10月19日、停電による運転見合わせで混雑する東急田園都市線・三軒茶屋駅(記者撮影)

朝ラッシュのピーク直後、郊外と都心を結ぶ東京の大動脈が突然の停電に見舞われた。

10月19日午前9時過ぎ、東急電鉄田園都市線の三軒茶屋駅(東京都世田谷区)構内で発生した電気系統のトラブル。ホームや駅構内は一時真っ暗になり、同線は用賀―渋谷間で約3時間にわたって運転を見合わせた。

駅構内の電気系統ショートが原因

東急によると、停電の原因は三軒茶屋駅構内にある、電力会社からの電気を照明など駅構内の各種施設に配分する「配電所」からの電気系統でショートが発生したこと。停電は駅設備で起きたため電車の走行用電力は供給されていたが、信号系統に影響が出ている可能性があるため9時09分に田園都市線全線の運行を停止した。

さらに、同線と接続して都心方面への迂回路となる大井町線についても「利用者が同線のキャパシティを超えるほどになり、安全性に影響がある」(東急電鉄)として同15分に全線の運転を見合わせた。

原因と影響範囲が特定されたことから、田園都市線の中央林間―用賀間と大井町線については10時10分に運転を再開。三軒茶屋駅構内の電気設備トラブルは11時08分に復旧し、その後各施設のチェックや列車の試運転を行い、安全が確認されたとして12時05分に用賀―渋谷間も復旧し、全線で運転を再開した。ダイヤの乱れは夕方までにはほぼ収束した。


田園都市線の運転見合わせで、三軒茶屋の渋谷方面行きバス停には長蛇の列ができた(記者撮影)

三軒茶屋駅の構内と周辺は行き場を失った人々で混雑。駅付近にある渋谷方面へのバス乗り場には数十メートルにも及ぶ長蛇の列ができ、当分乗れないとあきらめて駅で運転再開を待つ人も多く見られた。発生が午前9時過ぎだったため朝ラッシュへの直撃は免れたものの、東急によると田園都市線で約10万1000人、大井町線で約2万5800人に影響が出た。

利用者の1人は「人身事故などは仕方ないと思っているが、田園都市線はちょっと故障やトラブルが多いのでは」とうんざりした表情で語った。

6月には桜新町で「噴水」

実際に田園都市線、特に2000年まで「新玉川線」と呼ばれていた地下区間の渋谷―二子玉川間では今年6〜7月、施設のトラブルによる運転見合わせが相次いで発生した。

6月29日には桜新町駅で火災時などに使う消防用の送水管から水が噴き出し、午後3時ごろから約1時間半運転を見合わせる事態が発生。東急によると、原因は「管の劣化によって溜まっていた水が噴き出したため」という。それから8日後の7月7日夜には、渋谷駅付近のトンネル内で信号関係のケーブルから発煙。午後8時過ぎから10時ごろまで渋谷―二子玉川間で運転を見合わせた。

東急の「安全報告書2017」によると、2016年度に東急線全線で発生した事故・障害などの件数は36件。大半が人身事故や列車との接触などだが、設備の故障なども7件あり、同社によるとこのうち4件は田園都市線で発生している。内訳は線路の継ぎ目の不具合が1件、保安装置の障害が2件、送電関係の障害が1件だ。

同報告書に掲載されたトラブルの事例によると、2016年7月9日に田園都市線の二子玉川駅付近で起きた信号ケーブルからの発煙の原因は「ケーブルの接続部が長期間にわたる列車振動等により、突起物と接触したことで損傷し、大きな電流がケーブルを流れたため」。同年8月16日に同線の桜新町駅で起きた信号関係の機器故障は「内部配線が長期間にわたる振動等によって、疲労破壊し、断線したため」とされている。

東急によると、信号関係のケーブルについては目視による点検を6カ月に1回、精密検査を2年に1回行っており、駅の配電所は毎月1回目視で点検しているという。今回、電気系統がショートした原因は19日の段階では不明。トンネル内の線路際などの確認も必要になるため、確認や点検は終電後になるという。

今年で開業から40年

渋谷―二子玉川(当初は二子玉川園)間が開業したのは1977年4月で、今年で開業から40年。開業当初と比べれば利用者数も列車の本数も大幅に増えており、施設への負担も増しているといえる。東急は2018年春から田園都市線に新型車両「2020系」を投入する予定で、ほかの東急各線と比べて古めの車両については、それほど遠くない将来に若返りが図られそうだ。だが、送水管から水が噴き出した際の「管の劣化」や、信号関係機器故障の「長期間にわたる振動等で疲労破壊」といった原因が示すように、各種の施設が老朽化している可能性は高い。

駅やトンネルについてはこれまでに耐震補強や火災対策基準への対応工事、バリアフリー化工事などを行っているというが、電力や信号など各種施設の老朽化に対応した点検や交換も喫緊の課題といえる。東急の関係者は「トラブルの頻発で利用者に迷惑をかけているのは事実。設備の不具合をなくすため、改めて細かい機器を含め検査を行うことになると思う」と話す。

渋谷の大規模再開発をはじめ、「東急でんき」のブランドで電力小売にも参入するなど多方面で事業を展開する東急グループだが、そのブランド力の源が鉄道の信頼性であることは間違いない。田園都市線は利用者も多く、ひとたびストップすれば沿線住民への影響は極めて大きい。渋谷に次々と立つ高層ビルの「足元」を走る、鉄道の安定運行に向けた取り組みの強化が求められる。