現在「SUV」と呼ばれるジャンルのクルマには、背面にスペアタイヤが取り付けられるケースが多かったのですが、近年発表されているモデルではそれがあまり見られません。そもそもなぜあの位置にスペアタイヤが取り付けられていたのでしょうか。

「RVブーム」で「背面スペアタイヤ」続々

 1990年代、三菱「パジェロ」をはじめとする「RVブーム」の流れで登場したトヨタ「RAV4」やホンダ「CR-V」、日産「ラシーン」など、多くのRVやSUVにはリアハッチにスペアタイヤが取り付けられていました。


1991年発売の三菱「パジェロ」(2代目)。車体の背面にスペアタイヤが取り付けられていた(画像:三菱自動車)

 しかし現在、各社がラインアップするSUVには、背面スペアタイヤはほとんど見られません。いまもそれを備えているSUVは「パジェロ」のほか、スズキ「ジムニー」シリーズがありますが、三菱でも「アウトランダー」や「エクリプスクロス」など近年発売された車種ではなくなっています。トヨタ「RAV4」などはモデルチェンジの過程でこれを廃止しており、2019年に日本発売が予定されている新型にも背面スペアタイヤは装着されていません。


現行の三菱「パジェロ」。背面スペアタイヤは健在(画像:三菱自動車)。

 背面スペアタイヤについて、かつて「パジェロ」で「RVブーム」に火をつけた三菱自動車に話を聞きました。

――最近のSUVはなぜ、背面スペアタイヤがなくなっているのでしょうか?

 燃費の重視や軽量化といった時代の要請、道路事情の改善、タイヤの耐パンク性能が向上したことなどが背景にあります。背面にスペアタイヤを積むには、リヤゲートのヒンジ(ちょうつがい)を強化するなどボディー側の強度も必要で、重量が増してしまうのです。

 そもそも、かつてのスペアタイヤはそのクルマに標準装備されているタイヤでしたが、それがやがて応急用のテンパータイヤになり、現在はそれも廃止され、パンク修理キットで代用されています。

そもそもなぜ背面にスペアタイヤ?

――そもそもなぜ背面にスペアタイヤが取り付けられていたのでしょうか?

 当社における背面スペアタイヤのルーツは、戦後に米国からノックダウン生産(外国製品の主要部品を輸入して、現地で組み立てや販売を行う方式)していた「ジープ」です。たとえば車室内にスペアタイヤが格納されていれば、交換の際に荷物を取り出さないといけませんし、車両の下に搭載されていれば、砂漠や泥地で車両の下に潜ることができません。そのため「ジープ」では背面スペアタイヤが採用されました。

 つまり背面のスペアタイヤは、道なき道を走っていくエクストリーム(極限)なプロユースを想定したものです。また、ここにあれば日常の点検がしやすいというメリットもありました。

――そのようなプロユースを想定した背面スペアタイヤが、なぜ多くのRV/SUVに採用されたのでしょうか。

「ジープ」から派生した乗用車である「パジェロ」のヒット以降、背面スペアタイヤの役割は、「RV/SUVらしさ」のデザインという点に移行しました。路面の良い日本でファッションとしての「RVブーム」が起こり、背面スペアタイヤがRV車のアイコンとなった側面があります。


三菱の新型SUV「エクリプスクロス」。背面スペアタイヤはない(画像:三菱自動車)。

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 三菱自動車によると、現在のSUVは「パジェロ」のような本格4WDではなく、おもに街乗りを想定した「クロスオーバー」と呼ばれるタイプが主流で、砂漠や泥地を走る環境も少ないことから、スペアタイヤを搭載する必要性は薄くなっているそうです。

【写真】極限環境を想定、「ジープ」の背面スペアタイヤ


1981年の三菱「ジープ」カタログから。背面スペアタイヤは本来、このような過酷な環境下でのタイヤ交換を想定したものだった(画像:三菱自動車)。