EPUB3は死に逝くおじいさんたちのフォーマット/純丘曜彰 教授博士
/EPUB3は、国際標準のEPUB2と上位互換性の無い、事実上、日本のみのガラパゴス規格。死に体の出版社の古い「常識」で、またこんなアホなことをやっているヒマがあったら、国際標準に対応できる新しい日本語字組デザインを工夫した方がいい。/
現時点でもなお電子書籍の国際標準はEPUB2。それを発展させた上位互換がEPUB3、ならよかったのだが、そうではない。両者は、互換性が無い、まったく別のフォーマットだ。もともと、アルファベットの横文字の文章だけなら、EPUB2で十分。ところが、右開きだ、縦組だ、ルビだと、事実上、日本人だけがEPUB2にケチをつけて、EPUB3を作らせた。このために、日本語のみEPUB3が標準、なんていう面倒な商業サイトもあって、国際標準のEPUB2の方がはじかれてしまう。それで、なんとしてもEPUB3にしなければ、ということになるのだが、世界全体で言えば、いまだEPUB3未対応、というより、対応する必要なんかない、と考えている連中の方が多い。おまけに、EPUB3対応、と称しているリーダーも、実際に流し込んでみると、約物(「」や……、その前後の字詰スペース)がぐちゃぐちゃで、まったく使いものにならない場合が多い。
欧文の組版は、それぞれの文字幅もばらばらなABCをとにかく横に並べていくもので、せいぜい両端を自動で揃えて見栄えをよくするくらい。ところが、日本語はもともと組版がかなり特殊で、二次元平面上に四角い漢字をグリッド(マス目)で並べていく。それも、もともと漢字そのものが、縦書きを前提とした書き順、筆勢、文字重心になっている。横書き、とくにパソコンが出てきて以来、それを横並びにして見やすくするために、これまでデザイナーたちが大変な苦労を重ねてきた。
それをまた縦書きに戻す? それは、パソコン時代に乗り遅れた出版社の思い上がりだ。EPUB3は、これまでのレガシーである本の二次元的な版面字組を液晶上にそのままに再現しようとしている。それなら、マンガの電子書籍みたいに画面固定でマイクロフィルムみたいにしてしまえばいいだけなのに、どうしても電子書籍としてリフロー(画面サイズによる読者側での再調整)にもしたいらしい。しかし、それが機械で簡単にできるくらいなら、職人技の、あんな腕のいい日本の編集者たちは必要なかった。日本語の本の字組は、きりっきりの、工夫されぬかれた平面レイアウトで出来ている。複数文字にまたがるルビなんか、リフローのページ越えで、うまくきれいに表示されるわけがない。ようするに、EPUB3は、いまの紙の本のすごさ、すばらしさに、理解も敬意も無い。そのうえ、新しい電子書籍としての新しい哲学、将来性、大義名分も無い。WiiUと同じ。だから、世界で嫌われる。
出版社としては、EPUB3で、いまの本の読者を電子書籍にシフトさせられると思っているらしい。だが、本の読者は、本の読者だ。連中は、紙の本がいい、と言う。実際、日本の紙の本の読みやすさは、紙質まで含め、微に入り、細に入った編集レイアウトの配慮のおかげで、杓子定規の電子書籍がどう逆立ちしてもかなわない。せいぜいシフトするのは、ページ画像そのままのマンガ読者くらい。一方、世間を見るに、スマホ以降の若い横書き世代が大量に発生している。彼らにとって、縦書きは国語の教科書だけ。スマホはもちろん、学校の連絡でもなんでも、日常のすべてが横書き。昨今、本が売れない、出版不況だ、と言うが、編集者や古い読者がかってに常識としている縦書きを押し通すことで、新しい読者を門前払いしているのではないか。むしろもはや逆に、紙の本の方が、新しい電子書籍、パソコンやスマホの横書き字組に合わせていくのが筋だと思うが。
結局、新しいEPUB3の方が、死に逝くおじいさんたちの古い守旧フォーマット。これ以上、日本語だけのために追加コストをかけて、ややこしい約物転がしだの、リフローだの、半角2ケタ縦中横だの日本語の特殊な字組に対応しても、日本の本の読者は紙に留まり、マーケットは広がらず、世界で採算がとれない。またこんなガラパゴなことで手間どっているヒマがあったら、将来的な読み上げや自動翻訳も視野に入れ、日本語の方を国際標準フォーマットに対応させる新しい字組デザインを考えた方がいいんじゃないか?
by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka 純丘曜彰教授博士
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。)
現時点でもなお電子書籍の国際標準はEPUB2。それを発展させた上位互換がEPUB3、ならよかったのだが、そうではない。両者は、互換性が無い、まったく別のフォーマットだ。もともと、アルファベットの横文字の文章だけなら、EPUB2で十分。ところが、右開きだ、縦組だ、ルビだと、事実上、日本人だけがEPUB2にケチをつけて、EPUB3を作らせた。このために、日本語のみEPUB3が標準、なんていう面倒な商業サイトもあって、国際標準のEPUB2の方がはじかれてしまう。それで、なんとしてもEPUB3にしなければ、ということになるのだが、世界全体で言えば、いまだEPUB3未対応、というより、対応する必要なんかない、と考えている連中の方が多い。おまけに、EPUB3対応、と称しているリーダーも、実際に流し込んでみると、約物(「」や……、その前後の字詰スペース)がぐちゃぐちゃで、まったく使いものにならない場合が多い。
それをまた縦書きに戻す? それは、パソコン時代に乗り遅れた出版社の思い上がりだ。EPUB3は、これまでのレガシーである本の二次元的な版面字組を液晶上にそのままに再現しようとしている。それなら、マンガの電子書籍みたいに画面固定でマイクロフィルムみたいにしてしまえばいいだけなのに、どうしても電子書籍としてリフロー(画面サイズによる読者側での再調整)にもしたいらしい。しかし、それが機械で簡単にできるくらいなら、職人技の、あんな腕のいい日本の編集者たちは必要なかった。日本語の本の字組は、きりっきりの、工夫されぬかれた平面レイアウトで出来ている。複数文字にまたがるルビなんか、リフローのページ越えで、うまくきれいに表示されるわけがない。ようするに、EPUB3は、いまの紙の本のすごさ、すばらしさに、理解も敬意も無い。そのうえ、新しい電子書籍としての新しい哲学、将来性、大義名分も無い。WiiUと同じ。だから、世界で嫌われる。
出版社としては、EPUB3で、いまの本の読者を電子書籍にシフトさせられると思っているらしい。だが、本の読者は、本の読者だ。連中は、紙の本がいい、と言う。実際、日本の紙の本の読みやすさは、紙質まで含め、微に入り、細に入った編集レイアウトの配慮のおかげで、杓子定規の電子書籍がどう逆立ちしてもかなわない。せいぜいシフトするのは、ページ画像そのままのマンガ読者くらい。一方、世間を見るに、スマホ以降の若い横書き世代が大量に発生している。彼らにとって、縦書きは国語の教科書だけ。スマホはもちろん、学校の連絡でもなんでも、日常のすべてが横書き。昨今、本が売れない、出版不況だ、と言うが、編集者や古い読者がかってに常識としている縦書きを押し通すことで、新しい読者を門前払いしているのではないか。むしろもはや逆に、紙の本の方が、新しい電子書籍、パソコンやスマホの横書き字組に合わせていくのが筋だと思うが。
結局、新しいEPUB3の方が、死に逝くおじいさんたちの古い守旧フォーマット。これ以上、日本語だけのために追加コストをかけて、ややこしい約物転がしだの、リフローだの、半角2ケタ縦中横だの日本語の特殊な字組に対応しても、日本の本の読者は紙に留まり、マーケットは広がらず、世界で採算がとれない。またこんなガラパゴなことで手間どっているヒマがあったら、将来的な読み上げや自動翻訳も視野に入れ、日本語の方を国際標準フォーマットに対応させる新しい字組デザインを考えた方がいいんじゃないか?
by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka 純丘曜彰教授博士
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。)