ブラジルW杯に挑む日本代表メンバー23名が発表された。

 なかでも大きな話題となっているのは、FW大久保嘉人(川崎フロンターレ)の"サプライズ選出"だが、一般的にはそれと同等か、それ以上の驚きをもたらしたのが、MF青山敏弘サンフレッチェ広島)の選出だったのではないだろうか。というのも、青山は日本代表にずっと定着していた選手ではなかったからだ。

 ザッケローニ監督が就任して以降、日本代表のボランチは遠藤保仁(ガンバ大阪)、長谷部誠(ニュルンベルク/ドイツ)のふたりが不動のレギュラーとして据えられ、細貝萌(ヘルタ・ベルリン/ドイツ)がバックアッパーの一番手として控えるという状況が続いていた。

 そんな"序列"に変化が生まれるきっかけとなったのが、昨年7月の東アジアカップである。

 日本が初優勝したこの大会で、ボランチとしてMF山口蛍(セレッソ大阪)とともに初選出された青山。とはいえ、先に脚光を浴びたのは山口のほうだった。試合終了間際のゴールで韓国を下しての初優勝という劇的な結末に、ほとんどの選手が歓喜する中、当時、青山だけは浮かない様子でこんなことを話している。

「半分うれしいけど、半分悔しい。(チームの)結果だけ求める大会でもないし、(自分が代表に残っていくために)プラスアルファの結果も残さなきゃいけなかったんだろうけど、それはできなかったんで」

 この大会でMVPに選ばれた山口は以後、代表に定着。昨年11月のベルギー遠征(2−2オランダ、3−2ベルギー)では2試合連続で先発出場するなど、不動のレギュラーを脅かすほどに、ザッケローニ監督からの信頼を得るようになっていた。

 その一方で青山は、東アジアカップのあとは昨年9月のグアテマラ戦(3−0)に途中出場したのみ。しかも、翌日には体調不良でチームを離脱。3日後に控えたガーナ(3−1)との親善試合を棒に振ると、その後はお呼びがかからず、代表争いからは脱落したかに見えた。

 しかし、東アジアカップ当時、青山はこうも話していた。

「まずはJリーグで結果を出す。目に見える結果を出していけば、またチャンスは来ると思うし、そういう意識を持っていれば、何かがちょっとずつ変わってくるんだろうなと思う」

 実際、青山は日本代表からは遠ざかっていたものの、その間にサンフレッチェ広島でJ1連覇を達成。青山自身も2年連続ベストイレブンに選出され、自らがJリーグを代表するボランチであることを証明してみせた。

 はたして青山は、誰もが認める広島での成果を引っ提げ、今年3月のニュージーランド戦(4−2)で約半年ぶりに代表復帰。それでも取材エリアで彼を囲む記者の数を見れば、青山が代表生き残りを有力視されていたとは言い難かった。

 何より青山本人が「客観的に見て自分は5番手」と語り、この試合で招集されていた遠藤、細貝、山口に、負傷で選ばれていなかった長谷部も加え、ボランチの代表候補選手の中では一番下の立場にいるという認識を持っていた。当時、青山はこう続けている。

「でも、(Jリーグの試合で)その5番手を見るために、監督が広島まで来てくれることには感謝しかないし、それに応えないといけない。自分はそういう(監督の)思いを勝手に感じているので(苦笑)。恩返しも含めて結果を出さないといけないし、去年(の最後の招集)から何カ月経っているのかわからないけど、この場で成長している部分を確認できればいい。失敗しても自分は5番手なんで、何も失うものなんてないから」

 だが、結果が出た今となっては、本人が考えている以上に指揮官の評価は高かったということだろう。

 ザッケローニ監督を振り向かせた、青山の魅力は縦への意識。「攻撃のスイッチを入れる」縦パスのセンスはJリーグでも屈指だ。見た目の体格(身長174cm、体重73kg)から受ける印象以上にフィジカル能力は高く、守備面での危機察知能力も備えてはいるが、タイミングのいい縦パスで攻撃のリズムに変化を生み出すことこそが、青山最大の武器である。

 この優れた攻撃センスに誰より助けられているのは、広島のFW佐藤寿人だろう。スペースを見つけ出す嗅覚抜群のこのFWは、青山が放つ縦パス1本でいとも簡単にDFラインの裏に抜け出し、決定的なシュートチャンスを作り出す。この痛快なホットラインなしに、佐藤が一昨季、J1得点王を獲得することもなかったはずだ。

 どちらかと言えば、細貝と山口が1対1での守備能力やボール奪取能力に特徴があることを考えると、青山が他のボランチとの差別化を図れたことは、代表行き残りに好都合だったと言えるだろう。

 余計な横パスを省き、ゴールへ向かって積極的にボールを運ぶことを求めるザッケローニ監督にとって、青山の「縦への意識」が魅力的なものに映ったとしても不思議はない。実際、青山はニュージーランド戦に先発出場。すでにサプライズ選出の"予告"はなされていたわけである。

 思えば、4月に国内組だけで行なわれた代表候補キャンプに参加した際、青山はこんな言葉で手応えを口にしていた。

「ザックさんには自分のよさをわかってもらえていると思う」

 5番手からの逆転選出。青山の思いは確かに指揮官に通じていた。

浅田真樹●文 text by Asada Masaki