「レキオス(琉球人)の海を渡って異国と交流した情熱を取り戻すべき」と語る平田大一さん(撮影:佐藤学)

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300年の伝統を持つ沖縄の「組踊」(くみうどぅい)を現代風にアレンジした“沖縄版ミュージカル”「大航海レキオス」が今月末、初めて東京で上演される。キャストは沖縄の中高生らで、躍動感あふれる演技が地元で一大ブームを巻き起こしている。舞台を演出するのは沖縄出身の平田大一さん(36)。「『レキオス』とはポルトガル語で『琉球人』のこと。大航海時代に海を渡って異国と交流していた祖先たちの情熱を、現代に生きる僕たちは取り戻さなければならないのではないか。世界で一つしかない舞台。熱演する子どもたちの目の輝きを観に来てほしい」と、公演へ向けて意気込む。

 組踊は、琉球舞踊、三線、太鼓、韻を踏んだセリフなど沖縄の伝統文化をふんだんに取り入れた舞台芸能で、現代版組踊は、エレキバンドやダンスなどを融合したもの。「大航海レキオス」は、行方不明の父を探して旅に出る少年・航太の成長を通して、レキオスの生き様を描く冒険物語。今年1月の初演以来、チケット売り切れが続出するほどの人気舞台だ。

 平田さんは、沖縄県の小浜島に生まれた。東京の大学に進学し、舞台で詩を朗読する活動をしていたが、卒業後、すぐ帰島した。世界を旅するうちに「自分の島の文化は世界レベル。沖縄の人たちの暮らしが見直される時代が来る」と感じたからだ。「組踊はもともと宮廷舞踊で古典っぽくて嫌いだった」と笑う。しかし、子どもが詩を朗読する舞台に関わっていた縁で、組踊の演出を依頼されたことが転機となり、「沖縄版ミュージカル」が誕生した。

 「大航海レキオス」では、主人公が東南アジアや唐を旅する中で、「沖縄のチムグクル(志高い心)」を取り戻す。平田さんは「『レキオス』は、海を道として積極的に異国と結びついていた国際人だった。そうした情熱や生き様は学ぶべきところがある」とレキオスへのこだわりを語る一方で平田さんは、島人(しまんちゅ)であることにコンプレックスを感じている現在の沖縄の人々に対して「(島に生まれたことを)『鎖』ではなく『根』だと感じれれば、子どもの育ち方が変わる。子どもたちの『心の地図』が広がれば」と、地域に根ざした文化を見つめ直す必要性を強調する。

 平田さんは、これまでも現代版組踊を沖縄各地で公演してきた。その際、プロの俳優は使わず、すべて地元の若者を起用した。今回の公演でも沖縄の中高生が中心に舞台に立つ。「(彼らは)本当にけいこに没頭している。本番でも舞台が好きで好きでたまらない、ということが自然と伝わるから観る人の心を揺さぶるのではないか」と、目を細める。

 沖縄出身のアーティストの音楽や沖縄を舞台にしたドラマがヒットするなど、現在は沖縄ブームといえるが、平田さんは「外から持ってきたものでは一過性で終わる。地域に密着したものでないと残らない」と指摘する。そして、「月の満ち欠けや潮の満ち引きなど、自然を中心に生活する沖縄文化は、本土の過去と未来を包含しているのではないか」と、沖縄人としてのアイデンティティーを強く意識することが大切だと語った。

 「レキオス」は、25日から28日までの4日間、東京都世田谷区の世田谷パブリックシアターで、昼の部、夜の部など合わせて5回公演する。若者が生き生きとした演技を見せることで、教育関係者からも注目されているほか、竹中平蔵経済財政政策担当相をはじめ政財界にも熱烈なファンが多いという。チケット問い合わせは「トリガーラボ」まで、電話03(3560)1700。【了】