@AUTOCAR

写真拡大

もくじ

ー ティプトロという選択肢
ー 回るエンジン、回らぬエンジン
ー キレイならOK、ではない
ー 売り手と買い手のズレ
ー 言葉にできない魅力を自分の手で

ティプトロという選択肢

軍資金500万円(仮)で、
空冷ポルシェを引きつづき探している。

前回は「930ふう」のクルマをみて
なかなかよいとは思えない状態だったけれど
それでも400万円近い価格だと知り
ちょっと驚いた。というか不安になった。
996はすっかり嫁いでしまったし、
だから、なおさらね。

ならばコンディションがよいクルマで
なおかつ500万円を切るクルマはないのか?
そう考えてみた。するとおのずと、
ポルシェ911(964型)が浮びあがってくる。
ただしマニュアルは500万円を超えるものばかり。
ティプトロニックなら450万円くらいで存在する。

長野まで見にいった。
色はぺったりとしたグリーンだった。
走行距離は9万kmと10万kmの真ん中あたり。
450万円に「もろもろ足して」480万円ほど。
500万円の資金で20万円の整備代と考えると、
やや心もとない気持ちもする。いや心もとない。
(おそらく空冷ポルシェの先輩方から
 そんなに甘かぁないぜとメールがくるかも)
まぁそんなことを考えながら長野へ行った。

回るエンジン、回らぬエンジン

そのクルマはキレイだった。
フロントに飛び石の跡がパチパチとあるけれど
そういうののほうが走っている感じがして好きだ。

先週乗った「930ふう」のモデルと比べると
インパネの配置とかドアパネルのレバーの位置とか
そういうのがそっくりだけど、
あらためてデザインが見直されていると思った。
シートはピンと張っている。けっこう硬いかんじ。

エンジンをかけると、けっこう大きい音がした。
全部がノーマルだったけれど、それでも
ずろろろろろんと、お店の壁に反響した。
試乗はさせてくれなかった。(そういうものです)
空ぶかしさせてもらうと
もわーんとエンジンが回った。
力強いけど、もわーん。
マニュアルだと、そんなことはないと思った。
反面、ゆったりと走るならばこれもこれでいいと
心の中でイメージが広がった。

「エンジン、きちんと回してあげるまでは
 最初は回りづらいものが多いんです、ティプは」

「たとえばお医者さんなどの奥さん。
 いわゆるマダムですね。お買い物なんかに使う
 そういうクルマが多いのもまた事実です。
 ティプトロの導入で一気に裾野が広がりました」

このお店をひとりで切り盛りする、
小柄ながら筋肉がすごいKさんの言葉である。

「ただ、
 そういうクルマには注意事項があるんです」
Kさんは僕に教えてくれた。

キレイならOK、ではない

「一概に、キレイ=よい個体とは言えません」

「たとえば想像してください。
 エンジンをチャラランとかけます。
 そのへんのスーパーで新鮮なお野菜を買います。
 ちょっとそれからカフェでマダム友達とお茶。
 それから帰って、医学部めざす息子のお迎え」

「この移動できちんとエンジンを回すならば、
 状況は変わってくるけれど、仮に世田谷なら?
 道は狭いし、渋滞はするし、なかなか回せない」

「911ってね、後ろにエンジンがあるでしょう
 オイルはクルマの前方をぐるりと回り、
 またエンジンの方へ戻ってくるのだけど
 そのオイルをぐるりと回す『力の源』は、
 エンジンの回転数に依存するのです。
 回すエンジンは回すエンジンで
 その反対はその反対なりにクセがつきます」

「もしかしてトロンとした印象を受けたなら
 正しいですよ。正しい印象だと思いますね。
 ティプトロのポルシェにありがちかもですねぇ」

「せっかくだから、
 価格事情についてもお教えします」

売り手と買い手のズレ

「じつはわたしね、このクルマを3カ月前に
 600万円で中古車サイトに掲載しました。
 どうだったと思います? まったくダメでした」

「500万円でも、問い合わせはチラホラ。
 450万円にして、ようやく連絡が増えました。
 要するに、ちょっと皆さん渋っている時期です。
 『正しい値段』がいくらくらいなのかを
 今は皆さん冷静に考えているのかもしれません」

へー、そうなのか!

「もちろんマニュアルはべつ。あれは高いですね」

さらに教えてくれた。

「あと、買って後悔してほしくないので、
 先に言っておきますがオイルが漏れます。
 特に964の前期型は盛大に漏れます。
 逆にいうと前期はほとんど対策済みですね」

「それともう1点。
 カップホイールと呼ばれるホイールが
 そっくりなデザインのイタリア製の場合があります。
 ここも、よくある注意すべきポイントですね」

なるほどー。

また、テールライトが熱に弱く、
痛みやすいことのほかに、
この時代から電力をよく使うパーツが増え
(セキュリティなど)2〜3週間乗らないと
バッテリーがあがりやすいため
カットオフスイッチの導入をすすめてくれた。

最後にKさんは、こんなことをおっしゃった。

言葉にできない魅力を自分の手で

最後にKさんは、こんなことをおっしゃった。

「いろいろあるけどね、
 それでも自分で買うことは、
 一生の誇りになると思います。
 空冷ポルシェには空冷ポルシェならではの
 言葉にできない魅力があるんです。
 自分でその魅力を探求してほしい。
 若いんだし、なんとかなると思う。
 いろんなひとが、いろいろ言うかもね。
 でもいちばん偉いのは、
 自分のお金で買って、経験をしたひと。
 上野さんは、がんばれると思います
 あと、なんとなく上野さんのコラムを読んでいると
 んー、マニュアルのほうがいいんじゃないかなぁ」

う、そうなのかなぁ。そうなのかもなぁ。

※今回も最後までご覧になってくださり、
 ありがとうございます。

 価格もコンディションもよいのだけどなぁ。
 今にでも飛びつきたい。
 でも、んー、どうだろう。

 今後とも、inquiry@autocar-japan.com まで、
 皆さまの声をお聞かせください。
 もちろん、なんでもないメールだって
 お待ちしております。