『長嶋茂雄を思うと、涙が出てくるのはなぜだろう』出版記念サイン会に臨んだテリー伊藤。

写真拡大

「俺が演出家としてダメになったのはあそこだったなぁって」

テレビ演出家として「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」「ねるとん紅鯨団」など数多くのヒット番組を手がけてきたテリー伊藤

その一方で、これまでに『お笑いプロ野球殿堂 ダメ監督列伝』『君は長嶋茂雄と死ねるか!』『王さんに抱かれたい』『なぜ日本人は落合博満が嫌いか?』『松井秀喜がダメ監督にならないための55の教え』などなど、数多くの野球関連書を世に送り出してきたことで有名だ。

そんなテリー伊藤の最新刊が『長嶋茂雄を思うと、涙が出てくるのはなぜだろう』(ポプラ新書)。
21日、その出版記念サイン会が八重洲ブックセンターで開催され、合わせて行われた記者会見で、演出家時代のあるエピソードを語りだした。

「『元気が出るテレビ』をやっているときに、『元気が出るハウス』っていうタレントショップをオープンさせたんです。これで稼いじゃったんですよ。ディレクターとしては20万円の報酬だったのに、グッズを売ったら何千万っていうお金になっちゃった。もう演出なんかやってる場合じゃねーなって(笑)」

ここでしみじみとこぼれ出たのが冒頭のフレーズだ。

「俺が演出家としてダメになったのはあそこだったなぁって。もしあの時にタレントショップを作らなければ、俺はどれだけ天才演出家でいられたのか」

ここで「テリー伊藤」「長嶋茂雄」「涙」が結びつく。

「あの人生の分かれ道、金がなきゃ違う生き方ができたんじゃねーかなって。(本のタイトルにある)『涙』は、“後悔の涙”なんですよ! 長嶋さんはずっと野球人でいて、余計なことしないで生きてきたんです。皆さんもきっと人生の中で、あの人生の分かれ道でもう一方に行けば自分の人生変わってたんじゃないか……そんなことを感じさせる素晴らしい本です!」

自分で「素晴らしい」と言いきってしまうのがテリー伊藤らしい。

で、テリー伊藤らしい受け答えをもう一つ。
野球に没頭した長嶋茂雄同様に、グッズに溺れず、演出家としての生き方を全うしていたらどんな人生だったのか? そんな記者からの問いにこう切り返した。

「あんまり変わんないと思いますね。ただ、早朝バズーカ砲の火薬の量は増えていたでしょう」

笑い話になるかと思いきや、真剣なまなざしで語り続ける。

「むしろ、あのまま金儲けに走らずに演出家を全うしていたら、今頃たぶん、(テレビ界を)追放されていると思いますよ。四六時中、24時間ずっと鉛筆とメモ帳を持って、そのまま寝ていたんですよ。テレビを作っているのに、どんどんどんどん一般の人と遊離していったんです。あのまま進んでいたらきっと、テレビを作れなくなっていたでしょうね。そういう入り込みすぎちゃう人、いるでしょ? それはそれで面白かったでしょうけどね」

そして話題は、スーパースター長嶋茂雄から、先日亡くなった深夜放送のスーパースター、愛川欽也との思い出について移っていく。

「愛川さんには本当に世話になりましたね。初めてスタジオディレクターをやったときの司会者が愛川さん。それからは50本以上、特番の司会をやってもらいました。当時は本当にハチャメチャにやってましたよ。『たこ八郎に東大生の血液を輸血するとIQが上がるのか?』とか、『メスライオンをスプレーで黄色と黒に塗って虎にする』とか、『下剤と下痢止め、同時に飲んだらどうなるか』とかね。それ全部、愛川さんが司会です」

そんな無茶な企画も愛川の司会術で成り立っていたとう。

「愛川さんはバランス感覚を持っているから。僕らのくだらない企画に乗ってこられちゃうと困るんだけど、愛川さんは『アンタ、なにやってるんだよ!』と言ってくれるから、僕らのVTRが生きてくるんです。最初にテレビで素人を呼び捨てにしたのは愛川さんじゃなかったかな。(ビート)たけしさんよりも早く、『お前帰れ!』って言ってくれた人ですよ。ホント、愛川さんにはお世話になりましたね」

愛川欽也が20年間司会を務めたテレビ東京「出没!アド街ック天国」。その最後の出演となった3月7日放送の1000回記念特番には、テリー伊藤も出演していた。

「最後なのに愛川さんはいつもの調子で話してくれるし、しゃべりもしっかりしているから『お疲れさまでした。海外でも行くんですか?』って言ったくらいなんですよ。だから、あんな形のお別れになるとは思ってもいなかった。でも、愛川さんらしい、カッコイイお別れの仕方だなという感じがして。黒澤(明)監督の『用心棒』とか『椿三十郎』みたいなカッコイイ去り方だよね」

そして最後にもう一度、本の読みどころをアピールした。

「この本を読んでもらえれば人生観が変わるはずです。特に、長嶋さんを知らない世代に読んでもらえれば『こんな凄い人物がいたのか』と。50年後、100年後にも、『あの時代、長嶋茂雄という真っ正面に生きた男がいた』っていうことを感じてもらえると思うんでね。読んで欲しいと思います」

(オグマナオト)