岡本夏生の取材に同席したことがある。事前に「完全にフリーランス。マネージャーもいない」と聞いて「まじか」と驚いたが、本当に一人きりで現れた。メイクを施し、往年のボディコンに身を包んだ彼女はさすがの華やかさで周囲を明るくした。だが、撮影が終わり、メイクを落とし、駅のホームのベンチでポツンと電車を待つ女性を“彼女だ”と気付く人はいなかった。

言いたい放題、芸能界のドンの逆鱗に触れる

私たちは、一人で仕事に行き、一人で家に帰ってゆく。誰も私たちに気を留める人はいない。私たちは弱くてちっぽけな存在だ。弱くてちっぽけな存在が巨大な世界に対抗するには、一致団結して叫ぶか、代わりに戦ってくれる変わり者を探すしかない。岡本夏生はそんな変わり者として、強くて巨大で金がザクザクわいてくる芸能界やテレビ業界を相手に、言いたい放題やってくれた。

2015年の「NHK紅白歌合戦」については「こんな歌聴いたこともねえって歌が結構あった」と率直にコメントし、有名人の不倫騒動が続くと「そんなに不倫が好きなら、不倫OKにしちゃった方がいい」と言い放った。語学留学した先でハレンチな写真を撮られてしまった大手事務所の某タレントについては、「乱交パーティーでもしたんじゃないの? “名ばかり留学”ですよ」と発言し、芸能界のドンの逆鱗に触れたと報じられた。

レギュラー番組降板「迷惑かけていたならこれで良かったよ」

何をも恐れることのない発言が原因で、レギュラー出演していた『5時に夢中!』(TOKYO MX)を降板せざるを得ない状況になったといわれている。4月18日のブログに次のように綴っている。

「俺は今の時代のテレビにまったく、合ってないタレントなのさ おかげさまで4年半、大変お世話になりました 唯一のレギュラー番組の最後のニーズも3月29日を、最後に突然あっけなく終わっちまったしね 俺が、生放送ではりきって本音で、しゃべると、ガチンコで、本気でしゃべると 番組放送終わりでスタッフが謝罪に追われ 俺の、生放送での、取り返しのつかない発言の尻拭いで、そうとうご苦労されていたと、言う事実をあの、お方から、あの、イベントのステージ上で何度も、何度も聞いて、俺は、ホントに、悲しかったよ そんなにも、俺の発言が、お世話になった、スタッフに迷惑ばかりかけていたのかと そんなにもそんなにも 迷惑ばかり迷惑ばかり 尻拭い尻拭い 謝罪謝罪 頭下げまくり頭下げまくり 謝罪しまくり謝罪しまくり そんなにも、毎回、毎回 俺の、本音ガチンコ発言でご迷惑ばかり、かけていたならこれで良かったよ」(原文ママ)

3.11以降、ブログで繰り返し語られる人生論

20代で年収2億円を稼ぎ、その後、仕事がなくなり10年間テレビから姿を消し、東京に1軒、静岡に2軒、岐阜に1軒という不動産の家賃収入で暮らしていたことはよく知られたエピソードだ。岡本はしばしば自分を「芸NO人」と称し、絶頂からどん底へ落ちたと強調する。それが顕著になったのは、3.11以降である。もちろん震災以前も再ブレイクしたことをウリにはしていたが、以後はそこに人生哲学めいたものが漂うようになった。被災地に赴き、支援活動に励んだことが影響したのだろう。

「当たり前の、日常は、いつだって、予告なく、崩壊する」
「一寸先は闇」
「みんな、いつかは、死んじまうだよ 時間ほど、高いものは、ない」

こうしたメッセージをブログで繰り返し繰り返し発信する。前述の4月18日のブログでは、次のようにも書いていた。

「俺には今の世の中に、伝えたいことが、山ほどあるだよ 自分の、人生の反省や特殊な経験 さまざまな失敗談や価値観の話や生き様も、含めてね ありとあらゆるジャンルの事をガチンコで、何かを気にすることなく、今まで通りいつだって本音で、話したい 自分の言葉を、自分の責任のなかで、ノーカットで、お伝えしたい NGワードが、ない 縛りが、ない 自由な、フィールドで、誰かに、迷惑をかけるかな?と、いちいち、気にしないで、いちいち心配しないで 謝罪の、尻拭いのことなど、心配しないで、ガチンコ発言が、許される新たなステージで生きていけたらなと」

きっとまた消えていくだけ……

岡本夏生にはなれないし、なりたいとも思わない。『5時に夢中!』の降板は、「残念だ」という声が少なくない。残念だ、残念だと言いながら、多くの人々はこのまま消えてゆく彼女を追いかけることもなく、いつか「ああそんな人いたね……」とたまに思い出しては、結局は忘れてゆくだろう。かつて彼女が消えていったように。そして、また新しい変わり者をみつけては、褒めたり叩いたり謝らせたりして、気晴らしをするのだ。私たちは弱いし、テレビに出ている人は強いし、それはきっとずっと変わらないだろうから。

「もともとが芸がない 芸NO人代表なので、(汗)しばらくの間は かなり露出を控える方向で、考えております。そんなチャンスもったいなさすぎ また消えちゃうよ 次に消えたらヤバイヨ、ヤバイヨと言う声も 沢山聞こえてきそうですが 大丈夫です。いつ、消えてもいいんです。もともと消えた命 こうしてありがたく復活のチャンスを頂きましたが 芸能界はそんなに甘くはありません。あまり出過ぎると年内まで持たない可能性も もちろん身体もね」(2011年6月6日公式ブログより)

一寸先は闇だけど、強くて強大な世界にはいつもライトが当たっている。そのライトから外れてしまったテレビタレント岡本夏生が身を呈して伝えたことは、弱き者の無力感。おそらく彼女は前向きに、ガチンコで生きることの大切さをファンに伝えていきたいのだろうが、彼女の生き方を見れば見るほど、ブログを読めば読むほど、やるせない思いにとらわれてしまうのだ。

(亀井百合子)