サッポロビールが昨年6月に発売し、ヒット商品に育った第3のビール『極ZERO(ゼロ)』が販売中止に追い込まれた。国税庁から製造方法について照会を受け、税率が低い第3のビールと認定されない恐れが出てきたためだ。
 人気商品であることから同社は製法を変え、7月15日からは同名の発泡酒として発売するが、唐突な発表を受け、持ち株会社であるサッポロホールディングスの株価は急落。市場では「いったい舞台裏で何があったのか」といぶかる声しきりである。

 無理もない。極ゼロは同社が開発に4年を費やし、健康志向の消費者を取り込もうと痛風の原因とされるプリン体と糖質をゼロにしたビール類では世界初の商品。ビール類の中でも酒税が最も安い第3のビール(350ミリリットル当たり税額28円)として売り出し、発泡酒(同46.99円)やビール(同77円)に比べ、価格が安いことから発売半年の昨年12月までに計画を6割も上回る358万ケース(1ケースは大瓶20本換算)を販売した。今年に入っても1〜5月で計270万ケースを売り上げるなど好調を持続し、「黒ラベル」「エビス」「麦とホップ」に次ぐ第4の柱に育ちつつあった。
 その極ゼロを5月末の製造分をもって販売終了とし、約1カ月のブランクを置いて新たに税率の高い発泡酒として再投入するのである。これに伴い、現在120〜140円の極ゼロは20〜30円の値上げが避けられず、当然ながら価格面での魅力は低下する。

 なぜサッポロは苦渋の決断を強いられたのか--。
 尾賀真城社長は6月4日の記者会見で、今年1月に国税当局が「酒税の適用区分を確認したい」として極ゼロの製造方法についての情報提供の要請があったこと、その要請に応えた同社は社内でも酒税法の解釈について検証作業を慎重に進めていると説明。その上で「われわれはそう(第3ビールと)認識しているが、よくわからない状況で続けるよりは発泡酒に変えた方が明確」と、決断に至った経緯を明かした。どの製造工程で区分が異なる可能性があると判断したかは「商品開発の秘密事項」と口を濁したが、一部には蒸留酒の配合に問題があり、国税当局が第3のビールに定義づけられている「主原料が麦芽以外か、発泡酒に蒸留酒を加えたもの」に該当しないとにらんだ節がある、との観測が浮上している。
 とはいえ、まだ国税当局は酒税法上の分類を明らかにしておらず、その意味ではサッポロの自主判断。だからこそ尾賀社長は「商品の安全性も表示の問題もないが、重要な部分であり、(第3のビールとしての)販売終了を決めた」と付け加えるのを忘れなかった。

 市場関係者は国税当局が今年の1月、極ゼロの製法に疑問を抱いて情報提供を求めたことに注目する。考えられるのは大きく2点ある。一つはサッポロ関係者からの情報リーク。平たくいえば「極ゼロは第3のビールと称しているが、実際は違う」とのタレ込みである。もう一つは当局が発揮した“驚異的”ともいえる嗅覚だ。麦芽を含め同社が使用している原料の入管統計や国内の調達状況を詳細にチェックし、極ゼロの生産量とのギャップを分析すれば、第3のビールとしては疑わしい点がいくつか浮上する。その裏づけを得るべく、製造方法を調査したとの見立てである。
 「不満分子によるタレ込み説は捨て難いですが、極ゼロは世界初の製法を売り物に短期間で人気商品に育った。出るクイは打たれるというように、ただでさえ税収アップに目の色を変える国税が『何かの秘密があるに違いない』と推し量り、独自の嗅覚を働かせたとしても不思議ではありません」(市場関係者)

 確かにビール各社と国税のイタチごっこは今に始まったことではない。1990年代に各社は、ビールよりも麦芽が少なく価格が安い発泡酒を相次いで販売した。これに目をつけた国税当局が発泡酒の課税を強化すると、もっと安い第3のビールが登場。今やビール類市場で唯一、市場が拡大しているのだ。
 その中でも存在感を発揮しているのが極ゼロである。市場筋が「サッポロは国税から狙い撃ちされた」と囁き合うのも無理はない。

 同社は国税が第3のビールに該当しないと判断した場合、これまでに収めた税額との差額116億円を追加納税するという。親会社に当たるサッポロHDは昨年12月期の最終利益が94億円。今期予想は50億円で、いくら酒税は事業会社(サッポロビール)が支払うとはいえ、結局はHDの屋台骨を直撃し、空前の赤字地獄に転落する。
 かねて「税務署は取りやすいところから情け容赦なくむしり取る」と言われてきた。極ゼロのファンはもちろん、関係者はあらためてその言葉に歯ぎしりしていることだろう。