「『トップに立て』というリクエストは、今のところ聞いていない」
 ウルグアイに2─4と完敗を喫した後のザッケローニ監督の発言が取り上げられているが、それ以上に違和感を覚えた言葉があった。
「伊野波を見たかったから」
 吉田麻也と伊野波雅彦を交代した理由についての返答だ。
 
「(監督は)常に何か勝負をしてなければいけないと思う。だから、『左右どっちのエレベーターが来るかな』ぐらいの小さな勝負はいつもしているよ(笑)。いまは(監督を辞めて)勝負することがないからね」

 G大阪の監督を退任した後の西野朗氏の言葉である。

 ザッケローニ監督は、日本代表が成長するために必要なのは「真剣勝負の場を増やす」ことだと語ったが、それは自身にも当てはまる。テストの時間は充分に与えられており、ここからは、たとえば選手交代などで真剣勝負すべきだ。
 
 というのも、トルシエ元監督も、当初は効果的な選手交代をみせていた。だが、日韓W杯が近付き、結果が求められるようになり、選手交代に迷いが見え始めた。ジーコ元監督もドイツW杯のオーストラリア戦で、致命的な采配ミスをした。
 
 プレッシャーがかかった真剣勝負の試合が、監督としての見せ場となる。だからこそ西野氏は、勝負から離れないように意識をしている。日本サッカー協会の原技術委員長が、欧州チャンピオンズリーグや欧州トップリーグなどで結果を残した監督を招聘しようと尽力してきたのも、そういった経験を加味してのはずだ。

 選手交代というオプションを戦術的なものではなく、“選手を代える単なるテスト”で終始しては、ザッケローニ監督は本大会まで“真剣勝負”する場がないのと一緒だ。

 ザッケローニ監督を批判することで日本代表が強くなるとは言わないが、議論することで物事は発展する。采配への議論から生まれた批評がプレッシャーとなり、真剣勝負の空気を作るはず。一年を切ったブラジルW杯に向け、そういった空気が必要だと思う。

◇著者プロフィール:石井紘人 Hayato Ishii
C級ライセンス・三級審判員の資格を持つ。自サイトFootBall Journal(fbrj.jp)にて審判批評、審判員インタビュー、さらに『Jリーグ紀行』と『夏嶋隆コラム』をメルマガ配信。審判員は丸山義行氏から若手まで取材。中学サッカー小僧で『夏嶋隆氏の理論』、SOCCER KOZOで『Laws of the game』の連載を行なっており、サッカー批評などにも寄稿している。著作にDVD『レフェリング』『久保竜彦の弾丸シュートを解析』。ツイッター:@FBRJ_JP。