用化されることはありませんでした。