■ 準々決勝はドイツ

女子W杯の準々決勝。グループBを2位で通過した日本が、開催国のドイツと対戦。ドイツはグループリーグを3連勝で首位通過し、W杯も2連覇中。FIFAランキングは2位で、過去の対戦成績も、日本は「0勝7敗1分け」。厳しい戦いになることが予想された。

日本は「4-2-2-2」。GK海堀。DF近賀、石清水、熊谷、鮫島。MF阪口、澤、大野、宮間。FW永里、安藤。スタメン11人は、これまでの3試合と全く同じで、MF澤が3ゴール、MF宮間、FW永里、MF大野が1ゴールを挙げている。18歳のMF岩渕はベンチスタートとなった。

■ 延長戦の末・・・

序盤からホームのドイツが攻め込んでくる展開になるかと思われたが、立ち上がりから日本がペースをつかんでいく。しっかりとした守備でドイツの選手に自由を与えず、攻撃でも落ち着いたつなぎでポゼッションで優位に立つ。前半で最大のチャンスは前半29分のプレーで、DF石清水のパスを起点に、相手のクリアが不十分だったところを、FW永里が奪ってフリーでシュートを放つが、惜しくも枠外で先制のチャンスを逃してしまう。

0対0で迎えた後半開始から、日本はFW永里に代えてFW丸山を投入。FW丸山の攻守に渡る積極的なプレーが日本にいい流れをもたらす。後半30分を過ぎると、両チームともに疲れが出てきて、日本も危ないエリアでミスが出てきて、ゴール前でヒヤッとさせられるシーンを作られるようになるが、GK海堀が落ち着いたプレーを見せてゴールを許さない。結局、後半45分でもゴールは生まれず、スコアレスのままで延長戦に突入する。

延長戦の前半15分でもゴールは生まれずに、開催国のドイツとしては重苦しい雰囲気になる中で、後半3分に日本に先制ゴールが生まれる。途中出場のMF岩渕のキープからMF澤がボールを受けると、右サイドに走ったFW丸山に浮き球の見事なパスを送る。このパスを、FW丸山が右足でシュートを放つと、これが決まって待望の先制ゴールを奪う。

その後は、ドイツが猛攻を仕掛けてくるが、日本は集中力を切らすことなく、1点を守り切って、1対0で勝利。開催国を破るという劇的な展開で、見事にベスト4に進出決定。スウェーデンとオーストラリアの勝者と決勝進出をかけて対戦することになった。

■ 歴史を変えるベスト4入り

過去に一度も勝利したことのないドイツが準々決勝の相手となったときは、「もはや、これまでか」と思ったが、なでしこジャパンは、大方の予想を裏切る大勝利で、ベスト4進出。日本のサッカー史のみならず、世界のサッカー史に残るような歴史的な勝利を飾った。

地元のドイツの試合ということで、スタジアムは超満員に埋まっていて、平常心を失っても仕方のない難しいシチュエーションでの試合となったが、なでしこジャパンの選手の落ち着き具合は、信じがたいレベルで、日本の女性の強さを世界中に知らしめる試合になった。

試合前から心配されていたレフェリーの笛は、どちらかというとドイツ寄りだったが、選手たちは、不利なジャッジがあっても熱くなり過ぎずに、冷静に戦った。

■ 的中したFW丸山の投入

勝因の1つは、コンディションの良さである。イングランド戦は攻守ともに低調で、なでしこらしさは全く見られなかったが、この日はイレブンの動きがよくて、ドイツに走り勝つことができた。試合の入り方もよくて、セットプレーを除くと、ドイツの攻撃からは、脅威をあまり感じることはなかった。

イングランド戦では冴えなかった佐々木監督の選手交代も的中した。大きかったのは、後半開始からFW永里に代えて、FW丸山を投入した決断で、フォワードの軸として期待していたFW永里を前半だけで代えるというのは、勇気のいる采配だったが、FW丸山の投入で、前線からの守備も機能してきて、FW丸山のドリブルも効果的だった。

決勝ゴールのシーンは、これ以上ないほど素晴らしいパスがMF澤から出てきたが、そんなにシュートコースはなかったので、簡単なシュートではなかったが、FW丸山は慌てずにコース隅を狙って、ネットを揺らすことに成功した。FW丸山は、東京電力女子サッカー部で長い間、プレーしていた選手なので、震災後は複雑な気持ちを持っていたと思うが、モヤモヤした気持ちを引きずることなく、大一番でヒロインとなった。

■ 守り切った守備陣

クローズアップされるのは、決勝ゴールを決めたFW丸山と、アシストを決めたMF澤となるだろうが、GK海堀を中心とした守備陣の頑張りも素晴らしかった。

今大会のGK海堀は、「飛び出すタイミングの遅さ」を指摘されることが多く、不安な感じるポジションの1つだったが、この日は、キャッチングが安定していた。苦しい時間帯で、ドイツのハイボールをパンチで逃げるのではなく、キャッチして相手の攻撃を止めるシーンが目立ったが、このプレーに日本は助けられた。キックミスで相手にボールを渡してしまうシーンが何度か見られたのは「要修正」であるが、それ以外は文句のつけようのないプレーだった。

また、サイドバックのDF近賀とDF鮫島の落ち着いた守備も光った。センターバックの二人が空中戦に神経を費やす中、サイドバックの二人が中に絞ってきて、ルーズボールを拾ったり、マークが浮いている選手をカバーしたりと、守備での貢献が高かった。

■ MF岩渕は決勝ゴールに絡むが・・・

一方の攻撃陣は、準決勝ではもう1ランク上のプレーを期待したいところである。特に、「攻撃の切り札」と期待されているFW岩渕は後半途中から登場したが、全くダメで、ミスばかりだったのが気になるところである。

決勝ゴールのシーンは、MF岩渕の前を向くプレーが起点になっているので、ゴールに絡めたことはよかったが、それ以外では、消極的なプレーが目立ってしまって、攻守ともに、ブレーキになった。18歳なので、何も考えずに思い切ってプレーした方がいいように思われるが、考え過ぎていて、らしさを出せていない。

せっかく、出場機会を得ているのに、消極的になって自分のプレーを出せないのはもったいない。途中出場した選手が途中交代させられるのは、選手にとっては屈辱的なことなので、この悔しさを、準決勝以降にぶつけてほしい。

■ 次はスウェーデンか?オーストラリアか?

頂点までは、あと2つである。開催国で「本命」と目されていたドイツを下したことで、世界制覇も見えてきた。準決勝の相手は、FAFAランキングで5位のスウェーデンか、FIFAランキングで11位のオーストラリアとなるが、日本よりはランキングでは下のチームで、試合の間隔も、日本の方が一日長くなるので、コンディションでも有利である。

注目したいのは、どういうスタメンを組んでくるかという点である。FWの軸のFW永里は、メキシコ戦を除くと、なかなか前線で起点となれておらず、守備のときも、相手のDFラインにプレッシャーをかけられていないシーンが目立る。ラッキーガールとなったFW丸山をスタメンで起用することも考えられるが、果たしてどうなるか。準決勝は、日本時間の木曜日の早朝となる。


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