地歴ロンダに騙されるな/純丘曜彰 教授博士
/不動産業界は、土地を売るのが仕事で、都合の悪いことは、なんでも隠す。しかし、連中が隠したことの中には、自分と家族の命に関わる問題も少なくない。/
南向きひな壇、隣は公園、高台で眺望良好。などという土地の出物があったなら、変だと思った方がいい。そんな良物件は、むしろ、ワケあり、を疑った方がいい。そもそも、日本で売買されている「土地」の大半は、古い洪積台地か、新しい沖積平野。前者は地形浸食が進んでしまっており、後者は地盤軟弱な元田んぼ。だから、崖崩れか、洪水かの二者択一のリスクがある。
まず問題なのが、地名ロンダ。「沢」や「沼」「窪」のような漢字が残っていれば、わかりやすい。ところが、漢字を入れ替えた地名が少なくない。たとえば、「梅」「八」のもとの字は、埋、谷。「木」も岐で、いつくもの山筋谷筋があるところ。浸食崖、崩壊崖を意味する「釜」「倉」なども、「鎌」や「蔵」に変えられている。まして、なんとかヶ丘、なんていう地名は、まさに造成地。多摩丘陵や泉北丘陵など、日本の浸食の進んだ洪積台地は、尾根と谷が入り組んだいわゆる里山地形になっているところが多く、それを80年代にニュータウンの大規模造成でのっぺした。こういうところは、同じ住宅地内でも、尾根筋の削ったところと、谷筋の盛ったところで、露骨に災害被害の差が出る。
過去の地歴を調べるのに便利なのは、地理院地図(電子国土web、http://portal.cyberjapan.jp/) 70年代以降の写真や明治前期の低湿地なども、半透明のレイヤーにして、現在の地形と比較することができる。70年代以前のもっと古い航空写真となると、同じく国土地理院の地図空中写真閲覧サービスがある。(http://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do)ここなら、戦前の都市部地形図さえも確認できる。埼玉大の谷先生のサイトも、都市部のみながら、明治時代からの地図を重ね合わせることができて、すばらしく便利。(http://ktgis.net/kjmapw/index.html)これらのサイトは、不動産の売買、家の新築改築、災害時の避難の前に、よくよくチェックしておくべきものだろう。
学校や公園の近く、というと、「文教地区」として環境が良い、と思うかもしれない。だが、災害歴のある厄介な入会地をうまく市に売却したとか、新興住宅地の谷筋埋め立てで地盤強度が無く、グラウンドぐらいにしか使えないとか、問題があるところもある。そうでなくても、学校だの、公園だのの周辺は、朝はともかく夕方からまともな人通りが途絶え、物陰に落ちこぼれのワルやOBがたむろって、バス停からの夜道の治安は最悪、ということも。むしろ夜遅くまでやっている塾や病院の近くの方がまし。同様に、県営団地、市営住宅などがある周辺も、事情をよく調べてみた方がいい。
寺や神社の近くも、昔からあるから安全、と言われることがある。ところが、これらは、廃仏毀釈や借財借金のせいで、近代になって移動させられていることもある。墓地も同様。道路や住宅地の計画で、点在する墓地を一ヶ所にまとめた、ということも多い。そもそも橿原神宮や明治神宮などは、それぞれ明治時代、大正時代の創建。古い寺社は、豪族屋敷の跡地はともかく、もともとかつてそこで大きな災害や事件があったので、その死者たちの霊を鎮めている場合もある。まして祠や地蔵の類いとなると、水源や村境に設置された場合が多く、もとは沼の横だったり、断層の近くだったり、すぐ外が処刑場や死体捨場だったり。廃社廃寺跡は、害虫や湿気など、廃社廃寺になるくらいの大きな住環境上の問題が土地にあった可能性がある。さらに、寺社や墓地の周辺には、世に「霊道」などと呼ばれているものも。かつての小道を潰して区画整理しても、風や水、人の流れに合わない。現実問題として、寺社周辺はヨソモノの出入りが多く、車の接触事故やゴミのポイ捨てなどのトラブルが耐えない。まあ、神や霊の住むところは、人の住むところではないのかもしれない。そうでなくとも、そういうところは、気にする人もいて、後々、転売しにくい。
一方、市街化調整区域、というと、「宅地の造成および建物の建築はできません」と書かれている。ところが、60年代後半、「市街化調整区域」に指定されたところというのは、開発困難な地域だけでなく、歴史・文化・風致上保存すべき地域、ということで、かなり古くからの地主クラスの農家たちが、高度経済成長期の乱開発を嫌って、自分たちの大規模農地の周辺を政治的にまるごと指定してしまうということも多かった。現在も、あいかわらず特権的に保護されており、名目上の既存宅地制度が廃止されても、じつは建替や増築にさほど問題はない。周辺が乱開発に晒されて地形や用途が大きく変わったりすることも無く、隣地に家が立て込むこともなく、日照や景観なども保護されており、さらに最近は、周辺の里山や田畑が環境学習のために一般市民に開放され、公的な費用で自然公園として整備され、住宅以外の農産物販売所やレストラン、コンビニさえ新設されることさえある。この意味で、どうしようもない開発困難な市街化調整地域はともかく、住宅地の中に残された市街化調整区域内の元農地や古家は、むしろ意外に将来性があって、数量限定のお買い得。
2000年に建築基準法が大きく改正された。ところが、コンクリブロックの練り積み擁壁の古いもの、つまり、現行基準を満たさないものは、日本中に溢れかえっている。70年代以前は、浸食の進んだ洪積台地でも、造成してのっぺすことなく、そのままの地形で分譲されたために、多摩丘陵や泉北丘陵などの駅の近くほど、とんでもない崖地に住宅がへばりついている。周辺が擁壁だらけ、数メートルもの高さのの擁壁の間に道路を入れてひな壇型にズラし、全体の高さを稼いでいるなどという地域は、人が住むには、かなり無理がある。そもそも、本来は大きな洪積台地だったのが浸食されて崩れて、そういう入り組んだ地形になっているくらいなのだから、もともと地質的にもろい。まして、擁壁の上に古い木がある、切り株がある、などであれば、その根で内側からさらに崩壊が進んでおり、いつ崩れても不思議ではあるまい。この十数年内に正規の業者で作られたことが確実でなければ、どんな擁壁でも、身長を超えるほどの高さがあれば、かなり危険だと思った方がいい。
逆に、田んぼや砂浜だった沖積平野も、問題が多い。造成において排水路も整備し、現在の基準で基礎などもしっかりと作るだろうが、いくらやっても液状化の危険は残る。わかりにくいのは、洪積台地の谷あいの沖積平野。下を地下水が流れており、いくら上を造成して固めても、地下深い軟弱な土壌が流出すれば、地盤沈下を起こす。まして、その上流の山林がさらに切り開かれ、住宅地ができて、山の保水性が失われた場合、豪雨時の排水は谷筋の住宅地に一気に流れ込み、販売面積最大化のために法面すら削って最小限に狭められた排水路を簡単に溢れさせ、床上まで浸水させる。地名+避難勧告でネット検索すれば、過去の被害がすぐに出てくる。また、住宅地の中でも、きわめて局地的に水が溜まる場所がある。マンホールやたらと多い、排水ポンプ施設がある、低地に公園がある、などの周辺は避けた方が無難。いくら布基礎を高く張っても、つねに地下水が挙がってきて、家中に湿気が吹き溜まり、根太も畳も腐り、黒カビだらけで、健康にも良くはあるまい。いまどき築二十年そこそこで撤去更地になるような家は、土地そのものの問題を疑った方がいい。
大規模造成地なのに、やたらと年数が経って販売を始めたところは、おかしい。バブル以降、寝かして費用の金利以上に値上がりになることはまず無いからだ。これまで売りに出せなかった理由がなにかある。沼の埋め立て地や廃棄物の処理場で地下ガスや汚染物質が出ていて、基準値まで下がるのを待っていた、とか。また、街中や駅前の工場跡地で、公園の横に、妙なコンクリ密閉の区画があるところも、販売不可の汚染地の可能性が高い。同様に、すでに古い住宅地なのに、公園や駐車場のすぐ横の更地が売りに出されたなら、直近まで売るに売れなかった、そのような難あり区画かもしれない。もちろん、基準値以下なら気にしない、というのなら、それもいいが。
別種の問題だが、造成地は、ふつう、南入りと北入りの2区画の合わせの列で1ブロックを構成している。ところが、道路脇に、道路と隔てるための内入り1区画のみの列があったりする。これは、正規の道路計画地ではないまでも、将来的に、道路幅拡張の際に撤去対象になる危険性がある。事実上、住宅地全体の道路用セットバックブロックだ。同様に、T字路の延長線上で、ため池などの谷筋を連ねたところは、将来、道路になる可能性がある。谷筋が道路になるのは、地下が下水道などを兼ねるため。もちろん、尾根でも、トンネルをぶち抜いて延伸してくるかもしれない。
不動産屋から聞いた話だが、売るのが商売だから、悪いことは話さないそうだ。話に出てこない話があったら、それがワケあり。もちろん、聞かれても、災害のこと、将来のことなど、だれも保証できまい。ただ、過去は未来を予見していることも多い。自分で地歴をよく調べ、よく考えてみるしかあるまい。いくら眺望や立地が良くてお買い得でも、自分や家族の命の値段には代えられまい。
by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka 純丘曜彰教授博士
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。)
南向きひな壇、隣は公園、高台で眺望良好。などという土地の出物があったなら、変だと思った方がいい。そんな良物件は、むしろ、ワケあり、を疑った方がいい。そもそも、日本で売買されている「土地」の大半は、古い洪積台地か、新しい沖積平野。前者は地形浸食が進んでしまっており、後者は地盤軟弱な元田んぼ。だから、崖崩れか、洪水かの二者択一のリスクがある。
過去の地歴を調べるのに便利なのは、地理院地図(電子国土web、http://portal.cyberjapan.jp/) 70年代以降の写真や明治前期の低湿地なども、半透明のレイヤーにして、現在の地形と比較することができる。70年代以前のもっと古い航空写真となると、同じく国土地理院の地図空中写真閲覧サービスがある。(http://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do)ここなら、戦前の都市部地形図さえも確認できる。埼玉大の谷先生のサイトも、都市部のみながら、明治時代からの地図を重ね合わせることができて、すばらしく便利。(http://ktgis.net/kjmapw/index.html)これらのサイトは、不動産の売買、家の新築改築、災害時の避難の前に、よくよくチェックしておくべきものだろう。
学校や公園の近く、というと、「文教地区」として環境が良い、と思うかもしれない。だが、災害歴のある厄介な入会地をうまく市に売却したとか、新興住宅地の谷筋埋め立てで地盤強度が無く、グラウンドぐらいにしか使えないとか、問題があるところもある。そうでなくても、学校だの、公園だのの周辺は、朝はともかく夕方からまともな人通りが途絶え、物陰に落ちこぼれのワルやOBがたむろって、バス停からの夜道の治安は最悪、ということも。むしろ夜遅くまでやっている塾や病院の近くの方がまし。同様に、県営団地、市営住宅などがある周辺も、事情をよく調べてみた方がいい。
寺や神社の近くも、昔からあるから安全、と言われることがある。ところが、これらは、廃仏毀釈や借財借金のせいで、近代になって移動させられていることもある。墓地も同様。道路や住宅地の計画で、点在する墓地を一ヶ所にまとめた、ということも多い。そもそも橿原神宮や明治神宮などは、それぞれ明治時代、大正時代の創建。古い寺社は、豪族屋敷の跡地はともかく、もともとかつてそこで大きな災害や事件があったので、その死者たちの霊を鎮めている場合もある。まして祠や地蔵の類いとなると、水源や村境に設置された場合が多く、もとは沼の横だったり、断層の近くだったり、すぐ外が処刑場や死体捨場だったり。廃社廃寺跡は、害虫や湿気など、廃社廃寺になるくらいの大きな住環境上の問題が土地にあった可能性がある。さらに、寺社や墓地の周辺には、世に「霊道」などと呼ばれているものも。かつての小道を潰して区画整理しても、風や水、人の流れに合わない。現実問題として、寺社周辺はヨソモノの出入りが多く、車の接触事故やゴミのポイ捨てなどのトラブルが耐えない。まあ、神や霊の住むところは、人の住むところではないのかもしれない。そうでなくとも、そういうところは、気にする人もいて、後々、転売しにくい。
一方、市街化調整区域、というと、「宅地の造成および建物の建築はできません」と書かれている。ところが、60年代後半、「市街化調整区域」に指定されたところというのは、開発困難な地域だけでなく、歴史・文化・風致上保存すべき地域、ということで、かなり古くからの地主クラスの農家たちが、高度経済成長期の乱開発を嫌って、自分たちの大規模農地の周辺を政治的にまるごと指定してしまうということも多かった。現在も、あいかわらず特権的に保護されており、名目上の既存宅地制度が廃止されても、じつは建替や増築にさほど問題はない。周辺が乱開発に晒されて地形や用途が大きく変わったりすることも無く、隣地に家が立て込むこともなく、日照や景観なども保護されており、さらに最近は、周辺の里山や田畑が環境学習のために一般市民に開放され、公的な費用で自然公園として整備され、住宅以外の農産物販売所やレストラン、コンビニさえ新設されることさえある。この意味で、どうしようもない開発困難な市街化調整地域はともかく、住宅地の中に残された市街化調整区域内の元農地や古家は、むしろ意外に将来性があって、数量限定のお買い得。
2000年に建築基準法が大きく改正された。ところが、コンクリブロックの練り積み擁壁の古いもの、つまり、現行基準を満たさないものは、日本中に溢れかえっている。70年代以前は、浸食の進んだ洪積台地でも、造成してのっぺすことなく、そのままの地形で分譲されたために、多摩丘陵や泉北丘陵などの駅の近くほど、とんでもない崖地に住宅がへばりついている。周辺が擁壁だらけ、数メートルもの高さのの擁壁の間に道路を入れてひな壇型にズラし、全体の高さを稼いでいるなどという地域は、人が住むには、かなり無理がある。そもそも、本来は大きな洪積台地だったのが浸食されて崩れて、そういう入り組んだ地形になっているくらいなのだから、もともと地質的にもろい。まして、擁壁の上に古い木がある、切り株がある、などであれば、その根で内側からさらに崩壊が進んでおり、いつ崩れても不思議ではあるまい。この十数年内に正規の業者で作られたことが確実でなければ、どんな擁壁でも、身長を超えるほどの高さがあれば、かなり危険だと思った方がいい。
逆に、田んぼや砂浜だった沖積平野も、問題が多い。造成において排水路も整備し、現在の基準で基礎などもしっかりと作るだろうが、いくらやっても液状化の危険は残る。わかりにくいのは、洪積台地の谷あいの沖積平野。下を地下水が流れており、いくら上を造成して固めても、地下深い軟弱な土壌が流出すれば、地盤沈下を起こす。まして、その上流の山林がさらに切り開かれ、住宅地ができて、山の保水性が失われた場合、豪雨時の排水は谷筋の住宅地に一気に流れ込み、販売面積最大化のために法面すら削って最小限に狭められた排水路を簡単に溢れさせ、床上まで浸水させる。地名+避難勧告でネット検索すれば、過去の被害がすぐに出てくる。また、住宅地の中でも、きわめて局地的に水が溜まる場所がある。マンホールやたらと多い、排水ポンプ施設がある、低地に公園がある、などの周辺は避けた方が無難。いくら布基礎を高く張っても、つねに地下水が挙がってきて、家中に湿気が吹き溜まり、根太も畳も腐り、黒カビだらけで、健康にも良くはあるまい。いまどき築二十年そこそこで撤去更地になるような家は、土地そのものの問題を疑った方がいい。
大規模造成地なのに、やたらと年数が経って販売を始めたところは、おかしい。バブル以降、寝かして費用の金利以上に値上がりになることはまず無いからだ。これまで売りに出せなかった理由がなにかある。沼の埋め立て地や廃棄物の処理場で地下ガスや汚染物質が出ていて、基準値まで下がるのを待っていた、とか。また、街中や駅前の工場跡地で、公園の横に、妙なコンクリ密閉の区画があるところも、販売不可の汚染地の可能性が高い。同様に、すでに古い住宅地なのに、公園や駐車場のすぐ横の更地が売りに出されたなら、直近まで売るに売れなかった、そのような難あり区画かもしれない。もちろん、基準値以下なら気にしない、というのなら、それもいいが。
別種の問題だが、造成地は、ふつう、南入りと北入りの2区画の合わせの列で1ブロックを構成している。ところが、道路脇に、道路と隔てるための内入り1区画のみの列があったりする。これは、正規の道路計画地ではないまでも、将来的に、道路幅拡張の際に撤去対象になる危険性がある。事実上、住宅地全体の道路用セットバックブロックだ。同様に、T字路の延長線上で、ため池などの谷筋を連ねたところは、将来、道路になる可能性がある。谷筋が道路になるのは、地下が下水道などを兼ねるため。もちろん、尾根でも、トンネルをぶち抜いて延伸してくるかもしれない。
不動産屋から聞いた話だが、売るのが商売だから、悪いことは話さないそうだ。話に出てこない話があったら、それがワケあり。もちろん、聞かれても、災害のこと、将来のことなど、だれも保証できまい。ただ、過去は未来を予見していることも多い。自分で地歴をよく調べ、よく考えてみるしかあるまい。いくら眺望や立地が良くてお買い得でも、自分や家族の命の値段には代えられまい。
by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka 純丘曜彰教授博士
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。)