オリンピックの熱狂、未だ冷めやらぬリオデジャネイロで、9月8日(日本時間)、第15回パラリンピック夏季競技大会が開幕する。160以上の国と地域、難民選手団が出場し、9月18日までの12日間に22競技・528種目が実施される。

 南米で初めて開催されるパラリンピックの大会ビジョンは「"A New world"〜新しい世界へ」。日本からは132選手が出場。シッティングバレーボール、5人制サッカー、7人制サッカー、セーリング、車いすフェンシングを除く17競技で熱き戦いを繰り広げる。

 日本選手団は数々の競技・種目にメダル候補が居並ぶが、最も人気が高い競技のひとつが車いすテニス。返球が2バウンドまで認められている以外は、健常者のテニスとほぼ同じルール。日本が世界に誇る国枝慎吾(ユニクロ)は、世界4大大会でシングルス優勝20回、ダブルス優勝24回。シングルスでは年間グランドスラムを5回達成し、パラリンピックでもシングルスで金メダルを2個、ダブルスで1個獲得している。

 今年4月には、内視鏡による右ヒジのクリーニング手術を受け、回復具合が気になるところだが、ロンドンパラリンピック直前にも同じ手術を経験しており、アジャスト力は実証済み。世界最速のチェアワークから放つバックハンドのトップスピンを武器に、リオで3連覇に挑む。

 女子シングルスで、金メダル候補ナンバー1に挙げられるのは上地結衣(エイベックス)だ。潜在性二分脊椎症のため10歳から車椅子生活を余儀なくされたが、11歳で車いすテニスを始め、高校3年生のときにロンドンパラに初出場し、ベスト8。卒業後プロに転向すると、2014年全仏・全米でシングル・ダブルス優勝を果たし、日本人女子初の世界ランキング1位に。今大会の開会式では旗手として日本選手団の先頭を行進した。

 水泳は障がいの種類、程度によって分けられたクラスごとにタイムを競い合う。選手は独自の泳法を開発し、視覚障がいのクラスでは、棒で頭などを軽く叩いてターンやゴールのタイミングを知らせるタッピングという合図があるが、基本的なルールは健常者のレースと変わらない。

 日本勢では8年ぶりにパラリンピックに帰ってきた、「水の女王」成田真由美(横浜サクラ)が国内外の話題を集めている。1996年アトランタ大会からシドニー、アテネの3大会で金メダル15個を含む20個のメダルを獲得。なかでも、アテネでは出場した個人6種目すべてと50m×4リレーで金メダル7個を獲るとともに、世界新記録6つ、大会新記録1つを樹立した。4大会連続出場を果たした北京では、クラス分けが変更され、より障がいが軽いクラスに入れられてメダル獲得はならず。その後、股関節の手術を繰り返し、一度は現役を引退したが、2015年になって7年ぶりに復帰。東京オリンピック・パラリンピック大会組織員会理事を務めるベテランが、再び日本パラリンピック水泳陣をリードする。

 また、男子では木村敬一(東京ガス/全盲クラス)の複数種目の金メダル獲得が期待されている。北京パラリンピックでは3種目で入賞し、ロンドン大会では100m平泳ぎ銀、同バタフライで銅メダルを手にしたが、さらに上を目指し、徹底的に肉体改造に取り組んだ。2015年世界選手権は、100m平泳ぎ・バタフライの2冠を制覇。リオでは、アフガニスタン従軍時に爆撃を受けて視覚障がいを負った、元アメリカ海軍のブラッドリー・スナイダーとの世界最高レベルのライバル対決に注目だ。

 陸上では、ロンドン五輪の金メダル記録8m31を上回る8m40の世界記録を持ち、リオ五輪出場を熱望しながら夢を絶たれたドイツのマルクス・レームが出る男子走入幅跳に世界の注目が集まるが、日本勢にも有望選手がいる。

 レームが出場する片脚ヒザ下切断のT44クラスとは異なるが、同じく走幅跳に出場、金メダルを狙うのが、大腿部切断で人工的なヒザを使用しているT42クラスの山本篤(スズキ浜松)だ。バレーボールに打ち込んでいた高校時代、バイク事故で左脚を大腿部から切断。義足を装着してパラ陸上に転向すると、北京パラリンピックで銀メダルを獲得し、2015年世界選手権では優勝。今年5月に行なわれた日本選手権では、T42クラスの当時世界記録6m56をマークした。山本は100m、リレーにも出場する。

 T44クラスの女子走幅跳では、中西麻耶(うちのう整形外科)が5月の日本選手権でアジア記録となる5m51の大ジャンプを見せた。北京パラリンピックでは100m6位、200m4位入賞を果たし、ロンドン大会から走幅跳にも挑戦。現在、世界ランキング2位まで上がってきた。4月の熊本地震では大分県の練習拠点も被害を受け、練習もままならぬ状態が続いていた。苦境のなかからメダル獲得を目指す。

 一方、陸上トラックでメダルに最も近いのは、女子100m、200m、400mに出場する辻紗絵(日体大)だろう。先天性前腕欠損ながら、ハンドボール選手として高校時代にはインターハイ、国体に出場。日体大ハンドボール部に進んだが、瞬発力を買われて2015年パラ陸上に転向した。わずか1年で日本記録を次々と更新し、今年に入って100m世界ランキング3位の記録を叩き出して、一躍メダル候補に躍り出た。リオに向けて右腕にアスリート用の義手を着けるようになり、体のブレも解消。メダル獲得とともに、とびきりの笑顔に人気が集まる。

 また、自転車のような長いフォルムが特徴の競技用車いす「レーサー」を駆使して勝負するマラソンの土田和歌子(八千代工業)もぜひとも期待したい。1998年長野パラ、アイススレッジスピードレース1500m・1000mで金メダル獲得後、夏のパラ陸上に転向。5000mではアテネ大会で金メダルをつかんでいるが、マラソンではシドニー銅、アテネ銀に終わっており、リオで悲願の金メダルを狙う。

 日本のお家芸である柔道は、パラでは視覚障がいの選手が組み合った状態から試合開始となる以外、健常とほぼ同じルール。リオでは男子100kg超級の正木健人(エイベックス)がパラリンピック2連覇に挑戦する。先天性の弱視ながら学生時代は健常の柔道に励んだ正木。天理大で当時監督を務めていた、シドニーオリンピック銀メダリスト篠原信一から直接指導を受けていた。150kgを超える巨漢が得意の払い腰を炸裂させるか。

 団体競技では、視覚障がい者のための対戦型競技として考案された、ゴールボールも楽しみだ。選手たちは転がってくるボールに仕込まれた鈴の音だけを頼りに体を張ってゴールを守り、攻撃する。1チーム3名。選手は「アイシェード」と呼ばれる目隠しをして、全員平等な条件でプレーする。試合開始直前、レフリーの「クワイエット・プリーズ!」(お静かに願います)を合図に静まり返る競技場は独特の雰囲気だ。

 14歳で右目、19歳で左目が黄斑変性症となり、視野の中央部分が見えない安達阿記子(リーフラス)は、ロンドンの決勝で唯一の得点をあげたエースだ。20歳のときに網膜色素変性症を患った浦田理恵(シーズアスリート)は、アテネ大会での日本代表の活躍に感動してゴールボールを始め、今では鉄壁のディフェンスでチームを救う司令塔でキャプテン。メラニン色素が欠乏し、照明や太陽光がまぶしく見える先天性白皮症の欠端瑛子(セガサミー)は、元プロ野球選投手の父親、光則譲りの強肩が武器。

 日本女子はアテネパラリンピックで初出場ながら銅メダルを獲得し、ロンドンでは見事、金メダルに輝き、リオで連覇を目指す。

 そして、ファン急増中の競技がウィルチェアーラグビーだ。魅力は、何と言っても車いす同士が轟音を響かせてぶつかる激しさ。バスケットボールと同じ広さのコートで、試合時間は1ピリオド8分間の4ピリオド制。1チーム4名で戦うが、障がいが最も重い0.5点から最も軽い3.5点まで0.5点刻みに7段階のポイントが選手ごとに設定され、コートに立つ4名の合計が8点以内とならなければならない。

 6歳のときに手足の筋力が低下する難病となったが、高校時代から車いすバスケで活躍した後、30歳でウィルチェアーラグビーに転向し、ロンドンでチーム最多得点をあげた池崎大輔(三菱商事)。19歳のときに交通事故に遭い、車いすバスケでロンドン大会出場を目指したが叶わず、ウィルチェアーラグビー転向後、わずか半年で代表入りを果たした池透暢(ゆきのぶ/アセットマネジメント)。世界トップクラスのスピードを誇るエース池崎と正確な超ロングパスでチャンスをつくる司令塔・池のツートップがリードする日本は現在、世界ランキング第3位。アテネ8位、北京7位、ロンドン4位と順位を上げ、「今が史上最強のチーム」と自負する選手たちは金メダルの手応えをつかんでいる。ライバルはカナダ、オーストラリア、イギリス、アメリカだ。

 パラリンピック日本代表選手団の目標は、「金メダル10個・金メダル獲得国別ランキング10位」。ロンドンの成績(金5・銀5・銅10個、金メダル獲得国別ランキング24位)を上回るのはもちろん、4年後、2020年「東京パラリンピックの星」誕生も大いに期待したい。

宮崎俊哉●文 text by Miyazaki Toshiya