■過去最低の18位に終わった昨季

もう失敗はできない――1月14日に行われた横浜FCの新体制発表記者会見からは、クラブ側のそんな緊張感がひしひしと伝わってきた

それもそのはず、前年の同じ場で岸野靖之監督は「目標はJ1昇格ではなく、J2優勝」と大風呂敷を広げたものの、結果は過去最低の18位。万全の補強を敢行し、自信満々に挑んだシーズンだったにも関わらず、結果が実らなかっただけに、今年にかける意気込みが並々ならぬものであるのも当然と言える。昨年と打って変わって「J1昇格は非常に難しい目標。でも、みんなでまとまって戦えれば、達成可能と思っています」(北川浩史代表取締役社長)と慎重な物言いに終始していたことからもその思いがうかがえた。

ただ、戦力は昨季以上に充実している。「J1経験者、J1昇格経験者、若手の有望株、そして横浜FCのために戦ってくれる選手をそろえた」と奥大介強化部長が補強ポイントを語るが、特に印象的なのが、元日本代表FW永井雄一郎や06年の横浜FCのJ1昇格の立役者である内田智也をはじめ、30代前後の経験豊富な選手が多いことだ。ルーキー以外はどの選手も実績のある選手ばかりで、J2で屈指の戦力が揃ったことは間違いない。昨季18位ながらも、「J1昇格候補」の一角に名前が挙がることだろう。

■会見で笑顔を見せなかった岸野監督

昨年はGMを兼任する岸野監督の主導で選手を集めた。しかし、それで結果が出なかったことで、岸野監督はGMを辞任。監督に専念することとなり、チーム編成の主導権は昨年10月に強化部長に就任した奥に託された。岸野監督の意見を取り入れながらも、あくまで奥強化部長の判断で選手を集めてきた。その結果、ベテランを多く集める強化方針となった。そこに「結果を出すために言い訳できない戦力を揃えた」という岸野監督へのメッセージを感じることができる。とにかく目の前の結果だけを求めてチームが作られたことに、岸野監督も相当のプレッシャーを感じているのだろう。会見で笑顔を見せることはなかった。

このチームを岸野監督がうまくまとめ上げれば、十分J1昇格を狙えるはずだ。しかし、同時に危うさも秘めている。ベテランが多い上に「ケガ持ちの選手が多い」(メディカルスタッフ)チーム編成の中で、果たして岸野監督が掲げる「厳しいトレーニング」を貫くことができるか。ただでさえ、就任して2年間ともけが人を続出させているだけに、岸野監督がどういうアプローチでチームを作っていくかが今季のカギを握っている。鳥栖時代、若手を鍛え上げてチームを強化したことで名をあげた岸野監督。実績のある選手たちをどう料理するのか。腕の見せどころと言えそうだ。


■J2ではトップレベルの戦力が揃った

とはいうものの、選手の名前を見ると、期待が膨らんで来てしまう。FWには永井に田原豊、カイオ、大久保哲哉、難波宏明とJ2ではトップレベルの選手をそろえており、昨季の課題であった得点力が向上することは間違いないだろう。現段階で岸野監督がどの組み合わせを選ぶのかまったく想像もつかず、結果を出せない選手はベンチに回されてしまうシビアなポジション争いがチームに好影響を与えるはずだ。他のポジションでもハイレベルなポジション争いが繰り広げられることが予想される。チームが機能すれば、圧倒的な強さを見せるに違いない。そんな思いをはせてしまう陣容が整った。

その中で唯一懸念されるポジションがボランチだ。岸野サッカーにおいてボランチは生命線である。一昨年はホベルトが途中加入したことによってチームは一気に調子を上げることとなった反面、昨季はファビーニョがフィットしなかったことが低迷の一因となった。それだけにボランチは今季における最重要補強ポイントであったはず。しかし、今のところ、ボランチを本職とする選手の補強がないことに疑問を抱かざるを得なかった。