東京の高齢化にどう備えればいいか

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■平均3人を産まねば「1億人維持」は無理

人口減少が始まって10年になる。今後も日本の人口は減り続ける。そして人口減少で最も大きな影響を受けるのが東京だ。だが、多くの人は、この事実から目を背けている。

たとえば政府は昨年6月に示した「骨太の方針」で50年後の人口を1億人に維持するという目標を掲げた。安倍晋三首相も今年4月の国会答弁で「1億人は維持していきたい」と発言している。そのため少子化対策などに力を入れるとしているが、これからの人口減少はすでに確定している事実である。

今後50年で子どもの数は半分以下になる。なぜなら50年後までに子供を産む可能性の高い25〜39歳の女性が半分以下になるからだ。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の推計によると、この年代の女性は25年後までに37.1%も減少する。その大幅に減少した女性が次の世代を産む。50年後には55.1%の減少が見込まれている。

このような急激な少子化は日本特有のものだ。国際連合の人口推計で今後50年の25〜39歳の女性と子どもの増減を比較すると、フランスでは前者が4.2%増で後者が8.4%増、イギリスでは5.2%増で13.7%増、アメリカでは23.0%増で21.9%増。これに対し、日本は女性が55.1%減で、子どもが53.0%減である。

理由は戦後まもなくの大規模な産児制限にある。人工妊娠中絶などを主な手段として、年間出生者数を約4割(約100万人)も減少させた結果、いびつな人口構造が現れた。日本が欧米先進国のようになだらかな人口構造へ戻るためには、あと50年以上かかる。それまでに日本では女性と子どもの激減、そして急速な高齢化が立て続けに起きる。

結婚するかしないか、子どもを何人持つかという選択は、人々の価値観によるものだ。2013年時点の合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子供の平均数)は1.43だった(※)。人口維持には2.07まで引き上げる必要がある。しかし女性の生涯未婚率は30年以上前から上昇を続けており、試算では2040年には30%近くに達する。一方、既婚女性(有配偶女性)の合計特殊出生率は40年以上、2.0+αで安定している。つまり女性が子どもを産まなくなったわけではなく、結婚をしない女性や子どもを持たないと決めた女性が増えているのだ。政府の目標を達成するには、既婚女性が平均で3人程度を産む必要がある。それは非現実的であり、非民主的だ。

こうした人口の変化で深刻な影響を受けるのは地方ではなく大都市である。地方の高齢化は既にピークを過ぎており、今後、人口変動は落ち着く。一部で議論されている「地方の消滅」は杞憂に過ぎない。

これから東京などの大都市では、「人口がたいして減らない」「これまで大量に流入した若者が歳を取り、高齢者が急増する」「全国的な少子化で流入する若者が激減する」という三重苦が始まる。人口が減らないため、行政サービスや公共インフラへの需要は減らない。そこで高齢者が急増すれば、医療や介護への負担で財政支出が急激に膨張する。さらに流入する若者の激減で納税者は減り、税収は低迷する。大都市は未曾有の財政難に陥る。

特に東京の高齢化の規模はあまりにも巨大だ。社人研によると、10年時点で、東京都の65歳以上の高齢者は約268万人。これが40年には約144万人増え、約412万人となる。増加率は53.7%に達する。この結果、これから首都東京の「劣化」が起きると予想される。

■「高齢者難民」が発生。東京はスラム化する

劣化の第一は、東京の「スラム化」である。人口減少高齢社会では、経済成長率が低下する。さらに働いて貯蓄できる人の比率も下がるため、貯蓄率も大幅に低下する。このような局面では、道路や上下水道といった公共インフラを計画的に整理縮小する必要がある。

ところが東京では人口の減少が小幅にとどまるため、大胆な整理縮小ができない。それどころか2020年の東京オリンピックに関連して、インフラの新規投資が膨張している。今後は既存インフラの維持や更新すら困難になるのに、貯蓄を使い果たそうとしている。

大量の「高齢者難民」が発生する可能性も高い。東京の高齢者の約4割は借家住まいだ。近い将来、年金制度が事実上破綻し、給付水準が引き下げられれば、家賃が払えなくなった高齢者が街にあふれ出す。

経済成長が衰えれば、民間によるインフラ整備も期待できなくなる。再開発は行われなくなり、老朽化した商業ビルは、取り壊されず廃墟になる。また鉄道の沿線人口が減れば、路線は廃止・短縮される。鉄道が来なくなれば郊外の住宅地は価値を失い、ゴーストタウンになるだろう。

経済成長を上向かせるには、東京の経済を国際化・高度化する必要があるが、それでも大量の失業が発生するだろう。1950年代後半から70年代初頭に東京へ流入した第一波は、製造業に組み込まれ、熟練労働者に成長した。しかし80年代や2000年以降に流入した第二波、第三波は、流通業などに就いた人が多く、高度なスキルを持つ人は少ない。これは政府と企業、そして労働者自身が、職業教育を軽視し、安価な労働力を追い求めたツケでもある。

ではどうすればいいのか。ひとつの提案は、「高齢者難民」を防ぐために、耐用年数が200年程度の公共賃貸住宅を大量に建設することだ。

民間の賃貸住宅は20〜30年程度で建築費を回収する必要があるため家賃が高い。だが国や地方自治体であれば超長期の借金ができる。耐用年数が200年程度で、維持補修費が他の集合住宅とさほど変わらないものを建てる技術はすでにある(※2)。土地は区役所の上や公共遊休地などを活用する。建築費の回収期間を200年に設定すれば、家賃は月額2万〜3万円程度に抑えられるはずだ。

人口減少高齢社会は資源減少社会だ。限られた資源で社会を維持していくためには、世代を超えて資源を管理する必要がある。年金は現役世代の稼ぎ、つまり「フロー」に頼る仕組みだが、公共賃貸住宅は世代を超えた「ストック」の資源になる。

民間の商業ビルにも「ストック」の管理という視点が有効だろう。個々の対応ではスラム化は防げない。東京にある商業ビルの台帳をつくり、新規建設の調整や建て替えの指導を行う。資源を適正に管理できれば、企業活動の持続性も高まる。

東京の劣化を防ぐうえで、これから必要になるのは変化を恐れないことだ。今後の人口減少高齢社会では、働く人の比率が低下するため、1人当たりの財政支出は増えるが、税収は増えない。このため財政再建を達成するには、人口の減少に比例して財政規模を縮小させるしかない。言い換えれば、年金や社会福祉、公共サービスなど、これまでと同じ社会構造では成り立たないということだ。

経済にも同じことがいえる。米国では、各業界の概ね3分の2、欧州では半分程度が、外国企業だ。だが日本では、いずれの業界も国内企業がほとんどだ。東京の国際競争力を高めるには、日本企業に外国人を呼ぶのではなく、東京に多数の外国企業を呼び込むような「開国」が必要だろう。そのためには日本経済全体の構造改革も求められる。

東京の劣化は、2020年の東京オリンピックの数年後には兆しが見えてくるだろう。対策を急ぐ必要がある。祭りの後で悔やんでも、最早手遅れなのだ。

※1:少子化社会対策白書(平成26年版)は、「合計特殊出生率は2010年の実績値1.39から2014年まで、概ね1.39で推移し」「2060年には1.35になると仮定」「仮定に基づいて試算すると、50年後の2060年には8,674万人になる」としている。
※2:日本建築学会は2009年に「建築工事標準仕様書 鉄筋コンクリート工事」(JASS5)を改定し、新たに「超長期(200年)」の仕様を加えている。

(政策研究大学院大学 名誉教授 松谷明彦=答える人 オバタカズユキ=構成)