空中分解した日本だった。これだけ衝撃的な敗戦を目の前にしても、ファンは試合の落ち着かなさとは裏腹に、いたって冷静だったように思う。


「これからだ !」「次だ次」。今まで、フル代表も含めアジア最終予選で数々の試練を経験して、ファンはもはや達観の域にある。それでも、シリアに勝ち点9で並ばれた悔しさの持っていきどころがない。


ところで、昨年のアジアカップ以来、いろいろな名言が飛び出しファンを喜ばせている松木安太郎氏の解説に今年もネット上で期待が集まった。


蓋を開けてみれば、いつものハチャメチャ解説ぶりは鳴りを潜め、観ている側も普通に試合に集中できた。「いつ、名言が飛び出すんだろう?」という期待感は、試合が進むにつれ、どこかへ消えていた。解説に集中するあまり、試合がおろそかになる本末転倒は避けられた。


後半45分、シリアに勝ち越しゴールを決められてしまう。松木氏は、GK権田をかばってるつもりなのか「キーパーってのはねぇ、いつも失点にかかわるんですよ」と、深いのか浅いのかよくわからない、この日唯一といっていい名言を残してくれた。もうちょっと言葉を言い換えてくれればいいのにね…。例えば、「キーパーってのはねぇ、いつも失点を背負う宿命なんですよ」とかね。


後半49分34秒、シリアGKのスローイング直後に倒れこんだ場面では「腰が痛かったら、あんなに投げられるわけないですからね」と、お決まりの中東勢の時間稼ぎっぷりを見事にブッタ切ってくれた。





そして、無情のタイムアップ。





「前向きに行かなきゃ」「忘れちゃいけないのは、同率のポイントだということ」何度も言わなくてもわかってますって。


これだけ、衝撃の結末を浴びたファンも、松木氏の存在を「心の拠り所」「癒し」「希望の光」と暖かい眼差しで受け止めていた。僕らは、試合内容とは全く関係ないところに、この日のふがいなさをぶつけ、紛らわせていたのかもしれない。


松木氏の解説は、日本代表の試合において、なくてはならない風物詩として定着した。敗戦の唯一の救いは、松木氏のいつも通りのコミカルに安定した解説ぶりだったかもしれない。





おわり