8月10日、総裁選への出馬を正式表明する石破茂自民党幹事長(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

石破茂元自民党幹事長は8月10日に国会内で記者会見し、9月20日に行われる自民党総裁選に立候補する意向を表明した。この日が出馬会見の日として選ばれたのは、同日発売の『文藝春秋』9月号に石破氏が寄稿した「安倍総理よ、命を懸けて私は闘う」が掲載されているからだろう。

もっとも当初予定された会見場は、想定以上に多数の取材陣が押し掛けたために、急いでより広いホールに変更されている。しかしこれは嬉しい誤算といえる。そのせいだろうか。開始予定10分前に会場に到着した石破氏は、いつもよりやや緊張して見えた。

「正直、公正、石破茂」

「正直で公正、謙虚で丁寧な政治を作りたい」。石破氏が発したこの第一声は、総裁選のキャッチコピーである「正直、公正、石破茂」そのものだった。配布されたビラにも会見のひな壇の背景にも、これらの文字が躍っていた。


こちらが立憲民主党の背景看板(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

記者の間から「あの背景看板、野党に似てないか」との感想が漏れ聞こえた。確かに白と青の市松模様の中に文字が組み込まれており、立憲民主党の枝野幸男代表の会見の背景看板にそっくりだ。

そればかりではない。会見で配布されたのは政策集ではなくビラ1枚だったが、それに書かれた文言も野党の主張に酷似していた。

「国民本位の政治・行政改革で国民の信頼を回復します!」

「対立よりも対話を!政局よりも政策を!」

あたかも政権選択の選挙公約のようなフレーズが並ぶ。もちろん石破氏にとって、これは政権を獲る選挙に他ならない。何よりも「設計図を書き換える」という石破氏の言葉に、その意欲は見てとれる。

その念頭にはもちろん森友学園・加計学園問題があるに違いない。石破氏が会見で最も力を込めて話したのは、政治不信の問題だった。

官僚が奉仕するのは政権ではなく国民

「内閣人事局のあり方を見直していかなればならない。官僚が奉仕するのは政権ではなく国民だという観点から人事は評価されなければならない。そして政権に対して、きちんとした意見を言える人こそ、大事にしなければならない。私が大臣だった時はそのように心掛けた」

「秘書官をはじめとする総理の周りにいるスタッフは、超多忙な総理大臣の分身でもある。(彼らが)どういう人に会い、どういう人に会わないのか。どういう会話がなされ、それが政策決定にどのような影響を与えたのか。それがきちんと評価されなければならない」

これが加計学園関係者や愛媛県・今治市の職員らと数回官邸内で面会し、獣医学部新設問題を「首相案件」と述べたとされる柳瀬唯夫元秘書官を指すことは明らかだ。

各社調査では安倍内閣の支持率はおおむね40%台を維持しているものの、森友学園問題や加計学園問題について疑問を抱く人の割合はそれよりも高くなっている。石破氏が意図するのは、こうした安倍首相のスキャンダルを突いて、地方票を掘り起こし、世論を喚起することだろう。

「自民党総裁選は総理を選ぶ選挙だ」

会見で石破氏はこう述べる通り、一般の動向が総裁選に与える影響は小さくない。すでに自民党国会議員の7割以上が安倍首相への投票を固めたとの報道があるが、国民の動向によって変わる可能性も否定できない。

実際に「小泉旋風」が吹いた2001年の総裁選では、党内基盤の弱い小泉純一郎元首相が勝利した。当時の都道府県連票は「総取り制度」を採用していたとはいえ、小泉氏は123票(議員票を加えると298票)も獲得し、15票(同155票)の橋本龍太郎元首相を大きく引き離した。

こうした前例に加えて石破氏には、2012年の総裁選で地方票で安倍首相を上回ったという自負がある。「私ほど地方を歩いた政治家はいない」と豪語する石破氏は、特に安倍首相の影響の小さい地方から講演活動を行い、徐々にその影響力を拡大させてきた。今年2月には全く地盤のない大阪市内でセミナーを開いて約1000人も集め、官邸に危機感を抱かせた。安倍首相も4月には大阪入りしたが、石破氏は翌5月に再度大阪に行き、大阪府連所属の地方議員約40名と“串カツ会合”を開いている。

具体的な政策を明らかにせず

石破氏が安倍首相より先に出馬会見を開いたのも、「先手必勝」を狙ったのだろう。そして安倍首相を政策論争に巻き込むことで、優位を得ようという戦術だ。

そのためにビラにも文藝春秋の寄稿にも、わざと具体的な政策を明記しなかったのだろう。ビラで提唱されているのは、仝虚で正直で国民の思いに近い政治、透明・公平・公正な政治・行政、2歛蠅棒橘未ら挑み決断する政治の3つで、中身についての具体性はない。また「政治・行政の信頼回復100日プラン」を策定するとしながらも、その内容は出馬会見では明らかにされなかった。

現実問題としては、石破氏は非常に苦戦している。というのも、頼りにしていた参議院平成研から佐藤正久参議院議員が安倍支持を表明したからだ。それは参議院平成研の結束が崩れるという意味だけではない。元防衛相の石破氏にとって、元自衛官の佐藤氏は特に期待する相手でもあった。

それだけ安倍首相からの締め付けが厳しいといえるが、今後3年間のレイムダック化を防止するためにも、安倍首相にとってはやむをえない選択なのだろう。

石破氏の出馬会見により、事実上の火ぶたが切られた自民党総裁選。あと40日間でいったいどんなドラマが展開するのか。