『ロクダイ』(コージィ城倉/講談社)
『おれはキャプテン』の続編が遂に始動。

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今年、連盟結成90周年という節目の年を迎えている東京六大学野球。

23日の試合では東大野球部が法政大を下して連敗を94でストップ。4年半ぶりに勝利を飾ったことが大きく報じられた。

その後、昨日までのリーグ戦で法政大に連敗を喫し、結局、13年ぶりの勝ち点獲得とはならなかった。だが、東大勝利のニュースで、久しぶりに「ロクダイ」の存在を思い出した人も多かったのではないだろうか。

だが、漫画の世界では一足早く、東大野球部の逆襲が始まっている。
東大野球部を描いた漫画『ロクダイ』。この春発売された一巻において、まるで予言のように「4年ぶりの1勝」が描かれているのだ。

東京六大学野球と東大野球部を描くこの『ロクダイ』の主人公は、東大野球部キャプテン、霧隠主将……野球漫画ファンであればこの主人公名でピンと来るだろう。『ロクダイ』は2000年代に人気を博した野球漫画『おれはキャプテン』の続編であり、作者はもちろん、コージィ城倉だ。

霧隠主将、デレック井慈田、そして蝦名富一。
『おれはキャプテン』を盛り上げた朋王三連星と、美少女野球部員・大州圭という4人の「甲子園組」が東大野球部に所属し、《“最高学府のバカ達”が“バカな事件”を起こす》ことが『ロクダイ』のテーマだ。

高校野球、プロ野球ばかりがテーマとなる「野球漫画」というジャンル。
その中において、敢えて今、大学野球、しかも東大野球部を描くあたりが、時代を読み抜くコージィ城倉らしい。

そして、テーマ設定や物語展開は奇抜であっても、その実、綿密な取材をもとに作品を手がけるのもコージィ城倉流。本作においても、現実世界での出来事をベースとして、世界観を広げている。

たとえば、本作における「東大野球部監督」の職業は学習塾経営者。
リアル世界における東大野球部・浜田一志監督もまた、部活動をする学生を対象にした学習塾「Ai西武学院」を経営する“カリスマ塾長”だ。

東京大学には他のライバル校のような「スポーツ推薦」枠がない。
ましてや最高学府である東大に入るためには、浪人も当たり前。
甲子園経験者が集う他の五大学とはそもそもの野球の才で差がある上に、受験期間によって体力も低下してしまった部員ばかり。東大野球部が勝てないのはある意味で当然なのだ。

東大野球部OBでもある浜田は、母校が抱えるこの「ハンデ」を克服すべく、監督就任以前から地道なスカウト活動を続けてきた人物だ。

その活動こそ、「憧れの神宮球場で野球がしたい」という高校球児たちに勉強を教え、文武両道を叶える生徒を増やそうという壮大な計画である。

『ロクダイ』においても、まずは霧隠主将、デレック井慈田、蝦名富一らが東京大学に入るまでの「受験物語」が描かれ、1巻においては野球による対決シーンはほぼ皆無だ。

その一方で、
甲子園組 対 非・甲子園組。
現役組 対 浪人組。
野球エリート 対 受験エリート。

野球漫画とは一見思えない、さまざまなヒエラルキーが描かれている。
今後もこうした「野球カースト」が物語のキーワードになってくるはずだ。

今週末には伝統の「早慶戦」も行われる東京六大学野球。早慶応援団によるポスター合戦が話題となるなど、近年稀にみる注目度だ。その時流の少し先を行く存在として、『ロクダイ』の一読をオススメしたい。
(オグマナオト)