プロ野球が開幕して1カ月が過ぎた。セ・リーグは広島が開幕から好調を続け、パ・リーグはオリックスが今世紀初の貯金2ケタを達成するなど、順調なスタートを切った。個人に目を向けると、大瀬良大地(広島)、石川歩(ロッテ)らのルーキーに、新外国人のレスリー・アンダーソン(巨人)、マウロ・ゴメス(阪神)といった新戦力の活躍が目立つ。そこで解説者7人に開幕1カ月で起きた様々な出来事からそれぞれの「3大ニュース」を選んでもらった。

山崎武司(元中日、オリックス、楽天)

?レスリー・アンダーソン(巨人)の活躍
?阪神打線の大爆発
?飛びすぎる統一球問題

「キャンプでアンダーソンのバッティングを見た時、体が前に突っ込んで、これでは変化球は対応できないだろうと思っていました。それがシーズンに入ると、タイミングの取り方を変えたのか、しっかりとボールを引きつけて対応するようになっている(打率.380、5本塁打、24打点)。この短期間でここまで修正できる能力の高さに、ただただ驚きです。チームでいうと、阪神の戦いぶりに目をひかれました。開幕前は投打ともに不安が大きく、大丈夫かなと心配していたのですが、打線が想像をはるかに超える活躍で投手をカバーしていますよね。あとは今年も飛び出した統一球問題ですね。なぜ、いつもシーズンが始まってからなのか。こういうことが2年続けて起きたことが驚きです。シーズン前に公表しておけばここまで大きな問題にならなかったはず。このままでは『野球界は何をやっているんだ!』とファンが離れてしまう。球界全体の問題として真剣に考えていかなければいけないと思います」

田口壮(元オリックス、カージナルスほか)

?ペーニャ(オリックス)の大爆発
?広島の躍進
?DeNA打線の低迷

「ペーニャはアメリカにいた頃から知っている選手ですが、パワーはメジャーの中でも群を抜いていました。その一方で、確実性がありませんでした。だから、打率は残しても.220ぐらい。それが今年はホームランだけでなく、状況に応じてヒットを狙いにくる(打率.269、10本塁打、23打点)。これは大きな進歩だと思います。オリックスの快進撃は間違いなく彼の力によるところが大きいですね。チームだと広島の躍進ですね。昨年も3位に入り、チーム力があるのはわかっていたのですが、大竹寛がFAで巨人に移籍し、先発がどうなるのかなと思っていたら、ルーキーの大瀬良大地(5試合、3勝1敗、防御率1.89)と九里亜蓮(6試合、2勝1敗、防御率4.30)が穴を埋めた。若い力が出てくるあたり、今の広島の勢いを感じます。あと、誤算といえばDeNAですね。実は、今年のDeNAの打線にはかなり期待していました。かなり打つんじゃないかと......。シーズンが始まってブランコが戦線離脱したことも大きいと思うのですが、それでももっと打つかなと思っていました。現在、チーム打率、得点ともリーグ最下位。もっと打線が活発になってくればこれから面白い戦いができると思うのですが......」

与田剛(第2回、3回WBC投手コーチ)

?菅野智之(巨人)の成長
?二刀流・大谷翔平(日本ハム)の活躍
?オリックスの快進撃

「2年目の菅野の成長ぶりには驚きですね(6試合、5勝0敗、防御率1.89)。自分が投げる試合は最後まで投げきるんだという気迫。それでいて冷静に打者を打ち取る投球術。マウンドでの姿はすでにエースの風格が漂っています。今年の菅野のピッチングを見て思うのは、ストレートへのこだわりです。昨年のシーズン終盤は変化球に頼ったピッチングになっていたのですが、今年はストレートを軸に勝負しています。それだけ自信がある証拠だと思います。2年目でいえば、二刀流に挑戦中の大谷翔平の活躍も目立ちます。バッティングに関しては、本当に"天才"じゃないかと思うぐらい、簡単にヒットを打ってしまう(打率.393、1本塁打、12打点)。高卒2年目の打者のレベルではありません。あれほどレベルの高いバッティングをするとは思っていませんでした。一方、投げる方でも大きな進歩が見られます(4試合、2勝1敗、防御率2.86)。変化球でもストライクが取れるようになって、投球の幅が広がりました。決め球であるフォークの精度も上がっていますし、打者を打ち取れるパターンができたことが何よりも大きい。もう少し細かいコントロールがついてくると、もっと勝てると思います。本物の二刀流になりつつあります。チームに目を向ければ、やはりオリックスですね。元々、投手力に定評のあったチームですが、今年は打線がいい。李大浩(イ・デホ)、バルディリスが抜けてどうなるかと思われましたが、逆に競争原理が生まれていい雰囲気が生まれました。特にペーニャ、T−岡田(打率.333、3本塁打、12打点)の活躍には目を見張るものがあります。彼らをうまく生かす環境作りができたのでしょうね」

◎飯田哲也(元ヤクルトコーチ)

?松井裕樹(楽天)の二軍降格
?上本博樹(阪神)の活躍
?オリックスの快進撃

「正直、松井はもっとやれるだろうと思っていたので残念ですね(4試合、0勝3敗、防御率6.05)。キャンプ、オープン戦で彼のピッチングを見て、あれだけの球を投げられるのだったら、一軍でも十分に通用すると思っていました。ただシーズンに入ると、オープン戦の時のような思い切りが消え、慎重に投げようとしすぎていたような印象を受けました。コントロールばかりに気を取られ、持ち味である腕の振りの良さが消えてしまいましたね。セ・リーグでは上本の活躍が目立っています(打率.333、1本塁打、12打点)。開幕シリーズの巨人戦で西岡剛が負傷して戦線離脱。その穴を上本が十分過ぎるぐらい埋めています。もともと評価の高かった選手ですが、なかなか出場機会に恵まれず、昨年は開幕前のケガでシーズンを棒に振ってしまいました。ただ、これだけの活躍をすれば西岡が戻ってきたとしても控えにはできないでしょう。そうしたチームの底上げが今の好調さにつながっていると思います。チームだと、やはりオリックスですね。開幕前は最下位に予想していたのですが......とんでもなかったですね(笑)。好調の要因は打線でしょうね。もっと苦戦すると思っていたのですが、うまく足を絡めて少ないチャンスをものにできています。森脇監督の目指す野球が浸透してきた証拠でしょうね。この勢いはしばらく続くと思います」

◎吉井理人(元日本ハムコーチ)

?社会人出身ルーキーの活躍
?巨人リリーフ陣の崩壊
?広島の躍進

「今年はルーキー投手の活躍が目立っています。なかでも、ロッテ・石川歩(5試合、3勝1敗、防御率1.19)、オリックス・吉田一将(3試合、2勝0敗、防御率1.65)は、さすが社会人出身の投手だなと感心しました。彼らに共通しているところはマウンドでの落ち着きです。ボールが先行しても慌てる素振りを見せません。コントロールに自信がある証拠なのでしょうが、1年目のピッチャーとは思えない冷静さがあります。一方、逆の意味で驚いたのが巨人リリーフ陣の崩壊です。山口哲也(10試合、0勝2敗、防御率9.00)、マシソン(15試合、2勝2敗4S、防御率6.60)、西村健太朗(12試合、1勝1敗5S、防御率3.65)の3人が揃って不調とは誰も想像しなかったと思います。選手層の厚さで何とか今の順位(3位)をキープしていますが、リリーフ陣がこのままの調子だと厳しい戦いになるかもしれません。その巨人がもたついている間に、セ・リーグの首位を走っているのが広島です。シーズン前から評判は良かったのですが、4月を終えて首位にいるとは思いませんでした。その原動力はリリーフ陣です。中田廉(9試合、2勝0敗、防御率0.00)、一岡竜司(13試合、1勝0敗、防御率0.00)、永川勝浩(12試合、1勝0敗、防御率1.54)、ミコライオ(11試合、0勝0敗8S、防御率0.87)の4人の活躍は素晴らしい。ボールに力があって、コントロールもいいので、点を取るのは至難の業だと思います。彼らの存在が、先発陣はもちろん、攻撃陣にも大きな影響を与えているのは間違いありません」

◎槙原寛己(元巨人)

?阪神の好調ぶり
?レスリー・アンダーソン(巨人)の活躍
?阿部慎之助(巨人)の不振

「広島の躍進は開幕前からある程度予想していましたが、いい意味で予想を裏切られたのが阪神です。正直、ゴメスがダメだったら首位争いはしていないと思うんです。それだけゴメスの存在は大きいです(打率.325、5本塁打、34打点)。ただ、キャンプ、オープン戦を見て、ここまで活躍すると予想した人はほとんどいなかったでしょう。調整不足は明らかでしたから。でも、シーズンが始まるとあの活躍ですからね。本当に外国人選手はわかりません(笑)。外国人でもうひとり期待を裏切ってくれたのが、アンダーソンです。最初キャンプで見た時は打ち方もぎこちなく、インコースの球に苦労するだろうなと思っていました。それがシーズンに入ると、インコースの球は腰をうまく回転してさばくし、外の球もうまく対応できる。変わり身の大きさに驚きました。その一方で、チームメイトの阿部慎之助は開幕から苦しんでいます(打率.218、4本塁打、6打点)。阿部もベテランですので、常に体調が万全という日はないと思います。それでも、ここまで打てないとは予想していませんでした。巨人は彼が中心にいないとダメなチームですので、これからどんな巻き返しを見せてくれるのか楽しみです」

◎野村弘樹(元横浜コーチ)

?エルドレッド(広島)の覚醒
?二刀流・大谷翔平(日本ハム)の活躍
?ルーキーの明暗

「広島が上位にいることに驚きはないのですが、エルドレッドがここまで打つ(打率.381、9本塁打、27打点)とは予想外でしたね。来日2年目で日本の野球にも慣れてきたと思うのですが、すごく研究熱心なのがわかります。例えば、凡退した打席でもどうして打ち取られたかを反省し、次の打席に生かしています。だから、次の打席ではしっかりと狙い球を絞って打席に入っている。ピッチャーとしては脅威です。パ・リーグでは大谷ですね。キャンプ中はほとんどバッティングをしていないと聞いていたのですが、あれだけのバッティングをできるんですからね。本当にすごい選手です。ピッチャーとしても確実に成長していますし、可能な限り二刀流挑戦を続けてほしいですね。もうひとつ挙げるとすると、ルーキーの明暗ですね。大瀬良大地、石川歩、吉田一将らの活躍が目立っていますが、その一方で、オープン戦で好調だった楽天・松井裕樹、ロッテ・井上晴哉(打率.204、1本塁打、6打点)が苦しんでいます。松井の場合は、オープン戦の時とシーズンに入ってからの打者のスイングの違いに驚いたのかもしれません。厳しいところを突かないとやられてしまうと思ったのか、コースを狙いすぎていた印象を受けました。井上に関しては、打てないコースを徹底的に調べられ、執拗に攻められました。プロのレベルの高さを痛感したと思います。ただ、ふたりとも一軍で結果を出すだけの力があるのは実証済み。ここからどう這い上がっていくのか楽しみですね」


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