CS向上・サービス改革は「お客様の定義のしかた」で変わる/松井 拓己
実際にCS向上やサービス向上に取り組む際には、「一体、何から手を付けたらよいものか」と戸惑ってしまうことも少なくないはずです。そこで今回は、明日からすぐに具体的な取り組みを始めるための王道について、サービスサイエンスの観点でご紹介します。
これまでCS(顧客満足)向上やサービス改革の本質の理論や考え方、努力のポイントなどをご紹介してきました。目に見えないサービスをサービスサイエンスの視点で少しロジカルに捉えるだけで、今までよりはるかに具体的な努力のポイントが明確になり、効果を挙げられるようになります。これまでの解説で、今後に生かせそうなヒントを掴んでいただけたのではと思います。
しかし、実際にCS向上やサービス向上に取り組む際には、「一体、何から手を付けたらよいものか」と戸惑ってしまうことも少なくないはずです。そこで今回は、明日からすぐに具体的な取り組みを始めるための王道についてご紹介します。
■「お客様」と言っても十人十色
目標を据えずに、闇雲に営業やサービス強化の取り組みを進めても、なかなかうまくいきません。そこで、まず最初の目標地点として、「満たすべき事前期待を定義する」ことが極めて重要です。そのためには、お客様の定義の仕方を変えることが必要になります。
現在、ほとんどの企業では、お客様には様々なタイプの方がいるにもかかわらず、それをすべて十把一絡げにして「お客様」としてのみ定義していています。もしくは、お客様を年齢や性別、職業や家族構成などの属性情報で定義しています。例えば「60代男性サラリーマン」、あるいは「大手製造業の経営企画部長」といった具合です。これでは営業やサービスの現場はピンときません。「60代男性サラリーマンに喜んでいただくにはどうしたらよいか?」「大手製造業の経営企 画部長からお仕事をいただくにはどうしたらよいか?」と言われても、現場では具体的に何をしたらよいのか浮かび上がってきません。
そこで、「事前期待」の視点でお客様を定義することが極めて有効となるのです。
■お客様の定義の仕方を変える
たとえば、保険の加入相談窓口での対応を例に挙げて見てみましょう。保険の加入相談にやって来るお客様には、例えば以下のような事前期待のタイプがあります。
・1つ目は保険の内容についてです。「できるだけ安心な保険に入りたい」かのか、それとも「そこそこの安心の保険でよい」のか。
・2つ目は予算感です。「納得できれば高くてもよい」のか、それとも「できるだけ安い保険に入りたい」のか。
・そして、3つ目は相談の進め方についてです。「保険は複雑で考えるのが面倒なので、スタッフにお勧めしてほしい」のか、それとも「保険は複雑だけれどもだまされたくないので自分で納得して決めたい」のか。
この3つの事前期待のタイプを意識して、相談に来たお客様に保険に加入してもらうにはどのように対応すべきかを考えてみましょう。
■事前期待の違いで顧客対応は180度変わる
保険内容については「できるだけ安心感のある保険がよい」、予算については「納得できれば高くてもよい」というお客様は、納得できれば高い保険に入っていただける可能性があります。保険会社としては、ぜひこのタイプのお客様から契約をいただきたいものです。
ただし、このタイプのお客様にも、相談の進め方への事前期待には違いがあります。「自分で納得して決めたい」というお客様には、相談窓口のスタッフができるだけ丁寧な説明と小まめなQ&Aを繰り返すことで、とことん納得していただく必要があります。
一方で、「考えるのが面倒なので、自分にふさわしい保険をお勧めしてほしい」というお客様に対して、同じように丁寧な説明と小まめなQ&Aをしてしまうと、「やっぱり保険って面倒くさい」と思われて帰られてしまうおそれがあります。そこでお勧めしてほしいお客様には、スタッフがお客様のご要望を正しく把握したうえで、ドンピシャな提案をしなければなりません。
このように、保険の内容や予算感に対する事前期待が同じお客様であっても、相談の進め方に対する事前期待の違いによって、相談窓口の現場で行うべき努力は180度変えなければならないことが分かります。
また、「そこそこの安心でよいから、できるだけ安い保険に入りたい」というお客様もいます。その中で「考えるのが面倒なのでお勧めしてほしい」という事前期待のお客様がいたら要注意です。例えば自動車保険の場合、自動車が事故を起こした際に「そこそこの安心で安い保険」は適用範囲が狭いため に、事故内容によっては保険が下りないことがあります。すると、このお客様は、「お勧めされたから契約したのに、保険が下りないとはどういうことだ!?」と、トラブルやクレームになる恐れがあるのです。
つまり、こういった「そこそこの安心で安い保険」を求めていて、でも「考えるのが面倒だからお勧めしてほしい」という事前期待のお客様に対しては、相談窓口のスタッフは真っ先に「自分で決めていただく」ように誘導しなければなりません。そして、もしどうしても自分で決めていただけない場合に は、契約は取らないという意思決定も必要になるかもしれません。
■現場がピンとくる「お客様の定義」であるかどうかがカギ
このように、「事前期待」でお客様を定義すると、現場がどんな対応をすべきかを、誰でも具体的に思い描けるようになります。しかし現在は多くの企業で、いろいろなお客様を十把一絡げにして「お客様」としか定義できていなかったり、属性情報で「60代男性サラリーマン」のような定義しかできていないことがほとんどです。これでは具体的に明日から何をすべきかが分かりません。「60代男性サラリーマン」の保険加入者を 増やせと言われても、保険の相談窓口のスタッフは「何をしたらよいものか・・・」と困ってしまいます。
「事前期待」でお客様を定義していれば、「できるだけ安心な保険がよくて、納得できれば高くてもよい」なおかつ「いい商品をお勧めしてほしい」というお客様に契約してもらうための具体的なアクションを導き出せるのです。お客様の定義を「事前期待」の視点で行うことで努力のポイントが明確になり、明日からすぐにCS向上やサービス向上に取り組めるようになります。ぜひ、お試しください。
サービスサイエンスセミナー(12/10)はこちら
これまでCS(顧客満足)向上やサービス改革の本質の理論や考え方、努力のポイントなどをご紹介してきました。目に見えないサービスをサービスサイエンスの視点で少しロジカルに捉えるだけで、今までよりはるかに具体的な努力のポイントが明確になり、効果を挙げられるようになります。これまでの解説で、今後に生かせそうなヒントを掴んでいただけたのではと思います。
■「お客様」と言っても十人十色
目標を据えずに、闇雲に営業やサービス強化の取り組みを進めても、なかなかうまくいきません。そこで、まず最初の目標地点として、「満たすべき事前期待を定義する」ことが極めて重要です。そのためには、お客様の定義の仕方を変えることが必要になります。
現在、ほとんどの企業では、お客様には様々なタイプの方がいるにもかかわらず、それをすべて十把一絡げにして「お客様」としてのみ定義していています。もしくは、お客様を年齢や性別、職業や家族構成などの属性情報で定義しています。例えば「60代男性サラリーマン」、あるいは「大手製造業の経営企画部長」といった具合です。これでは営業やサービスの現場はピンときません。「60代男性サラリーマンに喜んでいただくにはどうしたらよいか?」「大手製造業の経営企 画部長からお仕事をいただくにはどうしたらよいか?」と言われても、現場では具体的に何をしたらよいのか浮かび上がってきません。
そこで、「事前期待」の視点でお客様を定義することが極めて有効となるのです。
■お客様の定義の仕方を変える
たとえば、保険の加入相談窓口での対応を例に挙げて見てみましょう。保険の加入相談にやって来るお客様には、例えば以下のような事前期待のタイプがあります。
・1つ目は保険の内容についてです。「できるだけ安心な保険に入りたい」かのか、それとも「そこそこの安心の保険でよい」のか。
・2つ目は予算感です。「納得できれば高くてもよい」のか、それとも「できるだけ安い保険に入りたい」のか。
・そして、3つ目は相談の進め方についてです。「保険は複雑で考えるのが面倒なので、スタッフにお勧めしてほしい」のか、それとも「保険は複雑だけれどもだまされたくないので自分で納得して決めたい」のか。
この3つの事前期待のタイプを意識して、相談に来たお客様に保険に加入してもらうにはどのように対応すべきかを考えてみましょう。
■事前期待の違いで顧客対応は180度変わる
保険内容については「できるだけ安心感のある保険がよい」、予算については「納得できれば高くてもよい」というお客様は、納得できれば高い保険に入っていただける可能性があります。保険会社としては、ぜひこのタイプのお客様から契約をいただきたいものです。
ただし、このタイプのお客様にも、相談の進め方への事前期待には違いがあります。「自分で納得して決めたい」というお客様には、相談窓口のスタッフができるだけ丁寧な説明と小まめなQ&Aを繰り返すことで、とことん納得していただく必要があります。
一方で、「考えるのが面倒なので、自分にふさわしい保険をお勧めしてほしい」というお客様に対して、同じように丁寧な説明と小まめなQ&Aをしてしまうと、「やっぱり保険って面倒くさい」と思われて帰られてしまうおそれがあります。そこでお勧めしてほしいお客様には、スタッフがお客様のご要望を正しく把握したうえで、ドンピシャな提案をしなければなりません。
このように、保険の内容や予算感に対する事前期待が同じお客様であっても、相談の進め方に対する事前期待の違いによって、相談窓口の現場で行うべき努力は180度変えなければならないことが分かります。
また、「そこそこの安心でよいから、できるだけ安い保険に入りたい」というお客様もいます。その中で「考えるのが面倒なのでお勧めしてほしい」という事前期待のお客様がいたら要注意です。例えば自動車保険の場合、自動車が事故を起こした際に「そこそこの安心で安い保険」は適用範囲が狭いため に、事故内容によっては保険が下りないことがあります。すると、このお客様は、「お勧めされたから契約したのに、保険が下りないとはどういうことだ!?」と、トラブルやクレームになる恐れがあるのです。
つまり、こういった「そこそこの安心で安い保険」を求めていて、でも「考えるのが面倒だからお勧めしてほしい」という事前期待のお客様に対しては、相談窓口のスタッフは真っ先に「自分で決めていただく」ように誘導しなければなりません。そして、もしどうしても自分で決めていただけない場合に は、契約は取らないという意思決定も必要になるかもしれません。
■現場がピンとくる「お客様の定義」であるかどうかがカギ
このように、「事前期待」でお客様を定義すると、現場がどんな対応をすべきかを、誰でも具体的に思い描けるようになります。しかし現在は多くの企業で、いろいろなお客様を十把一絡げにして「お客様」としか定義できていなかったり、属性情報で「60代男性サラリーマン」のような定義しかできていないことがほとんどです。これでは具体的に明日から何をすべきかが分かりません。「60代男性サラリーマン」の保険加入者を 増やせと言われても、保険の相談窓口のスタッフは「何をしたらよいものか・・・」と困ってしまいます。
「事前期待」でお客様を定義していれば、「できるだけ安心な保険がよくて、納得できれば高くてもよい」なおかつ「いい商品をお勧めしてほしい」というお客様に契約してもらうための具体的なアクションを導き出せるのです。お客様の定義を「事前期待」の視点で行うことで努力のポイントが明確になり、明日からすぐにCS向上やサービス向上に取り組めるようになります。ぜひ、お試しください。
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