日本の戸建住宅市場に構造変化の兆しが出ています(写真:dwph/iStock)

新設住宅着工戸数で約45%を占める戸建住宅市場に構造変化の兆しが出ている。パナソニック ホームズ、トヨタホームなどの大手プレハブメーカーが木造住宅事業に続々と参入する一方、地方発のパワービルダーや工務店が勢力を伸ばしているのだ。この流れは、2019年10月に予定されている消費税率引き上げ後に一段と加速するとの見方が出ている。いま、住宅市場で何が起きているのか。前後編にわたってリポートする。

存在感を増すパワービルダー

戸建住宅(除くアパート)の販売棟数で、積水ハウスとトップ争いしている浜松市発祥の一条工務店(東京都江東区)をご存じだろうか。

戸建住宅の市場調査を行っている住宅産業研究所に聞くと、ブランド別の戸建住宅販売棟数では長年、積水ハウスがトップに君臨してきた。しかし、2015年度調査で一条工務店が積水ハウスを抜き、2016年度実績でも年間1万2500棟で1位となったという。

不思議なことに住宅業界でこの話題を聞くことはほとんどない。積水ハウスの広報資料(2018年3月作成)では、積水ハウスの2016年度実績は1万2570棟でトップを守っており、一条工務店のホームページでも僅差で積水ハウスにトップを譲っている。ブランドイメージにもかかわるだけにデリケートな話題なのだろうが、いずれにしても一条工務店が、積水ハウスと肩を並べる位置にいるのは確かなようだ。

ただ、実際に住宅展示場に足を運ぶ機会でもなければ、一条工務店を知らないという消費者は少なくないだろう。同社は2017年3月期の売上高が3946億円と、ミサワホームに肩を並べる大手住宅メーカーだ。ところが、株式上場していないうえに、新聞・テレビでの広告宣伝をほとんど行わない。メディアの取材を受けないことでも有名で、同社のニュース記事を見掛けることもない。

客を装って住宅展示場の営業マンに話を聞くと、一条工務店は設計・生産拠点をフィリピンに置いている。北米で普及している2×6(ツーバイシックス)工法を採用し、屋根一体型の太陽光発電、システムキッチン、サッシ、外壁タイルなどを自社で生産。これらの部材を工場で組み立ててパネル化し、日本に輸送して組み立てる。木造住宅の徹底した工業化で、高性能な住宅をリーズナブルな価格で提供して販売を伸ばしてきた。

分譲戸建住宅市場で約3割の圧倒的シェアを持つ飯田グループホールディングス(以降、飯田GHD)も、好調に販売棟数を伸ばしている。住宅産業研究所のブランド別調査ではグループ6社が個別計上されているのでトップになっていないが、一建設、飯田産業、アーネストワンなどグループ6社合計の分譲戸建の販売棟数は、2018年3月期で前期比8.7%増の4万4275棟(土地売り含む)と断トツだ。

2013年11月に経営統合したあと、国内最大級に集成材製造・プレカット会社のファーストウッド(福井県)を2014年に子会社化した。今年3月には青森県に単板積層材(LVL)の新工場を建設するなど、木造在来工法の部材生産能力を着々と強化。今年度の分譲戸建の販売目標は4万8000棟以上で、注文住宅を加えると年間5万棟を突破する可能性もある。

木造在来工法の注文住宅を得意とするタマホームも、2期連続で受注を伸ばした。九州を地盤に急成長し、2013年に東証一部に上場したあと業績が落ち込んだ時期もあったが、ベーシックラインと呼ぶ低価格住宅の投入で復活。2018年5月期の受注棟数は前期比5.7%増の9386棟と、3位グループに浮上してきた。一時期のような派手なTVコマーシャルは見掛けなくなったが、地域ごとにきめ細かく顧客ニーズに対応して受注拡大につなげている。

変化する戸建住宅の業界地図

戸建住宅市場は、1970〜1980年代から積水ハウス、大和ハウス工業、ミサワホーム、旭化成ホームズなどプレハブ住宅を得意とする大手ハウスメーカーが業界をリードしてきた。住宅関係10団体を統合して1992年に発足した住宅生産団体連合会(住団連)に加盟する企業会員27社には、大手ハウスメーカーのほか、LIXIL、TOTO、大成建設などの名前が並ぶ。

その戸建住宅の業界地図に明らかに変化が現れている。2017年1月にトヨタホームがミサワホームを、10月にパナソニックがパナホーム(現・パナソニックホームズ)を子会社化し、今年8月には三井不動産が三井ホームの株式公開買い付け実施を公表。大手ハウスメーカーで企業再編が進行し始めている。

一方で、2000年代以降に勢力を伸ばしてきた一条工務店、飯田GHD、タマホーム、賃貸住宅最大手となった大東建託は、いずれも木造住宅メーカーである。4社とも住団連の企業会員には加盟しておらず、いまだにアウトサイダー的な存在だが、大手をしのぐ販売実績を上げるようになった。

戦後、プレハブ住宅が登場する前に殖産住宅相互や太平住宅などの大手木造住宅メーカーが活躍した時代があった。しかし、その後は淘汰され、木材供給会社でもある住友林業くらいしか残らなかった。

木造住宅は、中小工務店が多く手掛けており、プレハブ住宅に比べて工業化・IT化が大幅に遅れていた。プレハブ住宅メーカーのように、生産性や品質・性能の向上のために巨額の設備投資を行うような企業がなかなか出現しなかった。ようやく2000年代に入って木造住宅でも工業化・IT化が進みだし、一条工務店や飯田GHDのように生産体制を整える企業が登場してきた。

もともと木造住宅は、プレハブ住宅に比べて価格競争力で勝っていた。工業化・IT化が進むことで、品質・性能、デザイン面でも競争力が高まれば、じわじわとプレハブ住宅のシェアを侵食する可能性もある。プレハブ住宅メーカーが木造住宅分野に参入し始めた背景にはそうした強い危機感があるのだろう。

オープン工法とクローズド工法

戸建住宅の建て方には、大きく3つの工法がある。「木造軸組・在来工法」「ツーバイフォー(2×4)工法」「プレハブ工法」の3種類で、消費者が住宅を購入するときに必要な基礎知識なので、ご存じの方は多いだろう。

木造在来は、「木造軸組工法」とも呼ばれ、工務店の多くが手掛けている日本ではおなじみの建て方だ。北米などで最もポピュラーな木造住宅の建て方がツーバイフォーで、2×4インチ(実際の規格寸法は38ミリ×89ミリ)や2×6インチの角材を使用する。1974年に日本でも標準的な工法として認可され、三井ホーム、東急ホームのほかに、賃貸住宅の大東建託なども採用。木造在来とツーバイフォーは、国土交通省が定めた「技術基準」が公開され、建設会社ならどこでも対応可能な「オープン工法」だ。

一方、1959年に大和ハウス工業が初めて商品化したプレハブ住宅は、各メーカーが独自に開発した工法で、開発元しか対応できない「クローズド工法」である。プレハブ工法には、積水ハウス、大和ハウス工業、旭化成ホームズ、パナソニックホームズなどが採用する鉄骨系、ミサワホームの木質系、積水化学工業(セキスイハイム)のユニット系、コンクリート系の4種類があり、同じ鉄骨系でもメーカーによって部材や建て方はバラバラだ。

戦後の住宅政策は、品質・性能の向上と低コスト化を図るため、住宅生産の工業化を積極的に推進してきた。それによって製造業や素材業からも住宅産業に参入する大手企業が相次ぎ、将来的には自動車や家電製品などと同様に大手メーカーによる市場の寡占化が進むと予想されていたが、結果はそうならなかった。

国交省の建築着工統計をみると、新設住宅全体に占めるプレハブのシェアは、1992年度の17.8%をピークに伸び悩み、その後も15〜16%で横ばい状態が続いている。2017年度には15%を割り込んで14.4%に低下し、今年度の第1四半期(4〜6月)には12.9%まで落ち込んだ。2000年代前半にも12%台まで低下したことがあったが、それ以来の落ち込みである。

一方、木造住宅のシェアは、2008年度までは40%台半ばで推移していたが、リーマンショックの影響でマンションなどの着工が大きく落ち込んだ2009年度に50%を突破。その後も50%台半ばで推移し、2017年度は57.3%まで高まっている。北米から導入したツーバイフォー工法が木造住宅に占める比率も、1990年代前半までは10%以下だったが、2008年度には20%を超えて、この10年間は22%前後で推移している状況だ。

直近の統計数字を見るかぎり、「オープン工法」の木造住宅のシェアが高まる一方で、「クローズド工法」のプレハブ住宅が苦戦を強いられている構図が浮かび上がってくる。かつてデジタル革命の進展で、コンピュータや携帯電話などの市場では、日本だけで進化してきた「ガラパゴス」製品が淘汰された歴史がある。住宅市場においても「クローズド工法」のプレハブ住宅が「ガラパゴス化」してしまう懸念はないのか。今後、市場縮小が予測されるなかで、注意深く見ていく必要がある。