一つの作品を深く読み込んでいくという経験はすべきである。そう思わせてくれていたのが、私立灘中学校・高等学校の国語教師だった橋本武さんだ。2013年に101歳で亡くなった橋本さんは、人生の半分となる50年もの間、教壇に立ち続け、教科書を使わずに、中勘助の小説『銀の匙』を3年かけて読み込んでいく「スローリーディング」という手法を用いるという独特な授業を行った。校風が自由な灘校であるからこそ、このスタイルが認め