【寺野典子コラム】内田篤人、新たな戦い(1)
4カ月前の5月21日、ベルリンで、ドイツのフットボールシーズンの幕を下ろドイツカップ決勝戦が行われた。2部のデュイスブルグ対シャルケの一戦。スタジアムは両チームサポーターで埋まり、お祭りのようなムードがいつものリーグ戦とは異なる。開幕セレモニーのあと選手が入場するのは、マラソンゲート呼ばれるスタジアムのゴール裏付近。聞けばこの決勝戦のみの特別な演出という。ノイアーを筆頭に姿を見せたシャルケの選手の中に、内田篤人の姿はなかった。
「ゲルゼンキルヘンから試合の3日くらい前にベルリンへ来たとき、『お前はこのチームでも一番というほど試合に出てきた。その疲労が蓄積していることは理解しているが、パフォーマンスも低下している』って、監督から話があり、決勝戦の先発に外れた」
リーグ戦の合間を縫うように実施される大会は、所属リーグのカテゴリーに関係なく対戦カードが組まれる1発勝負のトーナメント戦。5月4日のCL準決勝対マンチェスター戦で、大敗を喫したのを契機に内田のリーグ戦でのパフォーマンスは決して芳しいものではなく、チームもリーグ戦では連敗が続いていた。
ワールドカップ南アフリカ大会直後にシャルケの一員となった内田だが、合流直後は怪我もあり、なかなかチームにフィットせず、ベンチ外ということもあった。それでも当時のマガト指揮官の言葉が彼を支えた。
「最初は上手くいかないものだ。私は内田の力を知っている。だから焦らずにやっていけばいい」
この言葉に「救われた」と後に内田は語っていた。そして、その指揮官から認められたい一心でハードなトレーニングで手を抜くこともなかった。秋頃から先発に定着し、チャンピオンズリーグでも躍進する。
そして1月のアジアカップを戦い、優勝カップと共に帰国。
3月3日、ドイツカップ準決勝の相手は敵地でのバイエルン・ミュンヘン。とにかく守備を固めてカウンター攻撃を狙う。強豪クラブとの一戦で勝機を得るにはそんな方法しなかったのかもしれない。しかしそれが当たり、シャルケが勝利する。
「右サイドのロッペンがやっかいだから、お前はリベリを一人でどうにかしてくれ」
試合に向けた練習でもチームメイトからはそんなアドバイスしかかなった。しかし、内田に不満もなかった。映像などで確認したのは彼のスピードと駆け引き。わざとらしくボールをさらし、こちらが飛び込んでくるのを待っている。
「ここで飛び込んで、交わされたら、追いつくことはできない」
身体を当てた瞬間、その堅さに驚いた。こちらが全力でぶつかっても動じない。リベリにパスが出ないようにポジションニングに気を配る。1対1の場面に持ち込めれば、止められる自信があった。相手の得意な形へ持ち込むのではなく、こちらの得意な形へと誘い込む。フル回転で試合を読む内田の守備は積極的なものだった。ガツンと当たって奪うというような派手さはないが、相手をイライラさせるに十分のやっかいなプレーで、リベリに仕事をさせなかった。勝利したこともあり内田の評価は一気に高まった。
その後、ランクニック監督が就任。新監督はそれほどチームをいじることなく、CL準々決勝でインテル相手に2連勝と手ごたえを得たが、準決勝のマンチャスター・ユナイテッド戦では、まるでサッカーをさせてもらえなかった。
ハードワークが続く日々であったが、CLを戦っているという充実感、ドイツとは違うサッカーに触れる刺激が内田の原動力になっていた。すでにリーグ戦では低迷し、ヨーロッパリーグ出場権のかかるドイツカップ優勝への思いは強かった。
その決勝戦。リードして迎えた後半途中にピッチに立ち、優勝の歓喜をチーメイトたちと味わった。
「最後に使ってくれたのはうれしかった。確かに1年間無我夢中でやってきた。もう少し、サボるというか、ゆっくりする時間があってもよかったのかもしれいない。頑張ってきたけれど、最後のひと伸びが足りなかったということ」
優勝の余韻があるのか、そう語る内田の表情にあまり悔しさは見えなかった。(続く)
リーグ戦の合間を縫うように実施される大会は、所属リーグのカテゴリーに関係なく対戦カードが組まれる1発勝負のトーナメント戦。5月4日のCL準決勝対マンチェスター戦で、大敗を喫したのを契機に内田のリーグ戦でのパフォーマンスは決して芳しいものではなく、チームもリーグ戦では連敗が続いていた。
ワールドカップ南アフリカ大会直後にシャルケの一員となった内田だが、合流直後は怪我もあり、なかなかチームにフィットせず、ベンチ外ということもあった。それでも当時のマガト指揮官の言葉が彼を支えた。
「最初は上手くいかないものだ。私は内田の力を知っている。だから焦らずにやっていけばいい」
この言葉に「救われた」と後に内田は語っていた。そして、その指揮官から認められたい一心でハードなトレーニングで手を抜くこともなかった。秋頃から先発に定着し、チャンピオンズリーグでも躍進する。
そして1月のアジアカップを戦い、優勝カップと共に帰国。
3月3日、ドイツカップ準決勝の相手は敵地でのバイエルン・ミュンヘン。とにかく守備を固めてカウンター攻撃を狙う。強豪クラブとの一戦で勝機を得るにはそんな方法しなかったのかもしれない。しかしそれが当たり、シャルケが勝利する。
「右サイドのロッペンがやっかいだから、お前はリベリを一人でどうにかしてくれ」
試合に向けた練習でもチームメイトからはそんなアドバイスしかかなった。しかし、内田に不満もなかった。映像などで確認したのは彼のスピードと駆け引き。わざとらしくボールをさらし、こちらが飛び込んでくるのを待っている。
「ここで飛び込んで、交わされたら、追いつくことはできない」
身体を当てた瞬間、その堅さに驚いた。こちらが全力でぶつかっても動じない。リベリにパスが出ないようにポジションニングに気を配る。1対1の場面に持ち込めれば、止められる自信があった。相手の得意な形へ持ち込むのではなく、こちらの得意な形へと誘い込む。フル回転で試合を読む内田の守備は積極的なものだった。ガツンと当たって奪うというような派手さはないが、相手をイライラさせるに十分のやっかいなプレーで、リベリに仕事をさせなかった。勝利したこともあり内田の評価は一気に高まった。
その後、ランクニック監督が就任。新監督はそれほどチームをいじることなく、CL準々決勝でインテル相手に2連勝と手ごたえを得たが、準決勝のマンチャスター・ユナイテッド戦では、まるでサッカーをさせてもらえなかった。
ハードワークが続く日々であったが、CLを戦っているという充実感、ドイツとは違うサッカーに触れる刺激が内田の原動力になっていた。すでにリーグ戦では低迷し、ヨーロッパリーグ出場権のかかるドイツカップ優勝への思いは強かった。
その決勝戦。リードして迎えた後半途中にピッチに立ち、優勝の歓喜をチーメイトたちと味わった。
「最後に使ってくれたのはうれしかった。確かに1年間無我夢中でやってきた。もう少し、サボるというか、ゆっくりする時間があってもよかったのかもしれいない。頑張ってきたけれど、最後のひと伸びが足りなかったということ」
優勝の余韻があるのか、そう語る内田の表情にあまり悔しさは見えなかった。(続く)