それは七月十日のことだった。この日、半島からの使者たちが皇極天皇に貢納に上がり、そこには、当然、半島勢力を背景とする蘇我蝦夷を継いだ大臣(おおまえつきみ)の入鹿も同席していた。そとは雨。だが、無事に儀式も終わり、上表を読むべく、入鹿の従弟、蘇我石川麻呂が立つ。が、全身から汗が噴き出し、手足が震え、声にならない。訝る入鹿が、どうした? と問うが、天皇の御前で畏れかしこまるばかり、と、進まない。それは