全国各地で地域活性化に向けて取り組んでいる企業・団体を紹介する「地方創生のススメ」。今回は「世なおしは、食なおし。」をスローガンに、東北の食材と情報誌をセットにした「東北食べる通信」を運営するとともに、このモデルを全国に広めるべく取り組んでいるNPO法人東北開墾を紹介しよう。

<企画・取材・文>「地方創生のススメ」編集部 ( http://www.pr-startup.com/?cat=20 / https://www.facebook.com/kasseiproject )

全国各地で地域活性に向けて取り組んでいる企業・団体を紹介する「地方創生のススメ」。今回は「世なおしは、食なおし。」をスローガンに、東北の食材と情報誌をセットにした「東北食べる通信」を運営するとともに、このモデルを全国に広めるべく取り組んでいるNPO法人東北開墾を紹介しよう。

===地方と都会をつなぐ“回路”として===

代表理事の高橋博之氏は、大学入学を機に一度は地元・岩手を離れて東京へ出たが、その後地元に戻り、岩手県議会議員を2期務めた経歴の持ち主だ。2011年の県知事選挙に立候補するも次点で落選したが、今度は“食”の力で世直しを図るべくNPO法人東北開墾を立ち上げるに至った。

震災後、都会から多くの人たちが岩手へ復興支援のために駆けつけたが、そのとき確かに被災地が助けられたのはもちろんながら、同時に都会から来た人たちが生き生きとしている姿を見て、「助ける側」「助けられる側」ではなくお互いに助け合っているのだと感じたという。

-->

「それなりの会社で働いていて、それなりの給料をもらって、経済的には特に不自由は無い。しかし仕事そのものにおいては受益者の顔が見えなかったり、物事が数字だけで議論・判断されたりするなど、リアリティがない空虚なものになってしまっている。そんなことを感じていた人たちが被災地に来て、利害関係なく目の前の人のために素直な心で接することで自分を取り戻していく、そんな姿をたくさん見てきました。」(高橋氏)

最近は地方の課題が色々と叫ばれているが、同時に都会もさまざまな課題を抱えており限界を迎えている。今までは都会が地方をどう支えるかという議論しかなかったが、地方がどう都会を支えるかというのも重要なテーマであり、したがって「地方が」「都会が」といった二項対立ではなく、都会と地方が共存しあうべきなのだと高橋氏は強調する。

高度経済成長期、長男が実家を継ぎ、それ以外の兄弟たちは東京に出ていったが、まだその当時は“血縁”で地方と都会はつながっていた。しかしそのつながりも時代とともに薄れ始めている。

そんな危機感を覚える中で「では“血縁”以外に何かつながりをつくることが出来ないか」と考えた末に“食”に辿りついた。“食”は毎日口にするものであり、作り手は地方に、食べる人は都会にいる。そこで作り手・地方と消費者・都会とをつなぐ“回路”として、“食”を媒介にしようと始めたのが「食べる通信」だ。

===“傍観”から“参加”へと意識変容を促すために===

「食べる通信」は毎月1回1,980円にて食材と情報誌がセットになって家庭に届けられる。情報誌では毎回特集を組んで農家や漁師、酪農者といった生産者の食に対する想いや生き様を紹介し、そして彼らが生産した食材が一緒に送られてくる。

-->

(画像)食材と情報誌がセットになって届く”食べる情報誌”

「まずは『食べる通信』をきっかけに“知ってもらう・理解してもらう”ことが第1段階ですが、その次には“自身で動く”“参加する”、つまり“消費者”から脱却して“主体者”になってもらいたいと考えています。傍観者としてあれこれ言っていても何も変わりません。主体者として自ら行動することで、そこから何かが生まれるのだと思います。」(同)

とは言えいきなり仕事や家庭を顧みずに参加することも難しいため、まずは片足だけ突っ込んでみて、より意欲が高まったら本格的に関与すれば良いだろう。そのためのエントリーに“食べる通信”にしていきたいという。

-->

(画像)取材の様子(右:代表理事・高橋氏)

また情報誌に加えて、生産者と消費者をつなぐ手立てとしてFacebookを積極的に活用している。昔は生産も消費も域内で行われていたので、生産者と消費者がお互い顔なじみで、「あんたが作った**、美味しかったよ!」などと“食”を通じたコミュニケーションが当たり前だった。しかしそれが経済成長期に入り、生産地と消費地が離れてしまったためにお互いの顔がわからない状況に陥っていてしまった。

しかし時は流れて現代ではSNSが一般的になってきたので、日常的に両者がつながることが出来る“コミュニティ”を作ろうと考えた。これにより今まで生産者は流通に乗せたらおしまいで、消費者の顔を見ることが出来なかったが、Facebookを通じて届く消費者からの声が励みになっているという。また消費者側も実際に生産者に会いたいと、わざわざ生産者を訪問する人まで出始めているそうだ。

さらには東北で始まった「食べる通信」だが、最近では全国各地で次々にご当地「食べる通信」が始まっている。

「震災後に全国各地から若者が東北に復興支援に来てくれました。そんな彼らに『東北に来てくれるのは本当に有難いけれど、一方で君たちの故郷では過疎化や高齢化などの問題はどうなの?』と聞くと、みな下を向いてしまったのです。確かに東北は津波があって大変かもしれないですが、過疎化や高齢化といった地方が抱える課題は、東北に限らず全国各地が抱えている問題です。したがって東北こそが地方が抱える課題を解決する先頭に立ち、そして全国各地にそのモデルを広げていきたいという想いが当初からありました。」(同)

とは言え東北だけでも6県あり、各県には数十の市区町村がある。さらには東北以外でも全国各地に生産者がいる。したがって東北開墾が日本全国を網羅するのではなく、その土地の人たちに主体的に取り組んでもらうのが一番であり、「おらが町でも始めたい!」という地域に対して、スタート時から円滑に進められるように「食べる通信」というモデルを“お裾分け”しながら横展開する形を採っている。

こうして東北のほかに四国や東松島にて今春から「食べる通信」が始まり、さらに北は北海道から南は沖縄まで数十の地域が参加表明して現在準備を進めているという。中には元々は「東北食べる通信」の読者だった人が「私も自分の地域の食べる通信を始めたい」と運営者側になる事例も現れ始めているそうだ。

-->

(画像)四国でも今春から「四国食べる通信」が始まった

===主体的且つ段階的に地方との関わり合いを深めていくきっかけに===

このように軌道に乗り始めた「食べる通信」の今後の展望について聞いた。

「従来都会から地方への回路は“観光”か“移住”の両端の話だけで、その中間の議論がありませんでした。しかし“観光”からいきなり“移住”と一足飛びにはいかないように、物事には段階が必要です。中間と言えば“二拠点居住”がありますが、これが出来る人も一握りであり、もっとさまざまな選択肢があって良いのだと思います。」(同)

したがって生産者に会いに行く読者が現れたり、自分の地域でも「食べる通信」を立ち上げたいという読者が現れたりするなど、「食べる通信」は主体的且つ段階的に地方との関わり合いを深めていく、そのきっかけにしていきたいと語る。

「そして主体者として『生産者の地位を高めたい。』『自分の故郷の価値を知ってほしい。』『日本の食を守りたい。』、そんな思いを持った人たちが増えていけば、きっと日本は変わるはずだと信じて、今後も取り組んでいきたいと思います。」

各地の「食べる通信」が順調に成長したその先には、きっと日本全国の生産者が生き生きとしている姿があるに違いない。