日本ハムの二刀流、大谷翔平が投手として大躍進を遂げている。7月1日現在、7勝1敗、防御率2.61。さらに、4試合連続で160キロをマークするなど、日本最速となる162キロも目前。はたして、対戦した打者は「投手・大谷」についてどう感じているのだろうか。

 5月4日に初めて対戦し、無安打に抑えられたT−岡田の感想。

「ストレートが160キロ近く出るというので、打席で見てみたいというのが正直な気持ちでした。実際に対戦してみると、やはり特別な雰囲気がありましたね。田中将大(現ヤンキース)や楽天の松井裕樹にも感じたことなんですが、大谷にもそうしたオーラみたいなものを感じました。実際に対戦して、確かに速かったですね。それにいい変化球も持っていました。ただ、まだ完成形じゃないなと思いました。逆にいえば、まだ高卒2年目なので、コントロールも変化球ももっと良くなるでしょう。僕らとしては、非常に厄介なピッチャーになるのは間違いないでしょうね」

 そしてT−岡田はストレートに関して、こんな印象を持ったという。

「うーん、『どうにもならない真っすぐ』ではなかったですね。大谷投手に対して、僕らは160キロというイメージを持って打席に入ります。一応、プロ野球選手なんで、真っすぐとわかっていれば160キロでも弾けます。これまで僕が対戦した中では、藤川球児さん(現カブス)は『どうにもならない真っすぐ』でしたね。わかっていても前に飛ばなかったですから。160キロをホームランにできれば理想ですけど、いいピッチャーはなかなか打ち崩すことが難しいので。次に対戦することがあれば、失投を逃さないようにしっかり準備していきたいです」

 ヤクルトの雄平は、5月28日の交流戦で大谷と初めて対戦し、1打席目に三振を喫したが、2打席目には逆方向(レフト)に打った瞬間それとわかるホームランを放った。

「本当の本格派でしたね。まぁー、それにしても速かったです。あと、カーブが思った以上に良かった。ホームランになりましたが、あれはど真ん中のボールを振り遅れたものなんですよ。バットを『早く、早く』とイメージして振り出したんですけど、遅れてしまった。本当にいいピッチャーですね」

―― 雄平選手もプロで投手と野手を経験しています。

「僕は同時にやってませんので......。語るのはおこがましいんですが、投手と野手では体の使い方が全然違うので、想像以上にしんどいと思います。それを今、彼は同時にやっているんですからね。僕とは次元が違います」

 同じくヤクルトの山田哲人も交流戦で初対戦し、4打数3安打と大谷を打ち崩した。

「試合前の情報として、とりあえず真っすぐが速いと聞いていました。状況によっては、アウトコースや低めは捨てようというバッティングプランでした。印象としては、僕の時はけっこう抑え気味で投げていた気がします。僕が走者としてセカンドにいる時、バッターはバレンティンだったのですが、投げっぷりが全然違いましたから(笑)。打者として悔しくないかと聞かれれば『悔しい』ですけど、抑え気味で投げてくれたおかげで打てたのはラッキーでした」

 山田は大谷のストレートについて、次のように語った。

「ただ、大谷投手はスピードガン表示より出ていない気がしますね。僕に球速の感覚がないからかもしれませんが、140キロぐらいかなと思っていたら、150キロだったり(笑)。とはいっても、実際に打つと詰まってバットを折られたんですよね」

 そして直近の登板は、6月25日のDeNA戦。試合前、中畑清監督の囲み会見で、真っ先に名前が挙がったのが大谷だった。

「オープン戦で1回対戦しているのかな。マウンド度胸があるし、あのスピードでストライクゾーンに投げられる。ただボールが速いだけの暴れ馬じゃないもんね。名馬になりつつある気がするね。彼から点を取るには、ラッキーパンチが出るか、出ないか(笑)。後藤(武敏)に期待しておこうかな(笑)」

 そして試合後、中畑監督はこう語った。

「(7回を2失点に抑え込まれ)攻略の糸口がつかめなかった。投手として別格なものを感じました」

 中畑監督からキーマンに指名された後藤は試合前、大谷の印象についてこう話してくれた。

「オープン戦では2打数1安打でしたかね。やっぱり、ボールに威力があったし、変化球もキレがありました。160キロはテレビの映像で見ましたが、狙っても打てない真っすぐかなという印象を受けました。真っすぐで押していけるピッチャーですよね。もちろん、対戦するのが楽しみな投手ですよね。今まで対戦した中では、松坂大輔(現メッツ)の真っすぐがベストでした。真っすぐを張っていても、打てない、かすらない、当たらないでした。大谷くんには力と力の勝負では不利だと思うので、まずは1打席目に振ってみて、その感覚から対策を考えるつもりです」

 この日の対戦は、1打席目は初球、154キロのストレートを打ってショートゴロ。2打席目は153キロのストレートをセンター前ヒット。

「初球から真っすぐ系のボールが来たら、全部振っていくつもりでした。(2打席目は)結果的にたまたま当たったというか......完全に詰まらされました」

 そして6回裏の第3打席は、打点1を挙げたが151キロのストレートに一塁ゴロ。この後、バルディリスの打席で大谷は160キロを出した。

「ただのピッチャーじゃないですよね。(バルディリスの時は)158キロ、160キロとスピードが上がっていった。一気にギアを上げてきましたね。力を入れるところと抜くところをわかっている。抜くといっても普通に150キロは出るんですけどね(笑)。柔と剛の使い分けができる器用さがありますね」(後藤)

 160キロを体験したバルディリスは試合後、大谷について次のように語った。

「(160キロについて)初球に158キロが出た時点で、正直驚きました。昨年も対戦しましたが、あれだけ速い真っすぐで勝負したことがなかったので......。確かに、160キロは速いと思いますが、自分としてはクルーン投手の方が速く感じました」

 今季、大谷に2連敗。5月13日にはプロ初完封を許した西武。正捕手の炭谷銀仁朗は捕手目線から大谷評を語ってくれた。

「速かったですね。ズドンという感じではなく、伸びのある真っすぐでした。それに変化球も良かったです。ただ、変化球はまだコントロールがアバウトなので、今後は真っすぐに合わせて、甘いボールをどんどん狙っていこうという感じですかね。打者としていちばん厄介なのがコントロールのいいピッチャー。大谷投手は、そこまでのコントロールはまだないけれども、あの速い真っすぐがあるからファウルでカウントを稼げるし、もちろん三振も取れる。あくまでもあの真っすぐを軸とした配球になると思うんですよね」

 また、ストレートについては次のように語った。

「大谷投手の真っすぐは、まだ打てるチャンスのある真っすぐなんです。ボールの質は素晴らしいのですが、投げ方と実際に来るボールが一致するんです。たとえば、腕の振りが早いのにボールが遅いとか、フォームはめちゃくちゃゆっくりなのにそこからパーンと来るとか。大谷投手の場合、打者がタイミングを崩されるようなフォームではないんです。過去に対戦した中では、(藤川)球児さんの時はあの真っすぐを打つのは無理やと思いました」

―― プロの打者であれば、160キロは打てないボールではないと。

「僕の感覚ですが、149キロと150キロはイメージが違いますが、150キロより先は一緒ですよ。ただ速い、という感覚ですね。160キロは実際に見ていないのでわかりませんが、全球そのスピードではないですからね。打席の中で160キロがひとつ来たぐらいだと、速いなという感覚はあっても155キロとかと同じなのもしれないですね。たとえば、試合で4打席対戦して、10球真っすぐを見るとします。僕らもプロなので目が慣れれば空振りはしないようにできます。ただ、そこに変化球であったり、投球テンポや抜群のコントロールであったり、バッターが嫌がる要素が少しでも入ってくると、あの真っすぐはもっと生きてくるんじゃないかと思いますね。5月にウチは完封されましたが、基本は5〜7回までしか投げていないですよね。今後はもうちょっと長いイニングを投げられるようになると思いますし、いろんな部分でレベルアップしてくると思います。"打つのは無理"というピッチャーになる可能性は十分にあると思います」

 そしてパ・リーグを代表するヒットメーカーの内川聖一(ソフトバンク)選手にも話を聞かせてもらった。

「大谷投手との対戦はロマンを感じています。昨年の初対戦(6月26日)の時だったかな。僕は3番を打っていたのですが、初球に150キロの真っすぐが来たんです。ちょっと本気になって投げてきてくれたのかなと、ちょっと嬉しくなったことを覚えています。今年、打席に立って印象に残ったことは、体がひと回り大きくなっていたということです。がっしりして、凄みが増して、存在感も強烈でした。去年はスラリとしたイメージでしたから。160キロが出たのは交流戦からですよね。テレビの映像でしか見ていないのですが、きっとすごいんだろうな」

―― 見る側としては、「160」という数字に夢を見ます。

「もちろん、速さやボールの質は人ぞれぞれ違いますが、150キロを超えちゃえばどれも一緒という感じですね。単純に速いだけなんです。打者として困るのは、真っすぐが速くて、どの変化球でもストライクが取れるピッチャーです。ボールが速いほど、ピッチャーからバッターへボールが到達する時間は早くなります。その速い真っすぐに対応するためいつもよりも判断を早くしなければならない。そうなると変化球への対応が難しくなってしまう」

―― 今の大谷投手を、たとえばグッド、ベスト、スペシャルにランク分けすれば、どれに当てはまりますか?

「スペシャルですよ。普通、高卒2年目でローテーションを任されることだけでもスペシャルなんですから。プラスして、打者としてもクリーンアップを打っている。僕らからすればうらやましい話ですよ。打っている時は『こんなに簡単に打っちゃうんだ』と思うし、投げている時は『こんなすごいボールを投げられるんだ』と。そういうのを目の当たりにしてしまうと、僕らとは体の仕組みが違うんだろうなと考えてしまいますよね(笑)。僕は160キロを投げられないし、あんなに速く走れない。ちょっと、持っているものが凄すぎます。これから普通に経験を重ね、成長していったときにどのくらいの選手になるのか、想像がつかないですね。二刀流を続けることに関しても、僕らにはわからない苦労や難しさがあると思うし。たとえば、打者として練習する時に右手にマメを作れないとか......。本当に難しいことに挑戦しているのだと思いますね」

 大谷の二刀流について、先日、解説者の吉井理人氏は「ピッチングのパフォーマンスが上がってきている状態で、打者もこなすとなると、相当な疲労が残ると思う」と言っていた。

 ヤクルトの杉村繁コーチは、「大谷はピッチャーに専念したほうがいい」と感じたという。

「この前、彼と対戦したけど、持っているボールの質が違うよね。真っすぐだけでなく、カーブもスライダーもいい。それにフォークもよく落ちる。この前対戦した時は真っすぐが少しシュート回転していたけど、もっと質が上がってくればメジャーでも十分に通用するでしょう。それで、真っすぐの質を高めるためには練習しかないと思う。だから、バッティング練習に時間を費やすのはマイナスではないか、と。ピッチャーと野手では、練習に異なる部分がたくさんあるのでね。たとえば、先発で投げて、中5日だったらその間に走ったりして、投手としての練習をいろいろできる。それを1日休んでバッターの練習をやるとなると。ちょっと想像がつかないですね」

 とはいえ、杉村コーチは「打者・大谷」にも十分すぎる魅力を感じている。

「バッティング練習を見ていると、これがまた素晴らしいわけ(笑)。チームが二刀流を挑戦させるのもわかりますよ。逆方向に強い打球をボコボコ打てるんだから。あんな選手はそうはいないよ。責任は大きいだろうけど、ああいう選手を育ててみたいよね(笑)。でも、個人的な意見としては、ピッチャーに専念したほうがいいと思う。160キロを投げる投手は、今は彼しかいないんだから」

 ものすごいスピードで進化を遂げる大谷翔平。もう少しすれば、「わかっていても打てなかった......」というコメントが出てくるかもしれない。さらに、日本人最速の夢も時間の問題かもしれない。

島村誠也●文 text by Shimamura Seiya