「広島国際平和会議2006」の初日、基調講演する北アイルランド出身のベティ・ウィリアムズ氏(撮影:吉川忠行)

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広島市中区のアステールプラザで今月1−2日に開かれた「広島国際平和会議2006」で、紛争や貧困などから子どもと女性を守る活動を展開しているベティ・ウィリアムズ氏が講演した。普通の主婦から子どものために活動を始めて、ノーベル平和賞を受賞するに至った同氏は、存在する恐怖を変えていくための努力と勇気の必要性を訴えた。発言の要旨は以下の通り。

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 北アイルランドの首都・ベルファストで30年前、激化していた紛争に巻き込まれて3人の子どもが殺されるのを見た。その時に「あれが自分の子どもだったら。何かできることをしなければ」と感じて始めた活動が、一介の主婦に過ぎなかった私がノーベル平和賞を取るきっかけになった。

 非暴力の平和を実現しようとして、それができる人は素晴らしいが、私は完全なる非暴力主義者ではない。子どもが傷つけられているのを見て、怒りの感情がどうしても生まれてきた。しかし、怒りの感情をプラスの方向に変えていけるよう、努力を続けた。何をなすべきか考え、平和は自分の中から生まれることを知った。自分や家族が平和な状態になければ、平和は広がって行かない。

 私はキリスト教徒だが、罪のない人間ではない。自分の額にこれまでに犯した罪がすべて書かれているとすれば、公共の場には出て行けないほどだ。そんな私が腹立たしく思うのは、神を愛すると述べる一方で、神の名の下に殺戮を行っている人がいること。伝統と信仰を継承している主教たちが、妊娠中絶を非難する一方で、戦争による破壊に目をつぶっているのがそのいい例だ。

 毎日この世界で殺されている人の大半は、神からの小さな贈り物、貴重な子どもの命だ。純粋で愛らしく、無力な赤ちゃんが、生まれて間もなく人の手による死を迎えている。この豊かな時代に、年間に1400万人もの子どもが、飢餓による空腹や予防可能な病気で命を落としている。2001年9月11日の米国同時多発テロでは、アラーの名の下に3000人が殺された。しかし、同じ日に3万5615人もの子どもが飢えで亡くなったことを誰も話題にしなかった。

 こうした状況にあるにもかかわらず、多くの国では食べ物の代わりに武器を増やすことを選択している。最大数の核兵器を持ち、世界一の弱いものいじめをしている米ブッシュ大統領は、自国に飢えている人々が4500万人いて、そのうち子どもが1700万人もいることを知らないのか。同じく核兵器を持つインドは、人口を把握できないほどの状況の中で何百万人もが飢えており、特に女性や子どもが影響を受けているのに核兵器保有の道を選んだ。また、数百万人が飢えている北朝鮮も、先日核実験を行った。

 残念ながら、現在提示できるのは悲劇的な数字しかない。今こそ、この耐え難い痛みと死の状況を一変させ、罪なき人々の苦しみの説明責任を政府に迫るべきだ。創造の神の名を語り、または、大権力者の正義を理由に、殺戮(りく)や破壊の理由とすることを止めなければならない。

 献身、努力、勇気を持って、この世界で毎日続いている恐怖を変えていくことが、私たち人間に求められている。【了】

ベティ・ウィリアムズ 1943年英国・北アイルランドのベルファスト生まれ。普通の主婦だったが、76年夏に同地の紛争に巻き込まれて3人の子どもが殺される姿を目撃して衝撃を受け、平和を求める署名運動を開始。女性を中心に草の根レベルで活動が広がり、同年のノーベル平和賞を受賞した。その後も、女性と子どもを守る活動を継続、97年に「子どもたちに愛情を与える国際世界センター」を創設した。

■シリーズ・“巨匠”が語る平和への道
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