「コンフェデレーションズカップ(以下、コンフェデ)まではW杯アジア予選を勝ち抜いたメンバーで戦う」

 昨年6月、そんな言葉でコンフェデ終了後の日本代表メンバーの入れ替えを示唆していたザッケローニ監督だったが、ブラジルW杯に臨むメンバーが発表された今となっては、コンフェデを境にドライ過ぎるほどスパッと世代交代が断行されたのだと実感する。

 例えば、MF中村憲剛。ザッケローニ監督はアジア最終予選の最後の試合となったイラク戦後、「頭がよく、自分がピッチに立ったら何をすべきかがわかっている選手」と絶賛していたにもかかわらず、コンフェデのあとは一度も代表に招集することはなかった。

 すでに実力が把握できているベテランを、確実に計算できる駒としてW杯メンバーに加えるのではないか、と思っていたが、予想以上に世代交代は進んでいたのだ。それはコンフェデまでずっと1トップを務めてきた、FW前田遼一にも通じる。

 そこでは徐々に新しい選手を試しながら、選手を入れ替えていくという緩やかな手法は採られなかった。コンフェデまで招集し続けてきたメンバーをある日突然、こうもバッサリと切り捨てられるものだろうかと、正直、驚きも感じているが、それはともかく、結果として日本代表に若い選手が台頭してきたのは事実である。

 実際に今回発表されたメンバーをコンフェデ当時と比較し、入れ変わった顔ぶれを見てみると、よくわかる。

DF栗原勇蔵(30歳)→DF森重真人(26歳)
MF細貝萌(27歳)→MF山口蛍(23歳)
MF高橋秀人(26歳)→MF青山敏弘(28歳)
MF乾貴士(25歳)→FW齋藤学(24歳)
MF中村憲剛(33歳)→FW大久保嘉人(31歳)
FW前田遼一(32歳)→FW柿谷曜一朗(24歳)
FWハーフナー・マイク(26歳)→FW大迫勇也(23歳)
※年齢はメンバー発表のあった5月12日現在

 こうして見ると、20代前半の、いわゆるロンドン世代(1989〜1992年生まれ)が勢力を拡大した。コンフェデ当時から名を連ねていたGK権田修一、DF酒井宏樹、酒井高徳、MF清武弘嗣を加え、総勢8名。伸び盛りの若い選手が台頭してきたこと自体は、喜ばしいことである。

 しかし、ロンドン世代の多くはおそらくベンチを温めることになる。柿谷か大迫が1トップを務めることが予想されるが、それ以外の選手は基本的にサブという立場。チームの総合力が問われるW杯という舞台で、経験の浅い若い選手ばかりが控えに並ぶことには少なからず不安が残る。

 例えば、前回の南アフリカ大会。メンバー発表の時点で主力と目された選手が調子を落とし、戦術変更を余儀なくされる中、代わって活躍したのはGK川島永嗣、DF駒野友一、MF阿部勇樹、松井大輔といったアテネ世代(1981〜1984年生まれ)の選手たち。当時、28、29歳の経験ある彼らが傾きかけたチームを立て直したのである。

 そもそも今回の場合、DF内田篤人、吉田麻也、MF長谷部誠と、主力3選手が負傷による長期欠場から復帰し始めたばかりで、本番までにどこまで復調するのかという不安材料を抱えている。

 仮に彼らのコンディションに問題はなかったとしても、誰もが当然、大会中にはケガや出場停止などのアクシデントが起こりうる。そんなとき、後ろに控えているのが若い選手ばかりで大丈夫だろうか。

 また、主力選手が問題なく試合に出続けられたとしても、今度は控え組がいかにチームを盛り上げられるかは、W杯のような短期決戦を勝ち抜くうえでは重要なポイントとなる。

 前回W杯の場合でも、結果的に控えに回ったMF中村俊輔や中村憲、あるいはGK川口能活ら、実績のある選手が裏方としてチームを盛り上げ、士気を高めた。その結果が、自国開催でのW杯を除けば初となる決勝トーナメント進出である。20代前半の若い選手ばかりをサブに置いていたら、同じことは起こらなかったかもしれない。

 前回大会と同様に決勝トーナメント進出を果たした2002年日韓大会では、ベンチにDF秋田豊、FW中山雅史がおり、チーム全体の士気を高めることにひと役買った。逆に、そうした選手を欠いた1998年フランス大会や2006年ドイツ大会では大会中に控え組が著しくモチベーションを下げ、チームもグループリーグ敗退に終わっている。

 ベンチの陣容が大きく結果を左右する。そのことは過去の事例が証明しているのである。

「同じ力の選手がふたりいたら、若い選手を選択した」

 メンバー発表の席上でザッケローニ監督が語った、その考え方には基本的に賛成だ。その結果、ロンドン世代の選手が多くのポジションでレギュラーをつかんだというのなら構わない。

 しかし、ベンチの大部分を彼らが占めるとなると話は別だ。控えメンバーにおける「若さ」と「経験」のバランスを、もっと考えるべきではなかったか。

 過去のW杯を振り返ったとき、日本代表の「若過ぎるベンチ」に一抹の不安を覚えてしまう。

浅田真樹●文 text by Asada Masaki