【薬剤師のつぶやき】 番外編 新井葉月さんインタビュー その1

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薬剤師であり、漫画家でもある新井葉月さんにインタビューを行いました。数回に渡って、インタビュー内容を掲載します。
ひと味違った薬剤師をご覧ください。

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新井葉月
広島県出身。
1988年の中学生時に、講談社の少女誌「なかよし」の増刊号「なかよしデラックス」5月号掲載の「MOVEMENT」でデビュー。2004年2月から、双葉社アクションピザッツ増刊「コミックハイ!」にて不定期活動。「少女生理学」全2巻、「薬屋りかちゃん」全2巻を刊行。
現在は、薬局薬剤師向け雑誌「日経DI」にて、「実践! クレームマネージメント」連載中。
薬局勤務の薬剤師をしながら著作活動を続けている。
趣味は鳥を撮ること。休日だけでなく通勤途中でもカメラを構えている。
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富野浩充(聞き手:インタビュアー)
病院薬剤師。Nicheee!では「薬剤師のつぶやき」を連載中。
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■薬局の「普通」を漫画にした「薬屋りかちゃん」
富野 今回はインタビューを受けていただいてありがとうございます。
新井 いえいえそんな、こちらこそ遠い所をすみません。
富野 お会いするに当たり色々持ってきたんですけど、デビューが中学生ということで、この「ポルノは少女を救う(※1)」とか、実話なんですか?
※1 漫画家の現役女子高生が主人公の話。まわりに漫画家ということを隠していて、〆切り前に図書室で原稿を描いたりする。(少女生理学2巻収録)
新井 いや、そこまでじゃないです(笑)
富野 周りの人は漫画を書いていることは知ってたのですか?
新井 中学生でデビューした時には学校中の人が知ってたので…。高校に入ってしばらくは内緒にしてたんですけど、同じ中学出身の同級生からバレてしまって。

富野 「少女生理学」を読んだ時は、薬剤師が描いてるとは思ってなくて、「りかちゃん」を読んで、やられた、と。薬剤師で「薬屋りかちゃん」を読んだ人は、多かれ少なかれ思ってるんじゃないでしょうか。
新井 この「少女生理学」を描いた時って、漫画でもパクリとかが騒がれてた時期で。私も全然やってなかったとは言えないから、それだったら『絶対パクリって思われない分野をやろう』ということになって。
で、編集長さんが当時の担当さんだったんですけど、「薬局やってみたら」って言われて。
富野 確かに。医師漫画や看護師漫画はあるけど、薬剤師漫画ってないですよね。
新井 薬局だと、病院と違って継続的に誰かを追っていくってことはあまりないので、ドラマはないですよね。
だから描くのは対患者っていうよりは、薬局の中のことになっちゃうかなって。
でも、中にいると、これ面白いのかなって思うんです。でも、編集長と話してたら「薬局の中って、一般の人は知らないわけだから、普通と思ってることがきっと面白いよ」って言われて。で、面白いかなあと思いながら描いてました。
富野 私としては、薬剤師の目線で読むので、へこむ場面もあるわけですよ。…、あ、こういうことある、こういう患者いるいる、みたいな。
新井 そうですよね(笑)
富野 研修医が「ブラックジャックによろしく」を読んで、その通りでへこんだって言ってたのはこういう気分なんだって(笑)
新井 へえー、そうですか。でも、どこまでやっても薬局って狭い世界のことだから、長くは続けられないかなあ、って。それでもぎりぎり2巻まで出してもらえたから、良かったかなと。このあたりまでが限界かなって気もしましたね。

富野 「りかちゃん」では、言いたくても言えないことをセリフに出してる感じがします。
新井 そうなんですよね。絶対患者に面と向かっては言えないこととか。
富野 「加算つくから意味ない」とか「急いでるって言ってたのに、まだいたの?」とか。
新井 (笑)
富野 りかちゃんのセリフは、そのまま薬剤師の心の声ですね。そのへんが読んでてすっきりしました(笑)
新井 患者さんが読んでどう思うかって所もありますが『もうそこはフィクションだから!』って割り切って。
富野 フィクションだとそこが強いですよね。第1話からこれ(患者に対して主人公が軟膏を練りながら不満をぶちまけるシーン)ですもんね。これで掴みはOKというか、つかまれました。「よく練れてそうね、あの軟膏」という突っ込みまで含めて。
新井 いまはうちにも練太郎が入ったので、だいぶ楽になりました(※2)
※2種類以上の軟膏を混合する時に使う機械のこと。100g程度なら軟膏板とヘラで練るが、500g以上となると、手作業が辛くなってくる。
富野 そんなに皮膚科が来るんですか。
新井 総合病院が近くにあって。ほとんどはすぐ近くの薬局に行くんですけど、ぽろぽろって流れてくるんですよね。皮膚科のドクターってどうしてあんなめんどくさい処方が好きなんでしょう。
富野 本当ですね(笑)


■漫画家でありながら薬剤師として就職した理由
新井 「りかちゃん」を描く前は、かなりゆるーい薬剤師やってたんです。でも、いざ世間に向けて出さなきゃいけないっていう状況になったら、勉強しなきゃって。色々と認識を改めるいい機会でした。自分がいる分野なのに勉強し直さなきゃならないってどういうことよって。
富野 ちなみに大学ではどんな研究室に所属していたんですか。
新井 一応薬理系なんですけど、大学での勉強ってイマイチ現場で役に立ってないっていうか。もちろん、生かせてる人はいるんだけど。
富野 そうなんですよね。私なんて化学系だったので、臨床現場はさっぱりでした。勉強し直すどころか、一から覚える感じですよ。でも、それを6年制にして埋めようとしてるのもどうなんだろう、と。
新井 あれは無駄だと思うんですよね。
富野 現在の実習なら、2年早く現場に出てしまえばいいだけの話ですしね。4年制卒業の社会人3年目と、半年実習やった6年制卒業の新人と、どっちが出来る薬剤師かっていう比較にもなってしまう。
新井 なにが良かったって、薬剤師は4年間でなれるのが良かったんですよ。そうじゃなかったら、私は薬剤師になってないと思う。
富野 私もです。
新井 親の負担も増える一方だし。

富野 そうですよね。漫画の方には進もうとは思ってなかったんですか。
新井 それは…、怖かったんです。そもそも大学を卒業して就職しようかどうしようかって時に、当時の担当さんに「絶対一回社会に出たほうがいい」って言われて。漫画一本になっちゃうと、世間知らずな人って多いから、描くうえでも作品が世間知らずになってしまうって言われて。で、就職したら、これってすごく安全な状態だなって思いました。保険持ちつつ別のことができる(笑)
富野 薬剤師って、そういう面では安全な所がありますよね。
新井 そうなんですよ。でも、そうやってゆるーくやってるから、どんどん漫画の仕事も無くなっていっちゃってるんですけど。
富野 残念な所です。
新井 最初「なかよし」で描いてて、段々読者層と離れてきちゃって、どうしよう、辞めるしかないかな、って思ってた時に、友達に「『コミックハイ』が立ち上がるから、ちょっと編集長さんに会ってみる?」って言われて、出来上ったのが「少女生理学」なんです。
描かせてもらってた時は、「あー、私でも居れる雑誌だ」とかって思ってたんです。まだ混沌って感じだったので。今はもう、違う所にいっちゃったなって感じで(笑)
雑誌の方向性が変わってきて、たぶん、もう「りかちゃん」は描けないなって状態になり、どうしようかなって時に、以前取材を受けてた縁で日経DIから話があったんです。
しばらく描いてなかったので、リハビリを兼ねて『原作付きって楽でいいかも』なんて考えてたんですけど、あんまり楽じゃないなあ、と。薬局の仕事が定時だからまだなんとかなるけど。

富野 日経DIの「クレームマネージメント」も、ありがちなシーンが多いですね。
新井 私は原作を3ページに起こすだけなんですけど、とても間に合いませんって時がありました。1か月分ストックがあるように作ってもらってるんですけど、そのストックもそろそろ切れそうだなっていう状況です。
富野 原作付きは原作付きで大変なんですね。
新井 セリフとかは好きにいじってくれていいよ、って言ってくれているのでまだいいんですが。そこまで制限されたら、かなり苦しいと思います。ネームができるとほぼ一発OKなんですけどね。この連載を始める時に、「漫画は日経DIが全然手をつけてない分野だから手探りなんです」って編集さんに言われたんですけど、『こんなに全部通しちゃっていいんですか』とも思います(笑)私の所に来る前に、原案が練られているというのも大きいのでしょうけれど。
富野 連載はまだ続く予定なんでしょうか。今後の展望はあるんでしょうか。
新井 「クレームマネージメント」は電子書籍も出てるんですけど、それの売り上げを見て「いつかは紙にしたいね」って話も出てるんですけど、『あれ、紙は無理だろ(笑)』って思うんです。
富野 本当に限られた世界の話ですからね。
新井 そうなんですよね。紙にして面白いかっていうと、難しいんじゃないかと。ただ、こんなに長く続くとは思ってなかったです。
富野 どのくらい連載してますか。
新井 今2年目ですね。中には「『なかよし』の頃から読んでて、『日経DI』に載ってたからびっくりしました」という人とかいました。こっちもびっくりです(笑)

つづく

(Written by 富野浩充)



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