まさに起死回生の一撃だった。

 1点ビハインドで迎えた90分、クロスから相手のハンドを誘った本田圭佑が、自らPKのキッカーに名乗り出る。ど真ん中に蹴り込まれたボールはネットを揺らし、日本は土壇場で1―1の同点に追い付いた。同じ1986年生まれで、「W杯優勝を目指そう」と誓い合う盟友に対して長友佑都は、「蹴ったのは真ん中ですからね。彼のメンタルの強さを物語っていると思います」と言って脱帽した。

「圭佑なら決めると思っていたんで、なんの心配もしてなかったです。一応、止められたときのために、しっかり(ゴール前に)詰めましたけど、信頼はしていました」

 それにしても、厳しいゲームだった。全体を通して主導権を握っていたのは日本だったが、身体を張ったオーストラリアの守備に、本田や香川真司のシュートは阻まれ続けた。

 ドローで終わってもW杯の出場権を獲得できる。しかし、日本に引き分け狙いの思惑はなかった。79分にFWの前田遼一に代えてDFの栗原勇蔵を投入したシーンも、守備を固めたわけではなかったという。

「フォーメーションを変えて前に行け、って言われました。得点を狙うために僕をサイドハーフにしたと思ったので、積極的に仕掛けていこうと」

 センターバックの今野泰幸を左SBに、左SBの長友を左サイドハーフに移すシフトチェンジは、2011年1月のアジアカップ決勝でオーストラリアを破ったときと同じもの。その再現を狙ったが、直後、相手のクロスが流れてネットを揺らすという不運な形で失点してしまう。残りは10分――。焦りが生じてもおかしくない。しかし、動揺はなかったと長友はきっぱりと言う。

「誰ひとりとして、動揺することなく前を向けた。それが、最後に引き分けに持ち込めた要因だと思いますね。もちろん、勝たなければいけない試合で、そこは厳しく反省しないといけない。ただ、拮抗した展開でなかなか点を奪えず、残り10分を切った時点で先制されたのに動揺しなかったのは、ブルガリア戦と比べて、メンタル面でみんなが成長した証なんじゃないかと思いますね」

 5月30日のブルガリア戦。日本は見せ場をほとんど作れず、0−2で完敗した。後半だけピッチに立った長友は試合後、「ちょっと悔しくて試合を冷静に振り返ることができない。帰ってしっかり振り返りたいと思います。正直、今、危機感が強いです」と、不甲斐なさを隠せずにいた。

 そして長友は、ブルガリア戦の翌日からオーストラリア戦前日まで、警鐘を鳴らし続けたと語る。

「僕は、戦術面よりメンタル面に問題があると思っている。ハングリーさや球際の厳しさが足りないし、勝つためにはずる賢さも必要になる。そういう部分をもっと出していかないと。W杯まであと1年しかない。僕は本気で優勝を目指しているけど、正直、このままでは手遅れになる」

 W杯の出場権をほぼ手中に収めていることもあって、チーム内に流れる緩慢な空気を感じ取った長友は、あえて厳しい言葉をチームメイトに投げかけた。その後、ミーティングで修正点を洗い出し、メンタル面を引き締めたチームは、オーストラリアとの一戦で本来の戦う姿勢を取り戻す。

「今日はね、立ち上がりから本当に、みんなの気持ちが入っていたと思います」

 とはいえ、本気で世界一になるためには、まだまだ足りないことばかり。危機感の大きさは変わっていないと長友は言う。

「今日だって、世界を目指すうえでは勝たなければならない試合。だから、本当に悔しい。世界はまだ遠いな、っていうのが実感です。日本代表に世界のトッププレイヤーが3人ぐらい、いるようにならなければ難しいと思う。選手個々の実力が高まれば、チームとしての総合力も上がるわけで。結局、個人なんですよ。そこしかない」

 また、自分自身のプレイに向ける視線も、厳しい。

「僕自身の実力も本当にまだまだで、あの場面(80分、左サイドからドリブルでペナルティエリアに進入してシュートした場面)も、圭佑がフリーだったのは分かっていたけれど、シュートコースが見えたので、決めてやろうと。でも、ボールが内側に入り過ぎてしまった。あれ、全盛期のマイコンやダニエウ・アウベスなら、冷静に決めているんじゃないですか。そう考えると、自分の実力も厳しいな、って痛感しています」

 それでも、と長友は言う。

「僕は本気で優勝を目指している。そのために、別に笑われても構わない。ただ、本気で目指さないと辿(たど)りつけないと思っているから、信念を持って目指したい。残された時間は短いけど、気合いを入れてやっていきたいと思います」

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