【プロ野球】「育成選手制度」の運用にみる球団ごとの温度差
今シーズンはケガもあって一軍には定着できなかった大立だが、巨人の首脳陣は、大立の気持ちのムラを危惧していた。精神的なコントロールが不得手で、マウンドでも時折、苛(いら)つくのが見てわかる。だから、大事なところで送り出すのには勇気がいるピッチャーだと評していた。それでも、いいときのボールが一級品であることは誰もが認めていた。速いストレート、空振りの取れる変化球は、ショートリリーフのサウスポーとしてうってつけの存在だ。だから巨人は育成での再契約をオファーしたのだ。しかし、大立はそれを断った。ナマイキだ、勘違いしているという声があったのも承知している。それでも、違う世界に飛び出してみたかった。隣の芝は青いと信じたかった。
この日の仙台は、まるで彼らの野球人生を思い起こさせるような、激動の空模様だった。小雨が降ったかと思えば、青空が広がって、汗ばむほどの陽射しが照りつける。するといつしか空は灰色の雲に覆われ、またも雨がパラつく。
Kスタ宮城で行なわれた12球団合同トライアウトの会場に、大立の姿があった。
投手36人、野手20人。巨人の投手だけで大立を含めて6人が参加していた。
大立は、打者4人に対して、1四球の2三振、ショートフライ。ズラリと並ぶ各球団の編成担当者に、ストレートの速さ、空振りの取れるチェンジアップ、スラ イダーのキレを見せつけた。そして、ソフトバンクからのオファーを受け、入団を決めた。ただし、ソフトバンクとはまたも育成契約だった。
「本当は支配下で契約したかったんですけど、育成だと言われれば仕方がありません。育成については、ソフトバンクも一緒なのかもしれませんけど、でも巨人に育成で残るという選択肢は自分の中にはなかった。もう一度、巨人で育成からというのは、後戻りする気がしてしまったんです。ただ、僕はこの3年間を後悔したりはしていません。いいことも悪いこともありましたけど、巨人でしかできないことを経験させてもらって、それはこれから先の人生の糧となると思っています。今回の決断は僕にもリスクはありましたけど、『よし、やってやろう』と踏み出すことができた。行き先も決まって、自分にとっては精神的に成長できたかもしれません。新天地でもこの経験を生かしてやっていければと思っています」
今年のドラフトで、育成選手は全部で13人、指名を受けた。12球団のうち、5球団は一人も指名しなかった。育成選手を指名した7球団の中には、支配下の数を減らしてでも育成で獲ろうという方針の球団もあった。もちろん、育成で獲得した方が経費を抑えられるからである。
現状、育成選手を山のように抱えている巨人のような球団もあれば、過去、ひとりの育成選手とも契約していない日本ハムのような球団もある。その両チームが日本シリーズで対戦しているのだから、70人枠を撤廃しても不公平にはならないのは火を見るより明らかだ。にもかかわらずその動きが止まってしまっているのは、育成選手制度は恰好の経費節減になると、各球団が気づいてしまったからに他ならない。
育成選手には契約金がない。支配下に切り替える際には支払われても、育成である限りは必要ない。球団がプロのレベルに達していないと判断しているのに、プロになりたいという選手の想いを利用して極端に安く契約し、何年か試してみようというのだから、選手の足下を見たリスク回避の経費節減制度だと言われても 返す言葉はないはずだ。
2006年に導入された育成選手制度。
巨人ではこの年、支配下選手からの切り替えを含めて、7人の育成選手と契約している。以降、去年までに61人の選手と育成契約を結び、すでに約半分の選手が自由契約となっている。