今季の岡崎慎司は活き活きとプレイしている。昨季はシュツットガルトで出場機会に恵まれずわずか1得点に終わったが、今季は心機一転を図った新天地マインツで、自身最多となる11得点を記録する活躍ぶりを見せている。5試合を残して、香川真司が打ち立てた日本人欧州主要リーグ最多13得点の更新へあと3ゴールと、期待は膨らむばかりだ。

 なぜ岡崎は今季ゴールを量産できているのだろうか? それはマインツのプレイスタイルと決して無関係ではないだろう。

 昨季まで所属したシュツットガルトが、前線に能力の高い選手を集めて個人技での突破を狙うスタイルだとすれば、マインツはよりチーム全体で連動してゴールを狙うチームだ。とりわけ中盤で守備ブロックを築き、ボールを奪ってからショートカウンターを仕掛けるスタイルは、岡崎が得意とする裏への飛び出しを最大限に活かしている。

 ボールを奪われた瞬間というのは、守備陣形が整わず背後のスペースへのケアも疎(おろそ)かになりがちだ。その隙を突くべく、マインツは守備から攻撃への切り替えを素早く行ない、岡崎の飛び出しを可能にしている。事実、岡崎が今季これまでに奪っている11ゴールのうち、実に7ゴールは裏への飛び出しから生まれたものだ。

 今季の初ゴールもそんな裏への飛び出しから生まれた。マインツの今季開幕戦(8月11日)の相手は奇しくも古巣シュツットガルト。岡崎は右SBのポスペヒからスルーパスを受けると、左足で冷静にゴールへ流し込んでみせた。

 試合前日、岡崎は2年半の間ともにプレイし、プレイスタイルもよく知るかつてのチームメイトなら「こう来るだろう、それならここを狙おう」と思い描いていたという。古巣相手ということでゴールを決めてもあまり喜ばないようにと考えていた岡崎だったが、久しぶりのゴールに思わずガッツポーズが飛び出してしまった。得意の飛び出しから奪った得点だったが、このゴールにはもう一つ重要な要素があった。ゴール前での駆け引きだ。

「落ち着いて股の下を狙って打てたので、自分にとって大きなゴールかな、と。今までだったらワンテンポ早く打っていたと思うんですけど、一回待ってのシュートだったので。ああいうところ(ゴール前での駆け引き)がゴールに繋がるんだなと思いました」

 このシーン、エリア内で受けた岡崎は左足にボールを持ちかえシュート体勢に入った。しかし、DFがコースに入ってきたため、シュートを放つタイミングを、DFの股が開くまで待ったのだ。

 時間もスペースもないゴール前で、1テンポでもシュートのタイミングを遅らせるというのは、相手DFに寄せられてしまう可能性があるため勇気のいる決断だったが、岡崎は感覚で「もう一個、待っても大丈夫だな」と判断を下したのだという。この得点はゴール前での駆け引きに自信を持つことができたという意味でも、岡崎にとって大きなゴールだった。

 裏への飛び出しからゴールを狙う上で欠かせないのがファーストタッチの精度だ。背後のスペースに飛び出してもスムーズなトラップでボールを持ちださなければ、戻ってきたDFにブロックされてしまう。だが、岡崎の飛び出しからトラップ、そしてシュートまでの一連の動きは非常にスムーズで、スピードが落ちない位置にファーストタッチでボールを運ぶことができる。そんな岡崎の驚くべきファーストタッチが発揮されたのがハンブルク戦(12月21日)だった。

 同点で迎えた後半ロスタイム、ハーフウェーライン付近からペナルティ・エリア手前まで走ってきた岡崎はDFの背後のスペースへ飛び出す。岡崎の動きを見た味方が浮き球のパスを送るも、相手DFに当たって軌道が変わり、ボールは岡崎の顔の前に飛んできてしまった。しかし岡崎は頭でボールをトラップすると、そのまま右足で押し込み決勝点を挙げたのだ。トップスピードのまま走り込み、とっさに頭でボールをトラップしたこのプレイは、岡崎の質の高いファーストタッチを象徴するゴールであった。

 ストライカーというのは、言ってしまえば1試合の中で1度でもチャンスをモノにできればいい職業だ。第15節ニュルンベルク戦(12月6日)、マインツは相手に主導権を握られ苦しい戦いを強いられることになった。先制を許すとさらにチャンスを作られ、後半もペースを握ることはできなかった。しかし、岡崎が1度のチャンスをモノにしてドローに持ち込んだのだ。

 貴重な同点ゴールを奪った岡崎だが、劣勢の中でなかなか前線に起点を作ることができず、相手の背後を狙ってもオフサイドになることが多かった。だが、岡崎にとってそれは必要な作業だった。

「(オフサイドに関しては)もう善し悪しというか、自分の中で1個(相手の背後に)抜けられれば勝ちかなと思っている。ホントにそれこそ(パク・)チュホとタイミングが合ったみたいに、(タイミングが)合えば自分に来ると思うので、チームにはそれだけ迷惑がかかるかもしれないけど、一発(点を)取ったらチームのためになると思う」

 たとえチームに迷惑がかかろうと、試合を通して「一発」を狙い続け、そのなかの1つでもモノにできればそれがチームのためになる。攻撃でも守備でもチームのために献身的にプレイするイメージのある岡崎だが、ストライカーとしてやるべき仕事はしっかりと果たせている。今季から岡崎は1トップとして起用されるようになり、ゴールへの期待はより高まった。1トップとしてプレイすることは、チームで最もゴールに対する責任を背負うことを意味する。そんな重圧の中で岡崎がその役割を果たしたのがこのゴールだった。

 岡崎が活躍するほど、相手からの警戒は強くなっていく。そのなかでゴールを奪うのは容易ではないが、それを乗り越えていくことで次のステップへ進むことができる。岡崎は今季あと何ゴール積み上げることができるのだろうか?

山口裕平●文 text by Yamaguchi Yuhei